専門家が最大1週間マンツーマン-英国の集中プログラム

2018年02月14日(水曜日)

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米国発祥の集中プログラム


これまでお話してきたように、アメリカでは、場面緘黙症の子どもを対象とした集中治療プログラムが各地で行なわれています。ニューヨークにあるChild Mind Instituteという施設のBrave Buddiesがその代表です。最近では、より高年齢層の10~14歳向けプログラムも始まりました(10~14歳向けプログラムについては、日本でも昨年、BBCワールドサービスで放送されました。現在でもインターネットで視聴できます)。

この集中プログラムは、アメリカで急速に広まりました。ここまで広まると、今度はアメリカ国外にも広まるかどうかが、私には気になります。特にイギリスにまで広まると、その意味は大きそうです。なにしろ、緘黙支援は北米とイギリスがツートップというのが私の大雑把な印象です。英米両国で集中プログラムが行なわれるようになると、他国にも影響が及ぶでしょう。日本でも、いよいよ見逃せなくなります。

実はイギリスでも近年、アメリカの技法に影響を受け、独自の集中プログラムを行なう専門家が現れました。今回は、そのお話です。


米国から影響を受けた、英国の集中プログラム


イギリスで集中プログラムを行なうのは、チャイルドセラピストのルーシー・ネイサンソン(Lucy Nathanson)氏。Confident Childrenという団体名で緘黙支援に当たる方です。ネイサンソン氏は2016年7月にニューヨークを訪れ、集中プログラムBrave Buddiesの実施に参加されたそうです。なお、この方については、先日の記事「『学校の先生には、緘黙の本を読む時間はない』(海外)」でもお話しています。

ネイサンソン氏の集中プログラムを私なりにまとめてみました。私は専門家ではないのでよく分からないのですが、だいたい次の通りではないかと思います。

○ 3日から5日間、1つの家族に対して行なう
○ 緘黙児の不安を和らげ、そこでゲームとして発話をしたりといった経験を、ネイサンソン氏と一緒にスモールステップで楽しく積む
○ まずは家庭場面で始める、緘黙児が話せない大人を入れることもある
○ お店など近所や、学校でも行なう
○ こうした技法や緘黙児への接し方を、親や学校関係者などにも教える

プログラムの実施にあたっては、特定のゴールを設定し、準備と計画の策定を詳細にわたって行います。準備や計画は親と一緒に行ないます。計画の内容はその子によって違いますし、取り組みの速さもその子のペースによります。

この最大1週間のプログラムで、緘黙の完治までには至りません。この技法を親や学校関係者などに教えるのも、プログラム終了後を見据えてのことです。

ネイサンソン氏は集中プログラムの利点として、子どもがスモールステップの歩みに勢い(momentum)をつけることができることを挙げています。週1回などの従来の取り組み方だと、1週間の間隔(week gap)が開いてしまうというのです。


ネイサンソン氏の集中プログラムの独自性


ネイサンソン氏の集中プログラムは、アメリカのものを独自にアレンジしたものです。アメリカの集中プログラムは集団で行なうのですが、ネイサンソン氏の場合、個別に行ないます。

それにしても、専門家が最大1週間1家族を相手にするとは、贅沢な話です。日本では、少数しかいない緘黙専門家に相談予約が殺到することがあるという話を聞いたことがあります。日本では専門家の人手不足により、そこまではできないのではないかと思います。また、専門家がそれだけ長時間関わるとなると、費用も気になります。

それから、家庭環境から初める方法もアメリカの集中プログラムにはなく、ネイサンソン氏独自のものです。


ネイサンソン氏、英国内外にも影響を与えるか?


ネイサンソン氏は、2017年にポーランドで開かれたLanguages and Emot!onsという会議で、この集中プログラムの事例研究を2例紹介しています。次の動画の22分27秒頃からです。スピーチは英語、プレゼンテーション資料はポーランド語という珍しい動画です。



ネイサンソン氏は、海外の方とも交流されているようです。12月の最初の1週間だけでも、Skypeでイギリス、カナダ、オーストラリア、サウジアラビアの緘黙児の保護者と話をしたとFacebookに投稿されたことがあります。その投稿の翌日にも、スリランカとロシアの親と話をする予定が入っていたそうです。

ネイサンソン氏はイギリスではもちろんですが、このように国際的にある程度知られた方なのかもしれません。ネイサンソン氏の影響を受け、集中的な技法が、今後さらに各国に広まる可能性もあると思います。アメリカの集中プログラムは集団で行なう大掛かりなものですが、ネイサンソン氏の個別に行なう技法であれば、模倣はしやすいでしょう。


