文科省作成の教職員用資料に、緘黙が

更新日:-0001年11月30日(投稿日:2010年01月28日)
文部科学省や厚生労働省といった政府のホームページには、緘黙に関する情報が少しだけですが掲載されています。私は稀に検索し、新しい情報が更新されていないかチェックしています。

今回は、そうした政府のホームページに載っていた情報の中でも、特に面白そうなものをここで取り上げます。

教職員のための子どもの健康観察の方法と問題への対応■ 『教職員のための子どもの健康観察の方法と問題への対応』

まずは、文科省ホームページ内にある『教職員のための子どもの健康観察の方法と問題への対応』という資料です。下記のページに詳しい説明がありますが、教職員のための指導参考資料のようです。

↓ 文科省ホームページヘのリンクです。

教職員のための子どもの健康観察の方法と問題への対応
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この中に、場面緘黙症の事例紹介(第5章、54-55ページ)と、場面緘黙症についての一般的な解説(第6章、80-81ページ)が載っています。資料中では、「場面緘黙症」ではなく「選択性緘黙」という用語が用いられています。

文科省が教職員向けに作成した資料の中に、緘黙に関する内容が含まれていたことが、私には驚きでした(もう1年近くも前にできた資料なのですが、知らなかった……)。実際のところ、教職員はどれだけこの資料に目を通しているのでしょうか。もしどの教職員もこの資料の内容を完璧に頭に入れていれば、学校の先生が緘黙を知らない、なんてことは起りえないのですが。

資料の事例については「典型例と考えられる幾つかのケースを基に創作された仮想事例」とのことですが、載っている緘黙の事例は広汎性発達障害を背景とし、しかも不登校に至ったものです。もしこれが典型的な場面緘黙症と考えられているのだとしたら、私には意外に感じられます。第6章の緘黙の解説でも、広汎性発達障害や不登校について言及があります。

なお、『教職員のための子どもの健康観察の方法と問題への対応』は上記ページで無料で読むことができるほか、書籍としても発売されています。

■ 「平成11年度全国家庭児童調査結果の概要」





「クラスのなかの場面緘黙」

更新日:-0001年11月30日(投稿日:2010年01月22日)
このブログでは、時々緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。今回は、これです。

松村茂治 (1998). クラスのなかの場面緘黙-緘黙児と子どもたちとのふれあい-. 東京学芸大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要, 22, 75 -91.

■ 概要

場面緘黙症の事例研究です。緘黙の小学5~6年生・葉子さん(仮名)に、「フェーディング法」(行動療法)を行っています。そして、学校場面で、学級担任の教師やクラスの子どもたちが、葉子さんにどのように関わってきたかを検討しています。

■ 所感・所見

◇ 行動療法を用いた日本の研究

場面緘黙症の治療法は、英語圏の国では行動療法が盛んです。近年わが国でも『場面緘黙児への支援』や『場面緘黙へのアプローチ』といった邦訳書の発売などで、英語圏の行動療法のノウハウが知られつつあります。

しかし、実は緘黙の子に行動療法を用いた例は、日本でも昔からあります。今回取り上げる論文は、その行動療法を用いた研究の一つです。





「行動抑制の子どもの生理学と心理学」

更新日:-0001年11月30日(投稿日:2010年01月15日)
馴染みのない部屋に入ったり、見知らぬ人に会ったり、慣れない物に遭遇したりすると、極端に用心深くなったり、シャイになったりする-子どもの中にはこうした傾向の子もいるのですが、ハーバード大学の Jerome Kagan 教授らはこうした傾向を behavioral inhibition(行動抑制、行動的抑制)と名づけました。

これが、場面緘黙症に似ているのではないかとして、緘黙関係文献で引用されてきました。比較的新しいところでは、2009年に出たレビュー論文(Viana, 2009)があります。また、皆さんお馴染みの『場面緘黙へのアプローチ』や『場面緘黙Q&A』でも、Kagan 教授らの研究が引用されています。

そういうわけで、kagan 教授らの、行動抑制に関する論文を一つ読んでいました。私は専門家ではなく、自分自身の勉強も兼ねて読んだのですが、私には難しい内容でした。

◇ Kagan, J., Reznick, J.S., and Snidman, N. (1987). The physiology and psychology of behavioral inhibition in children. Child Development, 58(6), 1459-1473.

この研究によると、行動抑制の子どもは、見知らぬ状況に入ったときなどに、先天的に扁桃体や視床下部が反応しやすい(反応閾値が低い)のではないかということです。これは、他の行動抑制関連論文とともに、場面緘黙症の病因論に今でも影響を与えています。

※ ただし、この論文は「学習」(後天的)により、行動抑制の傾向が強くなったり弱くなったりする可能性を否定してはいません。『場面緘黙児への支援』で紹介されているような行動療法を用いて、少しずつ話せる場面を増やしていくというのは、学習の一例です。

この論文が私にとって難しかったのは、私がふだん読んでいる緘黙関連文献ではあまり見かけない生理学(特に、神経生理学?)の議論が含まれていたからです。扁桃体や視床下部のほか、大脳辺縁系とか交感神経とか、そうした用語が数多く出てきます。ですが、それだけに、場面緘黙症を神経生理学?の視点から考えるのに役立ち得ると思います。