The Selective Mutism Resource Manual

2010年05月25日(火曜日)

[追記(2016年11月20日)]

これは初版の情報です。2016年に発売された第2版については、こちらで取り上げています。⇒ 「英国の緘黙支援のバイブル」第2版出版、全581ページ!


イギリスでは緘黙児支援のバイブルとされているという The Selective Mutism Resource Manual をようやく読みました。この高価な本を手に入れることができたのも、みなさまが場面緘黙症Journal を通じて、本等を Amazon.co.jp で買ってくださったおかげです。

内容は、主に専門家を対象に、緘黙の子を評価、支援するための具体的な方法をまとめたものです。行動療法をもとにした支援技法が中心で、かなり実践的な内容です。ですが、平易な文章で実に分かりやすく書かれてあり、(英語圏の)保護者も苦なく読めそうです。

本は300ページのリング製本で、サイズは大き目です。著者は、スピーチ・セラピストの Maggie Johnson 氏と Alison Wintgens 氏。特に Maggie Johnson(マギー・ジョンソン)氏は、『場面緘黙へのアプローチ』のDVDほか、イギリスで緘黙児支援の情報に接すると、現在でもよくお名前を見かける方です。

この本を読んだ第一印象は、「Helping Your Child With Selective Mutism(邦訳『場面緘黙児への支援』)に似ている!」でした。Helping 本も、行動療法により緘黙を克服するための具体的な技法を分かりやすくまとめた実践的な本です。Resource Manual は主に専門家を対象とした本であるのに対し、Helping 本は保護者を対象としている点に違いがあります。しかし、今回の Resource Manual は Helping 本より4年も早い2001年に出ています。2001年段階で、緘黙児の支援技法がこれだけ体系的に、しかも具体的にまとめられていたとは私には驚きでした(同時に不勉強も感じました)。

Resource Manual も Helping 本も支援の原理はだいたい同じなのですが、具体的な技法には違いもあります。どちらが効果的なのでしょうか。

Resource Manual が出て10年近く経ちます。今でも通用しそうな内容なのですが、この10年の間に場面緘黙症の研究は進みましたし、行動療法のノウハウの蓄積も進んだだろうと思います。この本を改訂した第2版が出ないかなと思っているのですが。


厚労省の新ひきこもりガイドラインに、緘黙が

2010年05月20日(木曜日)

厚生労働省のひきこもり研究班がまとめた「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」が、5月19日に公表されました。

ひきこもりの相談窓口としては精神保健福祉センターや保健所、ひきこもり地域支援センター等がありますが、そのひきこもり担当者は、このガイドラインに目を通すものと思われます。

ところで、このガイドラインの中の「ひきこもりと関係の深い精神障害とその特徴」の一つに、「対人恐怖的な妄想性障害(醜形恐怖、自己臭恐怖、自己視線恐怖)や選択性緘黙など児童思春期に特有な精神障害」が挙げられています。このうち、緘黙に緘する記述は次の通りです。

* 以下引用(17ページより)*

また、選択性緘黙のような幼い頃から幼稚園や学校で口を閉ざしていた子どもが、やがて徐々に学校にいかなくなり家にひきこもる、あるいは高校卒業後は進路を決めないまま家庭にとどまるようになることがあります。

* 引用終わり *

多くの紙幅が割かれたわけではないとは言え、場面緘黙症を背景にひきこもりになることがあり得ると、厚労省のひきこもりガイドラインに明記されたわけです。これは驚きました。

ひきこもりと緘黙の関係を示すどういった根拠からこの記述に至ったのかが私には気になりますが、ガイドラインには特に何も書かれていません。もしかすると、成人後も緘黙やその「後遺症」で社会生活に困難を抱える人が多数いると主張する緘黙支援団体の活動が、厚労省研究班に伝わったのでしょうか。それもないとは言えませんが、私が思うに、緘黙の診断を受けたことのある、あるいは緘黙だった疑いのあるひきこもり者の例がきっと何例も報告されているのでしょう。

また、認知度が低く、そのうえ主に幼児期の問題と認識されている場面緘黙症が、比較的小さな扱いとは言え、ここで取り上げられた理由も気になります。ひきこもりの緘黙経験者は一定数いるということなのでしょうか。

