緘黙は社会不安障害の特定用語になる?

更新日:-0001年11月30日(投稿日:2013年01月15日)
2013年5月に予定されている米国精神医学会による精神疾患の診断基準の改訂により、場面緘黙症は、社交恐怖(社会不安障害)の特定用語に位置づけられる可能性があります。

※ 結局、特定用語にはなりませんでした。(2014年2月13日追記)

■ DSM について

米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)は、現在 DSM-IV-TR こと第4版改訂版が出ています。私は専門家ではないのでよく分からないのですが、日本でもよく引き合いに出されるもので、大きな影響力を持っているようです。

もちろん、緘黙の説明でもよく引用されていて、例えば、かんもくの会や、かんもくネットといった国内の代表的な緘黙支援団体のウェブサイトでも紹介されています。

■ DSM が今年改訂され、緘黙の位置づけが変わる?

この DSM の第5版 DSM-V が、2013年5月に公式発表される予定です。緘黙に関する記述もこれにあわせて書き換えられるものとみられています。

大きな変更点は、緘黙の位置づけです。DSM-IV-TR では、選択性緘黙(医学書院から出ている邦訳では場面緘黙症はこう訳されています)は「幼児期、小児期、または青年期の他の障害」に分類されています (American Psychiatric Association, 2000)。これが、社交恐怖(社会不安障害)の特定用語という位置づけに変更されると言われています。

まだ公表されていないものをどうして私がこう言えるのかというと、まず、DSM-V の公式サイトには、その草案が以前から載っていたからです(APA DSM-5)。また、ジョンズ・ホプキンス大学の assistant professor(助教?准教授?)の Courtney Keeton 氏は、2012年12月に開かれたウェビナーの中で、"In the coming year we have a revision of the DSM coming out. And this is where selective mutism is going to be reclassified and considered as a specifier of social anxiety disorder." などと述べています(Keeton, C)。ですが、慎重な性格の私はこれでも確証が持てないので、ここでは「可能性があります」という表現にとどめています。

ところで、特定用語とは何なのでしょうか。実は私にもよく分からないのですが、DSM-IV-TR の邦訳版では、「特定用語は、1つの疾患の中である病像を共有し、より均一性のある下位グループの者を定義する機会を与えるものである」などと書かれてあります。例えば、DSM-IV-TR で「社交恐怖(社会不安障害)」の項を見てみると、最後の方に「該当すれば特定せよ」という指示があり、さらにその下に「全般性 恐怖がほとんどの社会的状況に関連している場合」云々と記述されています (American Psychiatric Association, 2000)。緘黙もこういう扱いになるらしいです。おおざっぱにいうと、私は、緘黙は社交恐怖の下位グループになると解釈していますが、間違っているかもしれません。

■ 緘黙の概念については、これまでも議論があった
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緘黙の概念や、緘黙を DSM でどう扱うべきかについては、かなり前から学術的な議論がありました。今回予想されている改訂はそれを反映したものと思われます。

私が見たところ、1992年には既に、場面緘黙症は社交恐怖の一種である可能性があると論ずる論文が出ています(Black and Uhde, 1992)。1995年には、緘黙児100人を調査し、そのほとんどが(この論文では97%)社交恐怖や回避性障害をあわせもっていることなど七つの根拠により、「場面緘黙症は、社会不安の一つの症状である」と結論付けられる論文が出ています(Steinhausen and Juzi)。DSM の分類の再考を主張する論文が出たこともあります(例えば、Anstendig, 1999)。

■ 変更の影響は

この変更、かなり大きな影響があるだろうと思います。ですが、どのような影響があるのか、私などには計り知れません。

私はこれにより、緘黙児は意図して話さないとか、頑固で話さないとか、そういった誤解が持たれにくくなる効用があるかもしれないと考えています。あくまで不安がベースにあって話せないというのがおおむね正しい理解ではないかと思います。

ただ、中には、今回の変更に反対の意見を持つ人もいるようです。Facebook を通じた反対運動までありました。その大きな理由の一つは、緘黙の診断基準の要件の一つである症状の持続期間が、従来の1か月から6か月に伸びることが予想されるからです(18歳未満の場合)。社交恐怖は症状の持続期間が6か月以上を要件とされているので、緘黙の場合もこれにあわせて変更されるとみられます。ですが、これにより、6か月未満の早期に緘黙と診断することができなくなり、緘黙児への早期介入にも影響が出るというのです。

■ まとめ

DSM の改訂により、緘黙は社交恐怖(社会不安障害)の特定用語とされる可能性があります。予想通りになるのか私には確証がないのですが、今後の情報や、5月に予定されている DSM-V の公式発表を注視したいと考えています。

[付録 場面緘黙症の位置づけ]

○ 学校教育法施行規則などでは、情緒障害
○ 発達障害者支援法などでは、発達障害
○ 今年改訂されるDSM では、社交恐怖(社会不安障害)になる?

医学の世界では、場面緘黙症は(社会)不安障害(欧米では特にこの見方が多い)、日本の教育の世界では情緒障害とされることが多く、ある限定的な場面では発達障害として扱われるというのが、私のおおざっぱな理解です。間違っているかもしれません。

[続報]

◇ 緘黙、新診断基準で「不安障害」のカテゴリに
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[文献]

◇ American Psychiatric Association. (2002). DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引. (高橋三郎, 大野裕, 染矢俊幸, Trans.). 医学書院. (Original work published 2000)

◇ Anstendig, K.D. (1999). Is selective mutism an anxiety disorder? Rethinking its DSM-IV classification. Journal of anxiety disorders, 13(4), 417-34.

◇ APA DSM-5 | E 04 Social Anxiety Disorder (Social Phobia). In American Psychiatric Association DSM-5 Development. Retrieved January 4, 2013, from http://www.dsm5.org/ProposedRevision/Pages/proposedrevision.aspx?rid=163

◇ Black, B., and Uhde, T.W. (1992). Elective mutism as a variant of social phobia. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 31(6), 1090-1094.

◇ Keeton, C. (2012). Understanding selective mutism. Retrieved from http://www.youtube.com/watch?v=DqytA_SUcP4

◇ Steinhausen, H.C., and Juzi, C. (1996). Elective mutism: an analysis of 100 cases. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 35(5), 606-614.

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