集中プログラム、既に世界に広がり始めているかも


なお、アメリカで始まった集中プログラムは、今回お話したイギリス以外にも、既に広がり始めている節があります。

詳細は分かりませんが、香港で同種のプログラムが行なわれたという情報があります。Kurtz Psychologyウェブサイトの、このページ最下部にある情報です。ここにお名前が載っている"Dr. Ortega"とは、Melissa Ortega氏のことと思われます。同氏は以前、ニューヨークのChild Mind Instituteに勤務し、ここの集中プログラムの開発にも関わっていました。

また、これまた詳細が分からないのですが、イスラエルでも1週間にわたる集中的介入が行なわれているようです。Ruth Perednik 氏のウェブサイトに書かれてあります。




電話でロボットと会話する取り組み(英国)

2017年09月05日(火曜日)

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緘黙児者にとって、ロボットは人より話しやすい?


緘黙症(かんもくしょう)という、家庭の外など特定の環境で話せなくなる症例の子どもも、ロボットに対してであればどこでも積極的に会話をするようになります。ある子どものご両親は、「うちの子がこんなに楽しそうに話しているのを初めて見た」と涙を流して喜んでいました。

日本のロボット工学の第一人者である大阪大学の石黒浩教授(栄誉教授)は、インタビュー記事の中でこう語ります(石黒, 2017, p. 143)。

緘黙児者とロボットの会話について、学術的検証がどこまで進んでいるかは、不勉強なもので知りません。

ただ、ロボットと会話する取り組みについては、イギリスの緘黙治療マニュアル The selective mutism resource manual (第2版)でも示されています(Johnson and Wingtgens, 2016)。この本はイギリスの緘黙支援では定番で、今年出版されたイギリスの本の邦訳『場面緘黙支援の最前線』でも、『場面緘黙リソースマニュアル』という訳で繰り返し登場します。

そのロボットと会話する取り組みは、電話によるものです。イギリスには音声認識ソフトを使った電話案内があり、該当する電話番号にかけると、人間ではなくロボットが出るそうです。話しかけるとロボットが音声を認識し、回答をします。具体例として TrainTracker™ という、列車の運行情報の問い合わせサービスが紹介されています。

これは、電話を使った取り組みの一つとして位置づけられています。スモールステップで人と電話で会話できるようにして、最後は直接人と会話ができるように持って行く取り組みです。その中の一段階として、このロボットとの会話があります。本格的に電話で人と話をする前に、ロボットとの会話を挟むわけです(ただし、ロボットではなく留守番電話を使うなど、別の電話の方法もあります)。


ロボとの会話、緘黙支援で生かすことはできないか


このようなロボットが電話に出るサービス、日本にもあれば緘黙支援に生かせそうですが、果たして日本にはあるのでしょうか。私は知らないのですが、何しろ私は世間知らずなもので。

電話をかけると機械音声が出るというサービスは、私も何度も経験があります。ただ、それは音声認識ソフトではありません。「……の方は1を、……の方は2を押してください」というように、電話のボタンを押してこちらの意思を伝えるものです(これのおかげで、電話の会話が苦手な私は助かってはいます。緘黙児者も、これなら家から電話できるでしょう)。

日本でロボットが出る電話の存在は私は知らないのですが、人間の音声を認識して会話できるアプリは身近にあります。例えば、Siri というアプリは有名です。また、人間と会話ができるロボットも発売されています。最近はAI(人工知能)の活用が進展していることもあり、ロボットと会話できる機会はこれから少し増えていくかもしれません。会話とはやや違うかもしれませんが、AI を搭載した「スマートスピーカー」は、今話題でもあります。

こういったものを緘黙支援で役立てることはできないだろうかと思います。



米国の最前線「集中プログラム」10~14歳向けも登場

2017年07月03日(月曜日)

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アメリカでは、緘黙児への集中プログラムが盛ん


場面緘黙支援の最前線』は、イギリスの本です。アメリカの最前線は、集中プログラムを抜きに語ることはできません。緘黙児にとって安全な環境の模擬教室を作り、 スケジュールも学校に似せて、そこで発話に持っていく、グループ形式の行動療法プログラムです。夏休みなどに5日間(あるいは1日)、10名ほどの緘黙児を集めて行ないます。合わせて、親向けの講習会も行ないます。

