子どもの不安症に関心ありますか?

更新日:2018年12月15日(投稿日:2018年12月15日)
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英語圏では、子どもの不安症への関心が、日本より高い?


詳しいことは分からないのですが、以前から漠然と感じていたことをお話しします。

英語圏では、子どもの不安症(不安障害)への関心が、日本より高い印象を受けています。「日本においては、不安障害が子どもの保健医療の主たる問題として扱われることは少ないかもしれない」という専門家の指摘もあります(石川, 2012, pp.59-60.)。

日本のかんもくネットは子どもの認知行動療法の本をホームページで紹介していますが、どれも海外の本を翻訳したものばかりです。個人的にも、この種の本は日本よりも英語圏で目にすることの方が多いです。この分野は海外の方が強いのでしょうか。

◇ かんもくネット~書籍案内~
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こうした背景があるためか、場面緘黙症に関する英語圏の情報に接していると、子どもの不安症(不安障害)に関する情報を目にすることがあります。例えば、以下のリンクでは、英語圏の緘黙団体が、子どもの不安症に関するウェブページへのリンクを紹介しています(どれもほぼ同じサイトの紹介ですが……)。

アメリカ
◇ Selective Mutism Association
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アメリカ
◇ SMart Center
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イギリス
◇ Confident Children
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オーストラリア
◇ Selective Mutism Australia
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英語圏では子どもの不安症という分野の裾野があって、その中で、緘黙への関心が払われている印象です。

※ これとの関係は不明ですが、緘黙は不安症と考えられるようになったのも、英語圏の専門家が果たした役割が大きいです。日本の専門家はこの点何も貢献していません。


日本では子どもの不安症への関心が低い中、緘黙を不安症として理解を促している?


日本ではこのように子どもの不安症への関心という背景が薄い中、緘黙は不安症として理解を促そうというのが昨今の状況ではないかと感じています。

日本では、緘黙は学校教育の分野で「情緒障害」として扱われてきた歴史があります。最近では、発達障害という文脈で緘黙が扱われることもあります。英語圏とは、このあたりが違います。

近年、日本では、緘黙関係者が吃音関係者と連携する動きが活発な一方で、不安症への注意があまり払われていない印象があります。これもそうしたことが背景にあるのかもしれません。緘黙と吃音が似ていることがこれほど強調される国は日本とイギリスぐらいで、国際的な傾向では実はありません。

日本では緘黙は不安症であるという理解は、緘黙関係者の間では、本当の意味で共有されていないのかもしれません。もしくは、日本独自の理解が共有されているというべきかもしれません。あくまで漠然と感じたことですけれども。




文献


◇ 石川信一 (2012). 子どもの不安障害:認知行動療法の実践と成果. 日本保健医療行動科学会年報, 27, 59-67. http://www.jahbs.info/journal/pdf/vol27/vol27_3_2.pdf

Low profile SM-ほんの少し話すばかりに見過ごされる

更新日:2018年12月09日(投稿日:2018年12月09日)
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目立たない緘黙


場面緘黙症というと、特定場面で「全く」話せないという説明がなされることがあります。

確かに全く話せない緘黙児者もいます。ですが、「全く」話せない状態に限定するのは狭すぎではないかなと、非専門家ながらに思います。

イギリスの緘黙治療の本 The Selective Mutism Resource Manual(第2版) は、緘黙をもう少し広くとっています(Johnson and Wingtgens, 2016, p.31)。診断基準とされる米国精神医学会のDSM-5に「この障害がある子どもは発話を始めたり、他の人に話しかけられた際に相互に返答したりはしない」 (Children with this disorder do not initiate or reciprocally respond when spoken to by others) という記述があることから、「緘黙児は最小限に、しかし、相互的、会話的でない形で返答することはあるかもしれない」 (they may respond minimally but not in a reciprocal, conversational manner) と解釈しています。

そして、このように最小限に返答する緘黙を、「目立たない緘黙」 (low-profile SM) と呼んでいます。こうした子どもは、その高い不安レベルが認識されないかもしれないため、学校では特に脆弱であるとのことです。下手に話すために、ただの恥ずかしがり屋であると思われて見過ごされてしまうということなのでしょう。

そして、適切な支援がなければ、多くの目立たない緘黙の子は「目立つ緘黙」(後述)のパターンが顕在化するまで次第に話さなくなっていくか、目立たない緘黙がある大人になると述べています。

一方、全く話せない緘黙を「目立つ緘黙」 (high profile SM) と呼んでいます。


緘黙と認識されない子がいるかも


合点がいきそうな話です。そうだとすると、色々思うところがあります。緘黙を経験した人の中には、適切な対応をとってもらえなかったと主張する人も多いですが、もしかしたらそうした人たちの中には最小限の返答ぐらいはできた人が多く、そのために問題視されなかった人もいるかもしれません。

