人前で文字を書くことの恐怖症

更新日:2023年01月14日(投稿日:2023年01月14日)
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場面緘黙症があると、特定場面で話せなくなるだけでなく、字を書けなくなってしまう人もいます。

アルゼンチンの緘黙団体 Mutismo Selectivo Internacional は Facebookページの中で、これは ESCRIPTOFOBIA であると述べています。英語で言うと scriptophobia。日本語に訳すとすれば何でしょう、人前で文字を書くことの恐怖症といったところでしょうか。

↓ そのFacebookページの投稿へのリンクです。
◇ Mutismo Selectivo Internacional
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緘黙児者が特定場面で字を書けなくなることを、このような恐怖症として説明するのは、一般的ではないのではないかと思います。

とはいえ、ちょっと興味深いと私は思いました(私は専門家ではありませんけれども)。なぜならば、これには、特定場面で字を書けなくなる状態は様々な人が起こりうる症状であり、字を書けなくなる緘黙児者は、そうした症状を併発したものという含意を感じるからです。こうした見方は今のところ一般的ではありませんが、緘黙の理解に新たな視点を提供する可能性を感じます。

それならば、特定場面で動けなくなる「緘動」はどうか。あるいは、トイレに行けなくなる状態のことはどうか。さらに考えが及びます。

なお、上と似たものとして、書字恐怖症(graphophobia)というものもあります。また、書痙(writer's cramp)と呼ばれるもののありますが、これは手が震えるというもので、人前で文字を書くことの恐怖症とは異なります。


コロナ禍で緘黙児者が増えてる?(米)

更新日:2022年12月14日(投稿日:2022年12月14日)
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その有病率は、実は増えています。おそらく、それは不安が根底にある障害であって、特にコロナ以降、私たちは非常に不安な世界で生きているからです。

[It] actually has been rising in prevalence probably because it is anxiety based and we live in a very anxious world, especially since COVID.

場面緘黙症について、アデルフィ大学(ニューヨーク)のChristy Mulligan助教がこう述べています。同氏は学校心理学の助教で、博士論文は緘黙の分類の研究であるなど、緘黙を専門の一つとしています。

↓ 情報源です。アデルフィ大学ウェブサイトへのリンク。
◇ Christy Mulligan, PsyD: Helping Troubled Youth and Sharing Her Knowledge With Her Students | Adelphi University
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ただ、何をもって緘黙の有病率が増えていると述べているのか、その根拠はここでは示されていません。

コロナ禍でメンタルヘルスの悪化が問題になっていると言われており、アメリカでは日本以上にそうした話を耳にします。WHO(世界保健機関)も、パンデミックの最初の年で、鬱や不安の人が世界で25%増えたとしています。

↓ 鬱や不安が25%増えたというWHOの記事です。
◇ COVID-19 pandemic triggers 25% increase in prevalence of anxiety and depression worldwide
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それならば、緘黙児者が増えているのも、コロナ禍で不安の人が増えているからかもと考える人がいるのも分からないまでもありません。

ただ、緘黙はかなり強い不安を背景としたものです。コロナ禍で、そこまで強い不安を持った人が増えるだろうかという素朴な疑問が私にはあります。それよりも、ソーシャルディスタンスの実施などにより、人と接触しにくくなったことが、緘黙の維持や強化につながり、緘黙が改善しにくい人が増えた可能性の方がまだ考えられるような気がします。

もっとも、私も何の根拠もなく言っているのですが……。どちらにしろ、気になる発言です。同じような認識は、他の専門家の間で広がっているのでしょうか。


あの署名のその後(英)

更新日:2022年11月26日(投稿日:2022年11月26日)
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署名が40,000人近く集まる


オンライン署名サイトChange.orgで、イギリスの場面緘黙症支援に関する署名が行われている--

という記事を、今年6月に公開しました。署名の内容は、緘黙の子どもや大人を治療するための、NHSのpathwayを作って欲しいというもの。イギリスのどこに住んでいても、標準化された治療を平等に受けられるようにして欲しいということのようです。イギリスの人口は日本の半分程ですが、当時3,000人近くの署名が集まっていました。

↓ その当時の記事へのリンクです。英語。
◇ 緘黙署名に3000人近く(英)
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あれから5ヶ月、署名の賛同者数はさらに膨らみ、40,000人近くにまでなりました。現在は署名数の増加ペースは落ち着いています。

↓ 現在の署名ページへのリンクです。英語。
◇ Create an NHS pathway of treatment for children and adults diagnosed with Selective Mutism
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ここまで署名数が多いと、やはりイギリスの緘黙関係者以外の人も、数多く署名したのかもしれません。

署名ページの「お知らせ・最新状況」によると、署名を呼びかけたJoanna Turnerさんは、国会議員に繰り返し会ったそうです。文章から解釈するに、その議員は、Joanna Turnerさんの地元のAndrew Murrison(アンドリュー・マリソン)下院議員のことと思われます。Murrison議員は医学博士です。保守党の議員で、現在はスナク内閣で防衛政務次官を務めています。

イギリスは最近首相が短期間で2代交代したり、エリザベス女王が崩御したりしています。Murrison議員にしても、政権与党にいるため、役職がコロコロ代わったかもしれません。陳情をするには不安定な政治環境が続いてきましたが、影響はなかったのでしょうか。


BBCが地方ニュースで取り上げる


活動の成果か、BBCが9月、Joanna Turnerさんの地元のニュースで、この署名活動のことを伝えました。

↓ そのニュースへのリンクです。
◇ Selective mutism families left 'isolated' due to lack of care
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記事によると、署名を呼びかけた Joanna Turner さんは、娘さんが緘黙なのだそうです。しかし、治療計画は策定されずいわば放置され、その経験が今回の署名活動につながったそうです。