緘黙経験者がミス・ノルウェーの候補に、緘黙啓発も

2018年02月18日(日曜日)

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場面緘黙症を経験したMarte Fredriksenさんという方が、ミス・ノルウェーのセミファイナリストに残っています!お名前はおそらく「マルテ・フレドリクセン」さんと読むのではないかと思います。

マルテさんは現在21歳で、17歳の頃からモデルとして活動されています。コンテストへの参加を通じて、緘黙やメンタルヘルスの問題を多くの人に知ってもらいたいと考えていらっしゃいます。

セミファイナルに残ったのは、150人の中から選ばれた11人。ファイナリストは3月に決まるそうです。ミス・ノルウェーは、ノルウェーを代表して、ミス・ユニバースなどの国際大会に出場します。

緘黙とミスコンテストと言えば、Kirsty Rose Heslewood(カースティ・ローズ・ヘイズルウッド)さんが思い出されます。緘黙を経験された方ですが、ミス・イングランド2013、さらに、ミス・イギリス2013に輝きました。緘黙の認知度向上に貢献されています。

マルテさんも、カースティさんのように飛躍されることを願っています。

※ マルテさんのYouTube動画の1つ。結構ひょうきんな動画を公開されています。






専門家が最大1週間マンツーマン-英国の集中プログラム

2018年02月14日(水曜日)

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米国発祥の集中プログラム


これまでお話してきたように、アメリカでは、場面緘黙症の子どもを対象とした集中治療プログラムが各地で行なわれています。ニューヨークにあるChild Mind Instituteという施設のBrave Buddiesがその代表です。最近では、より高年齢層の10~14歳向けプログラムも始まりました(10~14歳向けプログラムについては、日本でも昨年、BBCワールドサービスで放送されました。現在でもインターネットで視聴できます)。

この集中プログラムは、アメリカで急速に広まりました。ここまで広まると、今度はアメリカ国外にも広まるかどうかが、私には気になります。特にイギリスにまで広まると、その意味は大きそうです。なにしろ、緘黙支援は北米とイギリスがツートップというのが私の大雑把な印象です。英米両国で集中プログラムが行なわれるようになると、他国にも影響が及ぶでしょう。日本でも、いよいよ見逃せなくなります。

実はイギリスでも近年、アメリカの技法に影響を受け、独自の集中プログラムを行なう専門家が現れました。今回は、そのお話です。


米国から影響を受けた、英国の集中プログラム


イギリスで集中プログラムを行なうのは、チャイルドセラピストのルーシー・ネイサンソン(Lucy Nathanson)氏。Confident Childrenという団体名で緘黙支援に当たる方です。ネイサンソン氏は2016年7月にニューヨークを訪れ、集中プログラムBrave Buddiesの実施に参加されたそうです。なお、この方については、先日の記事「『学校の先生には、緘黙の本を読む時間はない』(海外)」でもお話しています。

ネイサンソン氏の集中プログラムを私なりにまとめてみました。私は専門家ではないのでよく分からないのですが、だいたい次の通りではないかと思います。

○ 3日から5日間、1つの家族に対して行なう
○ 緘黙児の不安を和らげ、そこでゲームとして発話をしたりといった経験を、ネイサンソン氏と一緒にスモールステップで楽しく積む
○ まずは家庭場面で始める、緘黙児が話せない大人を入れることもある
○ お店など近所や、学校でも行なう
○ こうした技法や緘黙児への接し方を、親や学校関係者などにも教える

プログラムの実施にあたっては、特定のゴールを設定し、準備と計画の策定を詳細にわたって行います。準備や計画は親と一緒に行ないます。計画の内容はその子によって違いますし、取り組みの速さもその子のペースによります。

この最大1週間のプログラムで、緘黙の完治までには至りません。この技法を親や学校関係者などに教えるのも、プログラム終了後を見据えてのことです。

ネイサンソン氏は集中プログラムの利点として、子どもがスモールステップの歩みに勢い(momentum)をつけることができることを挙げています。週1回などの従来の取り組み方だと、1週間の間隔(week gap)が開いてしまうというのです。


ネイサンソン氏の集中プログラムの独自性


ネイサンソン氏の集中プログラムは、アメリカのものを独自にアレンジしたものです。アメリカの集中プログラムは集団で行なうのですが、ネイサンソン氏の場合、個別に行ないます。

それにしても、専門家が最大1週間1家族を相手にするとは、贅沢な話です。日本では、少数しかいない緘黙専門家に相談予約が殺到することがあるという話を聞いたことがあります。日本では専門家の人手不足により、そこまではできないのではないかと思います。また、専門家がそれだけ長時間関わるとなると、費用も気になります。

それから、家庭環境から初める方法もアメリカの集中プログラムにはなく、ネイサンソン氏独自のものです。


ネイサンソン氏、英国内外にも影響を与えるか?


