緘黙だと、仕事はどうする

更新日:2018年10月19日(投稿日:2018年10月19日)
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場面緘黙症で心配なことの一つは就労、仕事でしょう。コミュニケーション能力が重視される現代において、仕事に就くことができるか、職場でうまくやっていくことができるのか、これは大きな問題だろうと思います。

2017年に行なわれた「大人のかんもくフォーラム」では、「今後、取り上げてほしいテーマは?」との問いに対する回答が、就労・仕事・就職:14名、大人の緘黙:7名、子どもの緘黙:7名、二次症状・後遺症:5名他とのことでした。就労への関心の高さを窺わせます。

↓ かんもくフォーラムの Facebook ページへのリンクです。Facebook に登録されていない方でもご覧になれます。
◇ 【8/1 講演会 質問用紙への回答(2)】  
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ですが、緘黙と仕事に関しては情報が少ないです。私も知るところは少ないです。ですが、関心の高そうな話題ですので、ここで分かる範囲でまとめてみたいと思います。

代表的な対策


ヒントになりそうな情報として、2015年8月に行なわれた「かんもくフォーラム」での、質問用紙への回答があります。「緘黙の後遺症がある場合、社会でどう働くことができるでしょうか?」 という問いに対して、長野大学の高木潤野准教授が代表的な回答のパターンを4つ挙げています。

↓ かんもくネットフォーラムの Facebook ページへのリンクです。Facebook に登録されていない方でもご覧になれます。
◇ 【8/1 講演会 質問用紙への回答(2)】  
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その4パターンは以下の通りです。

○ 手帳(精神障害者保健福祉手帳)を取得して障害者枠での就職を目指す
○ 緘黙状態でもできる仕事を選ぶ
○ 理解のある職場を選ぶ/作る
○ 後遺症を治す

よくまとまっているので、これを足掛かりに考えたいのですが、今回は緘黙があることが前提での話なので、治すことを省いた3パターンで考えるのがよいと思います。

手帳(精神障害者保健福祉手帳)を取得して障害者枠での就職を目指す


緘黙は、緘黙は精神障害者保健福祉手帳の対象とされています。障害者枠と一般枠のどちらで就職するかは、一つの判断だろうと思います。

↓ 「続・緘黙基礎知識」の記事へのリンクです。
◇ 緘黙は精神障害者保健福祉手帳の対象。根拠は?
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先の高木准教授のお話でも、手帳を取得して就職するという例を聞いたことが実際にあるということでした。また、緘黙児支援のための情報交換ネットワーク団体「かんもくネット」の会員やそのお子さんたちの中でも、そうした例があったそうです。

↓ 「かんもくネット」ホームページへのリンクです。
◇ かんもくネットKnet News 2015年10月
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手帳を受けるためには、その精神疾患による初診から6ヶ月以上経過していることが必要になるので、ギリギリの準備は避けたいです。


緘黙状態でもできる仕事を選ぶ


「話さなくてもできそうな仕事」は、実際にその職に就いている方に言わせると、案外話し言葉によるコミュニケーションが仕事の重きをなしている場合もあるので要注意です。

mixiコミュニティ「場面緘黙症」には「緘黙の人に向いた仕事」というトピックがあり、mixiに登録されていない方でも、かなりの程度ご覧になれます。このトピックには実際に働いている方からの投稿が何件もあり、参考になります。

↓ mixiへのリンクです。
◇ 緘黙の人に向いた仕事
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日本では、新聞配達をされている富山の成人当事者の話をメディアでよく目にします。新聞配達のアルバイトも、人と話せなくてもできそうな仕事ではあります。ポスティングの仕事なら私もアルバイトで少し経験があるのですが(新聞ではない)、確かにポスティング作業だけをとってみると、人と話す必要はありませんでした。

海外の例だと、スイスやオーストラリアで、写真家として活動されている成人当事者の記事を2例目にしたことがあります。写真を撮ることも、話せなくてもできるとのことでした。このお二方は、話し言葉以外の代替コミュニケーションを活用されています。