私としては、緘黙は単に幼児期のみの問題ではなく、思春期以降も(ここでは高校卒業後の例が挙がっていますが)影響が及ぶ場合があることが示されている点、特に厚労省のガイドラインで示されている点が意義深いと考えています。

もっとも、緘黙を経験した人がみなひきこもりになるという意味ではありません。社会に出ている人もたくさんいるということを、念のため付け加えておきます。

[文献]

◇ 齊藤万比古ら(2010)「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(H19-こころ-一般-010)http://www.ncgmkohnodai.go.jp/pdf/jidouseishin/guideline100520.pdf


新しい緘黙の洋書(中間報告)

2010年05月18日(火曜日)

場面緘黙症をテーマにした洋書 Helping Children With Selective Mutism and Their Parents: A Guide for School-Based Professionals が発売されました。日本語に訳せば、『場面緘黙児とその両親への支援:学校に基礎を置いた専門家への手引き』といったところでしょうか(訳が下手で、すみません……)。

専門家が書いたまとまった緘黙の本(英語)としては、Helping Your Child With Selective Mutism: Steps to Overcome a Fear of Speaking(邦訳『場面緘黙児への支援』)以来5年ぶりとなります。

Amazon.co.jp では 2010/5/26 という日時が記されていたので、てっきり今月26日発売と私は思い込んでいたのですが、既に発売されています。Googleブックスでも一部を無料で読むことができます。

Googleブックスより、本の内容を見る
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この本、私も入手済みです。といってもまだ読了したわけではなく、全体をざっと読んだのと、第2章までを読んだだけなのですが(ページ数にして全体の3分の1。全部で7章まである)、とりあえず中間報告というかたちで感想等をまとめてみます。

■ 著者

まずこの本の著者ですが、ネバダ大学ラスベガス校教授の臨床児童心理学者 Christopher Kearney 氏です。同氏はこれまで緘黙の子を支援した経験があり、緘黙に関する論文も出しています。また、緘黙以外でも論文、著書があります。この著者の詳細についてはなぜか本ではあまり触れられていないのですが、ここに記しておきます。

■ 行動療法、学校に基礎を置いた専門家向き

本の内容は、主に行動療法により、緘黙の子を支援する方法を具体的にまとめたものです。英語圏らしいです。本では "evidence-based techniques"(科学的根拠に基づいた技法)を紹介しているとのことですが、数ある治療法のうち行動療法は、英語圏では確かに研究が進んでいます。

同様に行動療法に基づいた支援技法を紹介した本として、カナダの Helping Your Child with Selective Mutism(邦訳『場面緘黙児への支援』)がありますが、今回の本は学校に基礎を置いた専門家(日本で言うと教師やスクールカウンセラー等)を対象とした本であるのに対し、カナダの本は保護者が対象です。

専門家向け、行動療法というと、むしろイギリスの The Selective Mutism Resource Manual に近いです。ただ、今回の本は著者がアメリカの大学所属ですし、アメリカ英語で書かれているなど、どちらかと言うと北米向きの本なのかなと思います(出版社のオックスフォード大学出版局はイギリスの大学関係ですが)。

■ 2章までを読んで

第1章(場面緘黙症の概説)と第2章(場面緘黙症児の評価)までを読んだ感想を書きます。

◇ "refuse to speak" "reluctant to speak" "unwillingness to speak"

気になるのは、"refuse to speak" "reluctant to speak" "unwillingness to speak" という表現が多用されていることです。

確かに話すことができない、あるいは話すのが苦手な緘黙の子にとって、発話は必ずしも楽しいものではなく、そうしたことはあまりしたくないと思う子も少なくないかもしれません。しかし、このような言い方を多用すると、緘黙の子は自らの意思で緘黙しているという誤解をも与えてしまいやしないでしょうか(私は英語には自信がないのですが)。もっとも、著者は、社会不安がもとで緘黙している子がほとんどだと書いてはいるのですが。

◇ 分かりやすい

ですが、平易な英文で分かりやすく、具体的かつ実践的で、全体的によくまとめられています。第1章では不登校について触れた箇所があるのですが、英語圏の緘黙関連文献で不登校について言及したものは最近見かけず、興味深かったです。第2章では、重要でありながら類書ではこれまで(全く?)紹介されることのなかった Selective Mutism Questionnaire(場面緘黙症質問票)が載っており、これは役立つでしょう。



[続きの記事]

◇ 続・新しい緘黙の洋書