【訃報】アリス・スルーキン氏、英緘黙団体創設

更新日:2019年02月21日(投稿日:2019年02月17日)
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イギリスの場面緘黙症団体SMIRAの創設者で、緘黙のGrande Dame(大御所、第一人者)とも呼ばれるアリス・スルーキン氏(Alice Sluckin氏)が、2月15日に亡くなられたようです。99歳でした。

SMIRAの公式発表はまだ確認できないのですが、イギリスの緘黙当事者Sabrina Branwood氏や、日本のかんもくネットがソーシャルメディアに投稿しており、ほぼ間違いないものとみられます。

◇ かんもくネットのFacebook投稿
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◇ Sabrina Branwood氏のTwitter投稿
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[追記(2019年2月21日)]

SMIRAホームページで、追悼記事が出ています。

◇ News - SMIRA
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上級精神医学ソーシャルワーカーだったアリス・スルーキン氏は、1960年代に緘黙児と出会いました。現在緘黙治療の主流である行動療法を当時から行い、その研究は専門誌 British Journal of Psychiatric Social WorkA behavioural approach in the treatment of elective mutism という論題で発表されました(1969年、Derek Jehu氏との共著)。

その後も緘黙に関する研究を発表されていて、1977年には Children who do not talk at schoolChild Care Health and Development掲載)、1991年には Behavioural treatment programs and selectivity of speaking at follow-up in a sample of 25 selective mutesAustralian Psychologist掲載、2名の方との共著)が出ています。

アリス・スルーキン氏の緘黙に対する関心は退職後も続き、1992年には緘黙団体SMIRA(Selective Mutism Information & Research Association)を設立、代表に就任しました。SMIRAの本拠地が現在もレスターなのは、おそらくこの方が同地を中心に活動されていたからだろうと思います。

その後も活動を続けられていたところ、緘黙に対する長年の活動が評価され、2010年に大英帝国四等勲士(OBE)を受章されました。

日本のかんもくネットも、創設時にはアリス・スルーキン氏から様々な支援を受けたそうです。また、翻訳書『場面緘黙へのアプローチ』(2009年)や『場面緘黙支援の最前線』(2017年)には、アリス・スルーキン氏が関わった論考が掲載されており、特に『アプローチ』には顔写真まで載っているので、お馴染みの方もいらっしゃることと思います。

日本では、緘黙が「また新しい病気か」などと軽く見られることがあります。その一因は、アリス・スルーキン氏のような、緘黙の歴史を体現した方が日本にいないところにあるのではないかと私は考えていました。

イギリスの緘黙当事者 Sabrina Branwood氏は、先ほどお話したTwitter投稿の中で、アリス・スルーキン氏のことを "lovely Alice" と呼んでいらっしゃいます。緘黙に関わる方からいかに愛されていたかが窺えます。


かんもくアコースティックライブ予約開始

更新日:2019年02月16日(投稿日:2019年02月16日)
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かんもくアコースティックライブの先行予約受付が、2月16日(土曜日)午前10時に始まりました。

先行予約の受付対象は、場面緘黙症の当事者、経験者、保護者、家族の方です。先行予約は25名で一旦締め切られるそうです。今回は前回よりも定員が少ないので、ご注意ください。また、ライブ終了後、当事者、経験者、保護者、家族の方を対象にした「アフター交流会」も予定されているそうです。

情報の詳細やチケットの予約については、以下の公式ホームページをご覧ください。出演者のお一人であるmananaさんが作ったもので、ライブ全般について、詳しくまとめられています。

◇ かんもくアコースティックライブ公式ホームページ
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かんもくアコースティックライブは、緘黙経験を持つアーティストたちが、自らの企画&出演で行う、緘黙をテーマにした音楽イベントです。2016年10月23日に第1回が行なわれました。今回は3回目の開催となります。

[かんもくアコースティックライブ2019の概要]

日時:6月2日(日曜日)
場所:北参道ストロボカフェ(東京都渋谷区千駄ヶ谷4-3-10 ニューベリー千駄ヶ谷 B1)
出演: mananaさん、若倉純さん、中越千春さん、AIRIさん