◇ 大人の緘黙当事者、非言語コミュニケーションで生きる(スイス)
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◇ 結婚して子どもがいて、就労もしている-ある豪州の成人当事者
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緘黙サイトの老舗「場面緘黙症専用」を運営する俊太さんは、ネットビジネスを提案されています。中古品の転売で、実際に俊太さんは7年くらいネットビジネスのみで生活をされているそうです。

↓ 「場面緘黙症専用」へのリンクです。ネットビジネスについては、最後の方をご覧ください。
◇ 緘黙で仕事が続かない!その解決方法はこれしかない
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理解のある職場を選ぶ/作る


理解のある職場を「作る」とは、理解のある職場を「作る」という意味です。こちらから理解を訴えるわけです。

職場の理解を得ることができれば、先ほどの障害者枠で働く場合でも、緘黙でもできる仕事を選ぶ場合でも、より働きやすくなるでしょう。先ほどリンクを貼ったかんもくネットホームページでは、青年・成人用場面緘黙リーフレットが公開されています。理解を得る際に役立つことがあるかもしれません。

↓ 「かんもくネット」ホームページへのリンクです(再掲)。「青年・成人用 リーフレットを作成しました。」
◇ かんもくネットKnet News 2015年10月
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その他(面接について)


「場面緘黙を考える会 富山」では、次のような意見が出たことがあるそうです。

「面接を心配する人が多いが、面接は質問がだいたい決まっているので、まだしゃべりやすいことが多い。予行練習も可能。まったく知らない人の方が声は出やすいことが多い」

↓ 場面緘黙を考える会 富山の Facebook ページへのリンクです。Facebook に登録されていない方でもご覧になれます。
◇ 前回会合で出た意見を下記のようにまとめてみました☆
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ただ、個人面接はよくても、グループ面接やグループディスカッションとなるとどうでしょう。エヌジマさんという緘黙を経験された方は、就職活動時は緘黙が改善していたそうですが、グループ面接や、特にグループディスカッションで苦戦されたそうです。練習が足りなかったのではと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、エヌジマさんの場合、「練習してもどうにもならなかったかなというのが正直な気持ちです。面接と異なり、回数を重ねても全く上達しなかったためです」とも書かれてあります。

↓ エヌジマさんのブログ「Njimablog」へのリンクです。
◇ 元場面緘黙の僕が就職活動を振り返る
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また、私が就職活動の壁に当たった頃は、話せない時期が長く続くと、就職面接でうまく話せないだけでなく、話の内容に困るという問題がありました。学生時代に打ち込んだことを聞かれても、無口で不安が強い学生時代を送ったゆえ、仲間と一緒に何かをしたという話ができなかったのです。これは大変不利でした。最近の就職活動はどうなのでしょうか。


むすび


緘黙がある人が仕事を探す場合、主に次の3通りの対策が考えられそうです。

○ 手帳(精神障害者保健福祉手帳)を取得して障害者枠での就職を目指す
○ 緘黙状態でもできる仕事を選ぶ
○ 理解のある職場を選ぶ/作る

これらの方法でなら、緘黙のある方でも無理なく働けるかと言えば、実情を知らない私には分かりません。

採用面接については、面接担当者は知らない人だし、質問内容はほぼ決まっているので話しやすいという声もありました。ただ、あくまで一例ですが、グループ面接は駄目だったという経験談もありました。

選択性無言症、学校緘黙……緘黙の様々な名称

更新日:2018年10月13日(投稿日:2018年10月13日)
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「場面緘黙」「選択性緘黙」

昔はこういう言い方しませんでした。

私が知る範囲で、「場面緘黙」が使われた最も古い例は1963年です(佐藤, 1963; 佐藤ら, 1963)。また、「選択性緘黙」は1980年です(梶田, 1980)。しかも、これらの名称が定着したのは、さらに後の話です。

