有名専門家「situational mutismと呼ぶべき」

更新日:2020年04月15日(投稿日:2020年04月15日)
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selective mutism だと、話さないことを選択しているという誤解も


場面緘黙症(正式には「選択性緘黙」)は、英語で selective mutism と呼びます。

それを、situational mutism と呼ぶべきだ--という意見が以前から海外にありました。なぜなら、selective という言い方をすると、話さないことを自らの意思で選択しているという誤解を与えないからだというのです。

↓ 2015年に公開した記事です。イギリスの緘黙団体の役員が、Situaional Mutism の方を好むと発言。
◇ SMIRA役員「選択性緘黙という名称より、場面緘黙症の方を好む」
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日本でも、「選択性緘黙」を「場面緘黙」に変えるべきだという意見があります。理由も同じです。それと似たようなものなのかもしれません。

先日、Lucy Nathanson氏も主張


situational mutism と呼ぶべきという意見は、今でも根強くあるようです。先日4月9日に、イギリスのチャイルドセラピスト Lucy Nathanson氏が「なぜ selective mutism は situational mutism と呼ぶべきか」(Why Selective Mutism should be called Situational Mutism)と題する YouTube動画を公開しました。

↓ その動画です。英語。5分37秒。
Why Selective Mutism should be called Situational Mutism


※ 動画をYouTubeのページでご覧になりたい方は、こちらをクリックしてみてください。
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動画によると、Lucy Nathanson氏も同様の考えのようです。

しかも、よく聴いてみると、これはLucy Nathanson氏だけの主張ではないようです。「緘黙コミュニティの多くの人だけでなく、私も……」(I as well as many people in the selective mutism community...) と話す場面があります(3分34秒頃~、4分35秒頃~)。

緘黙関係者の間で有名な専門家の発言には、一定の重みがある


Lucy Nathanson氏は緘黙を専門とする方で、海外の緘黙関係者の間では有名な方です。同氏のFacebookページ「Confident Children」のフォロワー数は5,000件を超えます。日本でフォロワー数が最も多いのはかんもくネットで、1,800件超です。Facebookの普及度は国によって違うので一概には比較できませんが、その多さが分かります。

また、Lucy Nathanson氏はイギリスの専門家ですが、同氏のFacebookページは幅広い国や地域の人が見ていて、ある程度世界的に名前が知られているようです。こうした方が situational mutism と呼ぶべきという考えを持っていて、かつ、その考えを発信した事実には一定の重みがあります。

さらに、多くの緘黙関係者が同様の考えを本当に持っているとすれば、これは注目に値します。実際、先ほどの動画を紹介した Facebook投稿にはコメントが20件ついているのですが(一部返信含む)、その内容はほとんど Lucy Nathanson氏の主張に同意するものばかりです。

◇ その Facebook投稿
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ただし、「いいね!」は100件超、「シェア」は30件超、YouTube動画の再生回数は550回超で、そこそこ多いものの、特筆するほど多くの反響があったわけではありません。

また、名称を situational mutism と変える具体的な動きは、少なくとも私は確認していません。


緘黙児が、挨拶言葉が苦手な理由

更新日:2020年02月29日(投稿日:2020年02月29日)
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なぜ場面緘黙症の子どもは、挨拶言葉が苦手なのか--

イギリスのチャイルドセラピスト Lucy Nathanson氏は2月24日、その理由と対策について動画配信の中で説明しました。

↓ その動画です。Facebookライブの過去配信分より。動画が自動再生するかもしれません。
◇ Selective Mutism: why certain words are more tricky (hello / goodbye / please / thank you / sorry) - Confident Children - Selective Mutism Therapy
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Lucy Nathanson氏は緘黙を専門とする方で、支援活動の一環として、このように緘黙に関する動画を多数公開しています。同氏を頼りにしている方は世界中にいて、今年の初めにはオーストラリアやタイまで支援に行ったそうです。Facebookページのフォロー数は5,000件以上で、これは日本で最もフォロー数が多いかんもくネットの倍以上に上ります。