集中プログラムは、ニューヨークの Child Mind Institute による Brave Buddies で始まりました。

↓ Child Mind Institute へのリンクです。
◇ Brave Buddies Program (新しいウィンドウで開く

このプログラムは近年、アメリカで広がりを見せています。私が確認しただけでも、Brave Buddies に影響された集中プログラムがこれだけ行なわれてきました(順不同)。

○ Selective Mutism Adventure Camp(オークブルック)
○ Boston University Brave Buddies Camp(ボストン)
○ Confident Kids Camp(アナーバー)
○ Camp Courage(ニューヨーク)
○ Mighty Mouth Kids(ニューヨーク)
○ Brave Bunch(フロリダ)
○ Resilience Camp(レイトン)

近年のアメリカの専門的な本では、集中プログラムの解説が載るようになってきています(Kotrba, 2015; Mac, 2015)。また、ABC News や The New York TimesThe Wall Street Journal など、メディアでも取り上げられています(記事末尾「関連記事・関連リンク」をご覧ください)。近年のアメリカではこのように緘黙児への集中プログラムが大きな潮流です。もっとも、この集中プログラムの有効性がどれほど実証されているかは、私はよく知りません。

ただ、これらのプログラムは、低年齢の緘黙児を対象としたものでした。例えば、ニューヨークの Brave Buddies の場合、3歳から8歳までが対象です。

10~14歳向けプログラム WeSpeak が登場


そこで、より年齢が上の緘黙児を対象とした集中プログラムが最近登場しました。"WeSpeak" というもので、対象年齢は10歳から14歳までです。7月24日から28日までの5日間と、12月26日から29日までの4日間、行なわれます。このプログラムを開発した人物は、緘黙児への集中プログラムを開発した Steven Kurtz 博士です。

↓ WeSpeak の説明ページ。Steven Kurtz 博士が創設した Kurtz Psychology Consulting PC へのリンク。
◇ WeSpeak | Kurtz Psychology Consulting PC (新しいウィンドウで開く

私はつい先日この WeSpeak を知ったばかりなのですが、これがいつから行なわれていたものかは、はっきり分かりません。予備的な実施などを別とすればおそらく今回が初めてか、そうでなければ比較的最近始まったのではないかと思います。ウェブサイトのアーカイブ閲覧サービス Wayback Machine によると、2016年6月時点では、先ほどの WeSpeak の紹介ページはありませんでした。2017年4月には、サンフランシスコで行なわれた Anxiety and Depression Conference という会議で、このプログラムをテーマとしたワークショップが開かれています。

↓ そのワークショップの概要。
◇ WeSpeak: A Novel Treatment to Address the Under-Addressed Needs of Older Kids With Selective Mutism (新しいウィンドウで開く

低年齢の子ども向けの集中プログラムとの具体的な違いはよく分からないのですが、上のワークショップのページでは、「年齢が上の子どものより高度な発達、認知、社交スキルに適応したものである」(is adapted to the more advanced development, cognition, and social skills of older children)と書かれてあります。

さらなる発展を遂げる集中プログラム


より上の年齢層のプログラムが開発されたことから、緘黙児への集中プログラムはさらなる発展を遂げたと言えます。集中プログラムの当否は専門家ではない私には判断できませんが、アメリカの緘黙支援では大きな潮流であり、注目すべきだろうと思います。

余談・別の集中プログラム


なお、アメリカの緘黙支援では Steven Kurtz 博士らのグループと双璧をなす(と私が見ている)緘黙・不安・関連障害治療センター SMart Center が、これとは別の集中プログラム CommuniCamp を始めています。その宣伝のしようから、なかなか力を入れているものと見られます。

↓ SMart Center ホームページへのリンク。
◇ CommuniCamp – Selective Mutism Anxiety Research & Treatment Center | SMart Center (新しいウィンドウで開く

こちらの集中プログラムは、Social Communication Anxiety Treatment (S-CAT:かんもくネット資料で「社会的コミュニケーション不安治療」と訳されているもの)という SMart Center 独自の考え方に基づいているようです。ですが、グループ形式で行なったり、親向けの講習会を行なったりと、Steven Kurtz 博士らのグループによる集中プログラムと共通点もいくつかあります。

Steven Kurtz 博士らの集中プログラムと、CommuniCamp の関係はよく分からないのですが、どちらにしろ、アメリカの緘黙支援では「集中」(intensive)が近年の重要なキーワードのようです。

[追記(2017年7月4日)]

余談の箇所で、一部内容を削除しました。