緘黙や、いわゆるその後遺症があったりすると、ライブにはなかなか足を運べない人もいるでしょう。過去のライブでは、受付やドリンクの注文方法など、緘黙ならではの工夫をされていたそうです。緘黙を経験した方たちが主催するライブだと、ハードルが低いかもしれませんね。


保護者向けに書かれた、新しい緘黙の本(米)

更新日:2019年02月12日(投稿日:2019年02月12日)
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アメリカで最近、場面緘黙症の本が出版されました。ここでご紹介してみます。私は専門家ではないのですが、私自身の勉強も兼ねて。

本の基本情報


○ 著者:Aimee Kotrba氏と Shari J. Saffer氏
○ 出版日:2018年、米国では8月21日発売日か(日本では少し遅れました)
○ 書名:Overcoming Selective Mutism - The Parent's Field Guide
○ 出版社:Summit & Krest
○ ページ数:177
○ 本のサイズ:A4サイズに近い


著者のAimee Kotrba氏は、臨床心理学者。かつてアメリカ最大の緘黙団体の理事長を務められたり、緘黙の本Selective Mutism: An Assessment and Intervention Guide for Therapists, Educators Parent(2014年)を出されたりしています。ミシガン州のブライトンという街でクリニックThriving Mindsを運営されています。

もう一人の著者のShari J. Saffer氏は、緘黙児の母親です。お子さんの緘黙を改善することに成功しました。その過程で、Aimee Kotrba氏と出会っています。

書名のOvercoming Selective Mutismとは「場面緘黙症の克服」「場面緘黙症を乗り越える」といった意味です。


本の内容


本の内容を一言で表すと、書名の通り、主に緘黙児の保護者向けに書かれた手引書と言えるのではないかと思います(専門家も対象読者として意識はしているようです)。緘黙児の保護者が知っていると役立つと思われる知識(緘黙の理解、治療法、学校での支援制度等)や心構え、ツール、我が子の緘黙の改善に成功したShari J. Saffer氏の経験など、幅広く書かれてあります。緘黙を克服した人によって書かれた本や保護者視点の本が少ないことが、本書執筆の問題意識だったそうです。

著者は2名いますが、どちらがどの章を担当したのかは明記されておらず、はっきり分かりません。専門家のAimee Kotrba氏が主に執筆したっぽい章が、ページ数で8割以上を占めますが、あくまで「執筆したっぽい」章で確証はありません。

この本で示されている緘黙に対する考え方や支援法は、Steven Kurtz博士を中心とする(という言い方でいいのかな)グループのものと見られます。緘黙に対する考え方や支援法は専門家によって若干異なるのですが、その中でも、ある程度似た考えの専門家からなる流派というか、学派というか、そうしたものがあるのです(学派という言い方は大げさかな)。アメリカではElisa ShiponBlum氏を中心とするグループと、Steven Kurtz博士や今回の著者Aimee Kotrba氏を中心とするグループが二大勢力だろうと思います。

ちなみに、日本で発言力を持つ専門家の緘黙に対する考え方も、私が見た限りでは、海外のそれとは若干異なるように思います。しばしばICFを引用して「環境因子」を重く見たり、アセスメントを特に重視したり、話せないこと以外の問題への意識がとりわけ強い点が特徴のように思います。

本の話に戻ると、内容は、Aimee Kotrba氏による2014年の本Selective Mutism: An Assessment and Intervention Guide for Therapists, Educators & Parentsと重なるところもあります。ただ、2014年の本は、治療専門家、教育者、保護者の三者を対象読者としていました。今回の本は主に保護者向けに特化した内容です。

紙面はカラーです。文字色は黒を基本として、見出しなどに青系統の色や赤が使われています。図やイラストはカラフルで、中には具体的な緘黙支援を行なう様子を写したカラー写真まであります。絵本の類でもないのにカラー印刷の緘黙の本というのは、ちょっと珍しいかもしれません。