さて、動画の中で、Lucy Nathanson氏は、緘黙児が挨拶言葉が苦手な理由を4つ挙げています。簡単にまとめてみます。

挨拶言葉が苦手な4つの理由


理由1:プレッシャーを与える言葉だから(1分23秒頃~)


挨拶をしないと無作法だとみなされてしまいます。挨拶言葉は、緘黙児にとってプレッシャーを与え、不安を引き起こす言葉だからと、Lucy Nathanson氏は述べています。


理由2:挨拶言葉を使わない経験をよりたくさん重ねてきたから(2分28秒頃~)


挨拶を求められる

挨拶できず、固まる

親など、誰かが助ける

緘黙児の不安が減る

「自分は挨拶ができない」と学習する

緘黙児は、こうした経験をよりたくさん重ねてきているとLucy Nathanson氏は述べます。同氏は、「負の強化」 (negative cycle of reinforcement) という学習心理学の概念らしき言葉を持ち出して説明しています。こうした経験と、挨拶言葉を緘黙児は結びつけてしまうのです。


理由3:自分から言い出さなければならないから(4分28秒頃~)


Lucy Nathanson氏が挙げる挨拶は、自分から言い出さなければならないものです。このように自分から言い出す発話は、緘黙児にとって特に難しいからという理由です。相手の話に返事をする方が、比較的しやすいです。


理由4:ウォーミングアップの時間がないから(5分43秒頃~)


ウォーミングアップの時間なしに、挨拶をしなければならないからという理由です。


コメント


Lucy Nathanson氏の見解


今回の動画で、Lucy Nathanson氏は、緘黙児が挨拶言葉が苦手な理由はああだ、こうだと断定的に話しています。ですが、Aimee Kotrba氏らが述べているように、本当に緘黙児は挨拶言葉が苦手なのかどうか、そしてその理由については、研究で明らかになっているわけではないのではないかと思います (Kotrba and Saffer, 2018)。私見を話しているだけでしょう。

今回の件に限らず、専門家が断定的に言い切ると、その内容を私たちは安易に信じてしまいがちですが、注意したいところです。

とはいえ、これまでの緘黙の理解をよく踏まえた説明で、説得力を感じます。また、緘黙児が挨拶言葉が苦手な理由をここまで詳しく述べた人を、少なくとも私は見たこともありません。Aimee Kotrba氏らの著書に少し書かれているのを見たことがある程度です (Kotrba and Saffer, 2018)。


理由2の「挨拶を言葉を使わない経験をよりたくさん重ねてきたから」について


理由2については、Aimee Kotrba氏らもほぼ同様のことを述べています (Kotrba and Saffer, 2018)。同氏らは「過剰訓練」? (over-practice) や「回避」 (avoid) という、学習心理学の概念らしき言葉を用いて説明しています。

これは、以前お話しした、緘黙行動が維持・強化されるサイクルが、挨拶場面でも起きているということでしょう。

↓ そのサイクルです。
負のサイクル

なお、この図は英語圏では頻出に近いです(本などによって図の書き方は若干異なります)。Lucy Nathanson氏もAimee Kotrba氏らも、当然これを念頭に、緘黙児が挨拶言葉を苦手とする理由として挙げたものと思われます。

理由3の「自分から言い出さなければならないから」について


この理論だと、同じ挨拶でも、例えば日本語の「おはよう」に対して、「おはよう」と返すなど、相手からの挨拶に対して挨拶を返すのは比較的易しいことになります。そうかもしれません。





緘黙と感覚処理障害、感覚過敏

更新日:2019年12月01日(投稿日:2019年12月01日)
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感覚処理障害や感覚過敏に重点を置いた、緘黙の解説


アメリカの場面緘黙症研究治療センター「SMartセンター」(Selective Mutism Anxiety Research & Treatment Center)が、緘黙理解のための小冊子をインターネット上で公開しています。URLから見て、2018年4月に公開されたものと思われます。