では、それ以前には緘黙は何と呼ばれていたのでしょう。単に「緘黙」などと呼ばれていました。

ですが、それ以外の名称を目にすることもありました。ただ、いずれも今日ではあまり使われていません。今回は、そうした名称を調べてみました。

様々な名称


というわけで、ご紹介します。なお、私が確認できた最も古い用例を(19xx年)と記しています。

小児緘黙症/小児心因性緘黙症(1959年)


「小児緘黙症に関する研究」と題する研究が、1959年、『北関東医学』に掲載されました(内山, 1959)。論文の中では、「小児心因性緘黙症」という名称を使った箇所もあります。ですが、大半の箇所では、単に「緘黙症」「緘黙」という名称を使っています。

日本における最初期の緘黙研究で用いられたこの名称ですが、その後に広まることはありませんでした。なお、これは内山喜久雄氏による博士論文で、同氏は後に著名な学者となります。


心因性緘黙(1960年)


翌1960年、先の内山氏の研究を短くまとめたものが『児童精神医学とその近接領域』に掲載されました(内山, 1960)。ここでは、論文の概要説明で「心因性緘黙」という名称が2回使われています。先の研究で見られた「小児緘黙症」「小児心因性緘黙症」は使われていません。

この「心因性緘黙」ですが、70~80年代を中心に、用例が少し確認できます(例えば、深谷, 1975; 山本, 1988)。これに「症」をつけた「心因性緘黙症」(後述)もあります。


心因性無言症(1961年)


1961年には、「3才5ヵ月の幼児にみられた心因性無言症の1例」が『精神医学』に報告されています(正橋, 1961)。この事例が今日で言う場面緘黙症のことかどうかは分からないのですが、「心因性無言症」という名称は、60年代に緘黙の研究で採用されたことがあります(例えば、流王, 1965)。


選択性無言症(1965年)


「選択性無言症」という名称もあります。古くは、1965年の流王治郎氏による「心因性無言症児の研究」(『臨床心理』掲載)で確認できます(流王, 1965)。心因性無言症を3つのタイプに分けた研究で、そのタイプの1つに「選択性無言症」がありました。この時は、「選択性無言症」という名称は広まりませんでした。

ところが、90年代からトリイ・ヘイデン氏の本の邦訳書が発売され、その本の中で緘黙が「選択性無言症」と訳されました(例えば、 Hayden, 1998; Hayden, 2005)。この本は大層売れたようです。「選択性無言症」という名称は、ほとんどトリイ・ヘイデン氏の翻訳書から広がったものではないかと思います。

なお、「選択無言症」という名称を目にすることもあります(例えば、 Hayden, 1997)。


学校緘黙(1966年)


1966年に開かれたとみられる第7回日本児童精神医学会では、一般演題「学校緘黙児と登校拒否児の発生機制について」が記録されています(東畠ら, 1967)。

「学校緘黙」の用例は、後にも少し確認できます。1989年には『「学校かん黙」事典』という本も出ています(山本, 1989)。


心因性緘黙症(1970年)


1970年、「心因性緘黙症に関する研究」と題する研究が『教育相談研究』に掲載されました(深谷ら, 1970)。「心因性緘黙」は以前にもありましたが、今回は「症」がついています。

「心因性緘黙症」は、70年代を中心に、用例が少し確認できます(例えば、堀内, 1974)。


部分緘黙(1975年)


1975年に開かれた第13回日本精神身体医学会関東地方会で、「姉妹にみられた緘黙症の検討」と題する演題がありました(竹山ら, 1976)。その中で「部分緘黙」という名称が使われています。「部分緘黙」の用例は、わずかではありますが、あります(例えば、山本, 1988)。


コメント


「緘黙」に「症」をつけたり、「緘黙」を「無言」としたり、様々です。

「緘黙」も「無言」も、どちらも mutism の訳語で、英語で言えば同じことです。「緘黙」より「無言」の方がずっと分かりやすいのではと思うのですが、「緘黙」の方が昔から使われています。