緘黙が知られるようになっても、「この子は最小限の返答はするから緘黙ではない」として、適切な支援が行われないといったことも起こらないとも限りません。

もっとも、最小限に返答する緘黙は本当に目立たないかどうかは、私が知る限り、しっかりしたかたちで検証は行なわれていません。そうした研究発表の情報は確認できません。「目立たない緘黙」の長期経過についても、はっきりしたことはまだ明らかになっていないのではないかと思います。実際、先のイギリスの本は、このあたりについて、根拠となる文献を挙げていません。今後の研究が待たれます。

どちらにしろ、緘黙を「全く」話せない状態に限定すると、「目立たない緘黙」を見過ごす以前に、除外することになります。「目立たない緘黙」という呼び方は、この意味では分かるような気もします。





1988年NHK「『なぜ学校で声が出ないの?』―緘黙症の子どもたち」

更新日:2018年12月03日(投稿日:2018年12月03日)
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岩手大学の山本実教授(故人)の足跡を、最近インターネット上でいくつか見つけました。一般的な検索エンジンで検索しただけでは見つけにくい情報もあります。ご紹介します。

山本実教授とは


まず、簡単なおさらいをすると、山本教授は1980年代に緘黙の本を3冊出版された方です。 『緘黙症・いじめ-正子の場合』(1986年)『「緘黙」への挑戦』(1988年)『「学校かん黙」事典』(1989年)の3冊です。ただ、これらは一般流通した本ではないためか、現在あまり知られていません。

また、山本教授は同時期に、緘黙のことでNHKの番組「おはようジャーナル」「ファミリージャーナル」に出演されたり、『読売新聞』の取材を受けたり、教育系雑誌に執筆をされたりしています。80年代末期に緘黙のことでこれだけの活動をした方がいらしたことは、特筆に値します。

詳しくは、以下の記事でまとめています。

◇ もう一人の緘黙研究者
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さて、最近見つけた山本教授の足跡は、次の3件です。


1988年NHK「『なぜ学校で声が出ないの?』―緘黙症の子どもたち―」


先ほどお話したNHKの番組の出演情報が、NHKホームページに掲載されています。

◇ 番組表検索結果 | NHKクロニクル
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「おはようジャーナル」「ファミリージャーナル」出演の事実が、NHKの公式ホームページで裏付けられた格好です。

タイトルの「『なぜ学校で声が出ないの?』―緘黙症の子どもたち―」ですが、時代性が反映されていると感じます。まず、現代では「学校」「子ども」に限ることはしないことも多いかもしれません。現代でも「学校」での「子ども」の緘黙は極めて重要なテーマですが、その一方で、成人期の緘黙が以前より注目を集めています。また、現代のメディアは「緘黙症」より「場面かん黙」「場面緘黙」という名称を使うことが目立ちます。

出演番組のうち「おはようジャーナル」ですが、ホームページの記述から、1988年(昭和63年)11月2日(水曜日)8:30~9:29に、NHK総合とNHK衛星第2で同時放送されたことが分かります。今からちょうど30年前です。奇しくも時代は昭和最末期、新元号前夜です。出演者に校成病院の内田良子氏のお名前もありますが、この方も緘黙との関連で出演されたのでしょうか?

また、「ファミリージャーナル」は、その20日後の1988年(昭和63年)11月22日(火曜日)21:40~22:15に、教育テレビでの放送です。NHKホームページの記載から窺うと、「おはようジャーナル」の内容を再放送したもののようにも思えます(個人的な推測です)。

なお、NHKには「番組公開ライブラリー」というものがあり、一部の過去の番組は、全国のNHKの放送局など57箇所にある施設で無料視聴できます。しかし、この緘黙の放送については、NHKホームページによると、番組公開ライブラリーでは視聴できないようです。


教育雑誌の掲載状況


次に、国立国会図書館オンラインでは、山本教授が執筆した記事の掲載状況が確認できます。

◇ 教育心理 36(2) | 書誌詳細 | 国立国会図書館オンライン
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◇ 小五教育技術 42(12) | 書誌詳細 | 国立国会図書館オンライン
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注目したいのは、『小五教育技術』です。「<特集> 『学校緘黙症』の子に、こう取り組む!!」として、約10ページの内容が組まれています。


盛岡市立図書館の科学講演会


あと、盛岡市立図書館で長年行なわれている講演会「科学談話会」で、山本教授が講師を担当されたことがあるという情報があります。

↓ 第443回です。情報が多いので見つけにくいかも。
◇ 科学談話会70年の歩み(その2)
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↓ 科学談話会について。
◇ 科学談話会
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1990年(平成2年)4月20日に「学校緘黙症について」の題目で開催、参加者数は31名だったそうです。


むすび


山本教授の足跡について、新たな情報を確認できました。現在よりもさらに緘黙の先行研究が乏しく、緘黙そのものも知られていなかったこの時期にこれだけの活動を展開された方がいらしたことには、やはり注目したいです。