↓ その小冊子です。PDF。3.72MB。
◇ What is Selective Mutism?
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これを読んで驚いたのが、感覚処理障害や感覚過敏の記述に重点が置かれていることです。表紙や裏表紙を含んだ全28ページのうち、5ページ目と6ページ目が、感覚処理についての記述でした。序盤の、緘黙に関する本当に基本的な事柄の説明をするべき箇所で、2ページにわたってこの問題を取り上げているのです。

その5ページ目の冒頭には、次のように書かれてあります。

場面緘黙症研究所 (SMRI) の研究が示すところによると、場面緘黙症を呈する多くの子どもにはまた感覚過敏があり、感覚処理障害 (SPD) の基準に当てはまります。このように、SPD は緘黙行動の根源的な原因になることがあります。

Research from the Selective Mutism Research Institute (SMRI) indicates many children who present with Selective Mutism also have sensory sensitivities and meet the criteria for Sensory Processing Disorder (SPD). Thus, SPD can be an underlying reason for mute behavior.

場面緘黙症研究所は、SMartセンターと密接な関わりがある民間の研究所です。


その元となる研究を確かめると……


上の記述の真偽を確かめてみましょう。場面緘黙症研究所が関わった研究の概要は、公式サイト上で公開されています。

↓ そのページです。
◇ Research – Selective Mutism Research Institute
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このうち、先ほどの引用箇所で触れられた研究は、例えば次の2件と思われます。

A Large Sample Study of Comorbidities in Childhood Selective Mutism.
What Else is Going On? Selective Mutism Comorbidities.

これらは、緘黙の治療施設にかかった緘黙児の併存症の研究です。前者は2002年~2016年、後者は2002年~2015年までに緘黙の治療センターにかかった緘黙児それぞれ1,311例(!)と1,266例(!)を報告しています。

他にも、以下の研究が挙げられます(一部重複もあり)。

Gender Differences in the Sensory Profiles of Children with Selective Mutism.
Sensory Processing Patterns in Selective Mutism using the Sensory Profile.
Parents’ Perspective: Children with Selective Mutism and Sensory Processing.
Parents’ Perspective: Children with Selective Mutism and Sensory Processing.
Sensory Sensitivities in Children with Selective Mutism: Why Are They Important to Consider?
Sensory Sensitives in Children with Selective Mutism: Are They Different Than the Norm?

これらの研究を見ていると、例えば82%の緘黙児に少なくとも1つの感覚処理の問題があり、例えば音に過敏な緘黙児が35.7% (N=1,257) で、これに対して定型発達児の場合は11.9% (N=1,538) など (Sensory Sensitives in Children with Selective Mutism: Are They Different Than the Norm?)、確かに感覚過敏な緘黙児は多めであることを示す結果が見受けられます。

ただし、感覚処理障害の診断基準に当てはまった緘黙児は8.9%で、緘黙児でない子 (5-16%) と比べてもとりわけ高くないという結果もあります (A Large Sample Study of Comorbidities in Childhood Selective Mutism)。

他にも、緘黙児は全般として、定型発達児と感覚機能のほとんどの分野で似通っているけれども、無視できないほど大きい少数の緘黙児が、いくつかの特定の分野で感覚の問題があったという研究 (Sensory Processing Patterns in Selective Mutism using the Sensory Profile) などもあります。


問題提起の意味もあったのかも


公式サイトで公開されている範囲の研究成果ではありますが、これらを見ると、SMartセンターの小冊子が、この問題についてあそこまで強調したのは妥当だったのかというと、何もあそこまでという気がしないでもありません(専門家でもない私が言うのもなんですが)。

ただ、緘黙と感覚処理障害、感覚過敏については他にあまり研究がないようです。そんな中、先ほど見たように、この分野については場面緘黙症研究所が継続的に研究を行ってきました。こうしたことから、場面緘黙症研究所と関わりの深い SMartセンターが、この問題についてあれだけ重点的に書いたのではないかとも思います。やはり、自分たちが専門的に研究している分野は強調したいものでしょう。もしくは、問題提起の意味もあったのかもしれません。

どちらにしろ、あの小冊子の記述は気になります。