Facebookを活用した販促


この本には、ちょっと特殊な販促が行なわれました。発売を前にFacebookで非公開グループ "Overcoming Selective Mutism"(書名と同じ)が作られ、本の情報を提供するとともに、そのFacebookグループでコンテスト?か何かを実施し、当選者には本を無料でプレゼントしたそうです。

また、Facebookの公開グループ Selective Mutism Awareness でも事前に宣伝が行なわれ、著者がビデオメッセージを公開する場面もありました。

※ 以下は、Facebookの公開グループへのリンクです。Facebookに登録されていない方でもご覧になれます。

◇ そのFacebookグループでの投稿1
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◇ そのFacebookグループでの投稿2
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◇ そのFacebookグループでの投稿3
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◇ そのFacebookグループでの投稿4
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◇ そのFacebookグループでの投稿5
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感想


よくまとまっている


全体的によくまとまっていると感じました。一般向けに分かりやすく書く一方、2015年以降の新しい研究も参照しています。内容が幅広いので、とりあえずこれ1冊があればなんとかなるかもしれません。

個人的なことですが、他のところで説明されて分からなかったことが、この本の説明でやっと氷解した部分もありました(私は頭が悪い)。また、細かい発見も所々にありました。例えば、緘黙児はなぜ人の名前が呼ぶのが苦手なのかという問いに、一つの答えを示しています。

もっとも、お話したように、この本の内容はAimee Kotrba氏の2014年の著書と重複する部分はあります。また、英語圏ではインターネットなどでも繰り返し説かれてきた内容が含まれます(それでも書籍化した意義はあるとは思いますが)。

この本に書かれているSteven Kurtz博士やAimee Kotrba氏らのグループの緘黙の考え方や支援法は、日本ではあまり知られていないかもしれません。このグループと並んで勢力の大きいElisa ShiponBlum氏らのグループやイギリスでの考え方、支援法については、以前から日本で翻訳されたり、引用されたりしてきました。ですが、今回のSteven Kurtz博士やAimee Kotrba氏らについては、奇妙なほど日本では紹介されません。


"pop-up people"


興味深く感じた箇所は部分的にあちこちあるのですが、一つだけ挙げると、"pop-up people"という表現です。

緘黙児者が話せるようにするためのスモールステップの取り組みは、管理された環境で行なう場合があります。例えば、先日ご紹介したイギリスBBCの動画では、緘黙児が学校の小部屋で発話ができている状況を作って、その中へ、徐々に教師を入れる場面がありました。あの緘黙児が話している最中に、不特定多数の同級生が勝手にその部屋に出入りしたら台無しです。ですので、そのようなことがないようにするのです。

ですが、そうした管理をしようにもできないこともあります。地域コミュニティでの取り組みの場合、特にそうです。例えば、コンビニエンスストアで買い物する取り組みを行なおうとしたところ、緘黙のことも何も知らないコンビニの客から突然「お嬢さん、ハンカチ落としたよ」などと声を掛けられるようなこともあるかもしれません。そうした予期せぬ人物を、この本は"pop-up people"と呼んでいます。"pop-up"とは、ポンと飛び出す様を表す英語表現です。

上手い用語を作ったものだと感心して読み進めていたところ、実はこの言葉、Shari J. Saffer氏の造語であることが終盤で明かされています。緘黙児の母親が取り組みの中で思いついた造語を緘黙支援の手引書で正式に採用するとは、専門家と保護者の共著だからこそできたことでしょう。


カラフルな紙面について


分かりやすさを意識して紙面を構成した緘黙の本は色々あると思うのですが、その中では、この本が最も私の好みかもしれません。様々な色を使って見やすいですが、色は主張しすぎず、あくまで基本は白地に黒の文字です。図やイラストの使用も過不足ありません。

ただ、この本の価格設定が気になります。もしかしたらカラー印刷ゆえ、高めになったのではないかとも考えてしまいます。それでもなんとか購入できたのは皆様のお陰です。