「無言」の場合は「症」をつけて「無言症」とすることの方が多いかもしれません。「症」をつけずに、例えば「選択性無言」というのは、ちょっと見たことがありません。思うに、「症」をつけずに「選択性無言」だと、単に黙っているだけのもので、病理性があるとは伝わりにくいからかもしれません。ところが「選択性緘黙」だとそうでもないのが不思議です。

「心因性」という語がついている名称が目立ちます。一昔前までは、緘黙は心因性であるという説明を目にすることがあったのですが、最近は少なくなっています。

「学校緘黙」という名称は、緘黙が主に学校場面で現れるからという考えからでしょう。確かにその通りなのですが、緘黙は学校外で現れることもありますし、学校を卒業した後も続くことがあります。

色々な名称を見てきましたが、現代における緘黙の理解にはややそぐわないのではと思えるものもありました。昔の名称を振り返ることによって、緘黙理解の歴史が垣間見えたような気がします。



シアトル子ども病院のグループプログラム

更新日:2018年10月07日(投稿日:2018年10月07日)
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シアトル子ども病院(Seattle Children’s Hospital)のホームページに9月7日、場面緘黙症の記事が掲載されました。緘黙がある6歳の少女と、その母親の記事です。

↓ その記事です。
◇ April Discovers Power in Her Voice Through Selective Mutism Program
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8週間のグループプログラム


記事の後段に、病院によるグループプログラムの実践が書かれてあり、興味深く読みました。上の記事などから簡単にまとめると、次のような内容です。

○ 8週間のプログラムで、毎週90分実施
○ 保護者グループと子どもグループに分かれる(第1回は保護者グループのみ)
○ 保護者グループは、緘黙の原因、維持要因、緘黙の負の連鎖を破るための戦略を学ぶ
○ 子どもグループは、セラピストや他のメンバーと、スモールステップで発話(ただし、発話練習ばかりするわけではない)
○ 毎週最後に、保護者と子どもが、発話への暴露(エクスポージャー)の練習を、臨床家の助けのもと行なう
○ 実施場所は、"During the group, your child will practice speaking around the hospital..." とあることから、病院やその周辺か?

↓ 記事にもリンクがあった、シアトルの緘黙グループの概要。PDF(39.6KB)。
◇ Selective Mutism Group
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※ PDFを閲覧するには Adobe Reader が必要です。こちら新しいウィンドウで開く)からダウンロードできます。

コメント


私は専門家ではないのでよく分からないのですが、保護者と緘黙児に別々のプログラムを行なう点は、アメリカに多い集中プログラムと共通しているように思います。緘黙児にスモールステップの取り組みを実践するのみならず、保護者への教育も行なうわけです。

保護者への教育の内容は詳しくは書かれてありませんが、上の資料やアメリカの傾向から推察するに、緘黙の概要に加えて、子どもの緘黙を維持強化させない接し方、スモールステップの取り組み方などが考えられます。病院によるプログラムが終了しても、次につなげるための教育です。

例えば、以下は全て一定の条件での話ですが、緘黙児が質問を受けた時に、親が代わりに答えてはならないとか(発話せずに済む→不安が減る→緘黙行動が強化される)、緘黙児への問いかけは発話を要する「○○ですか、それとも××ですか」型で行なうとか、返事には5秒待つとか、そうしたことを教えていそうです。あくまで推測ですが。

↓ 例えばこの動画は、最近の北米に特徴的な内容です。カナダの慈善団体 Anxiety BC の動画。
◇ Understanding and Managing Selective Mutism
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保護者への教育はグループ形式で行なうことから、同じ悩みを持つ保護者同士の出会いの場にもなっているようです。

あと、子どもへのスモールステップの取り組みですが、学校園でも模擬教室でもない場で行う点が少し気になります。病院での発話を、学校や幼稚園にどうつなげるかが、プログラム終了後のポイントになりそうです。