ネイサンソン氏は、2017年にポーランドで開かれたLanguages and Emot!onsという会議で、この集中プログラムの事例研究を2例紹介しています。次の動画の22分27秒頃からです。スピーチは英語、プレゼンテーション資料はポーランド語という珍しい動画です。



ネイサンソン氏は、海外の方とも交流されているようです。12月の最初の1週間だけでも、Skypeでイギリス、カナダ、オーストラリア、サウジアラビアの緘黙児の保護者と話をしたとFacebookに投稿されたことがあります。その投稿の翌日にも、スリランカとロシアの親と話をする予定が入っていたそうです。

ネイサンソン氏はイギリスではもちろんですが、このように国際的にある程度知られた方なのかもしれません。ネイサンソン氏の影響を受け、集中的な技法が、今後さらに各国に広まる可能性もあると思います。アメリカの集中プログラムは集団で行なう大掛かりなものですが、ネイサンソン氏の個別に行なう技法であれば、模倣はしやすいでしょう。


集中プログラム、既に世界に広がり始めているかも


なお、アメリカで始まった集中プログラムは、今回お話したイギリス以外にも、既に広がり始めている節があります。

詳細は分かりませんが、香港で同種のプログラムが行なわれたという情報があります。Kurtz Psychologyウェブサイトの、このページ最下部にある情報です。ここにお名前が載っている"Dr. Ortega"とは、Melissa Ortega氏のことと思われます。同氏は以前、ニューヨークのChild Mind Instituteに勤務し、ここの集中プログラムの開発にも関わっていました。

また、これまた詳細が分からないのですが、イスラエルでも1週間にわたる集中的介入が行なわれているようです。Ruth Perednik 氏のウェブサイトに書かれてあります。




昭和56年に出た、知られざる緘黙の専門書

2018年02月08日(木曜日)

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流王治郎『子供の緘黙症』


1981年(昭和56年)に、緘黙症の本が出ています。流王治郎『子供の緘黙症』という本です。おそらくは専門書で、分量は210ページあるそうです。ところがこの本、ほとんど知られていないのではないかと思います。私も手に取ったことはありません。

↓ この本の情報。国立情報学研究所のサービス Webcat Plus へのリンクです。
◇ 子供の緘黙症
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おそらくはメジャーな流通に乗らなかった本で、それゆえ知られていないのかもしれません。出版元と思われる「五和工芸」は、インターネットで検索してもほとんど何もヒットしません。また、大学図書館の本を探せる「CiNii 図書」で検索しても、所蔵図書館は倉敷市立短期大学付属図書館のみという結果です。


流王氏は1960年代に、緘黙の研究発表を行なっていた


ただ、著者の流王治郎氏は、見覚えがあるお名前です。1960年代に緘黙の研究発表を行っており、関連文献を読んだことがあるのです。私が把握している流王氏の緘黙関連文献は、以下の通りです。いずれも、著者の所属は岡山県中央児童相談所です。

○ 流王治郎 (1962). 心因性無言症の研究ー症例を中心としてー. 臨床心理, 4(2), 36-42.

○ 佐藤修策・繁永芳己・流王治郎 (1963). 児童における行動異常の研究ー場面緘黙ー. 日本心理学会大会発表論文集第27回. 382.

次のものは学会発表です。1967年の『児童精神医学とその近接領域』第8巻1号19-20ページに収録されています。

◇ 緘黙児の臨床的研究 I. 発生要因について
流王治郎・篠原清彦・佐藤修策

◇ 緘黙児の臨床的研究 II. 心理療法について
佐藤修策・篠原清彦・流王治郎


この時代に緘黙の専門書が出ていても、不思議ではない


1981年(昭和56年)という時代に、緘黙の専門書が本当に出ていたのだろうかといぶかしく思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが、私は十分にあり得ると思います。

というのも、1973年(昭和48年)には、十亀史郎『講座情緒障害児 第3巻 自閉症児・緘黙児』という200ページほどの本が出ているからです。また、翌1974年(昭和49年)には、全国情緒障害教育研究会編『情緒障害児の教育-緘黙・孤立児-』という、これまた200ページほどの本が出ています。

1986年(昭和61年)には、山本実、中山文雄編著『緘黙症・いじめ-正子の場合-』という、例によって200ページほどの本が出ています。こうした時代背景を考えると、緘黙の専門書が1981年(昭和56年)に出ていても不思議ではないというのが私の見方です。


もっと広く流通していたら


流王氏は先の1962年の論文の中で、次のように述べています。

従来、心因性無言症について、一括して論ぜられている傾向があった。われわれはその原因、症状、無言場面などから、心因性無言症を細分して考察するのがよいと考える。(41-42ページ)

心因性無言症の原因を明きらか(原文ママ)にするのは難しいことであるが、その発生原因として、素因的なものと誘因的なものに分けて考えるのがよいと思う。(43ページ)

現在でも通用しそうな視点です。流王氏の著書がもっと広く流通していたらと思います。