Low profile SM-ほんの少し話すばかりに見過ごされる

更新日:2018年12月09日(投稿日:2018年12月09日)
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目立たない緘黙


場面緘黙症というと、特定場面で「全く」話せないという説明がなされることがあります。

確かに全く話せない緘黙児者もいます。ですが、「全く」話せない状態に限定するのは狭すぎではないかなと、非専門家ながらに思います。

イギリスの緘黙治療の本 The Selective Mutism Resource Manual(第2版) は、緘黙をもう少し広くとっています(Johnson and Wingtgens, 2016, p.31)。診断基準とされる米国精神医学会のDSM-5に「この障害がある子どもは発話を始めたり、他の人に話しかけられた際に相互に返答したりはしない」 (Children with this disorder do not initiate or reciprocally respond when spoken to by others) という記述があることから、「緘黙児は最小限に、しかし、相互的、会話的でない形で返答することはあるかもしれない」 (they may respond minimally but not in a reciprocal, conversational manner) と解釈しています。

そして、このように最小限に返答する緘黙を、「目立たない緘黙」 (low-profile SM) と呼んでいます。こうした子どもは、その高い不安レベルが認識されないかもしれないため、学校では特に脆弱であるとのことです。下手に話すために、ただの恥ずかしがり屋であると思われて見過ごされてしまうということなのでしょう。

そして、適切な支援がなければ、多くの目立たない緘黙の子は「目立つ緘黙」(後述)のパターンが顕在化するまで次第に話さなくなっていくか、目立たない緘黙がある大人になると述べています。

一方、全く話せない緘黙を「目立つ緘黙」 (high profile SM) と呼んでいます。


緘黙と認識されない子がいるかも


合点がいきそうな話です。そうだとすると、色々思うところがあります。緘黙を経験した人の中には、適切な対応をとってもらえなかったと主張する人も多いですが、もしかしたらそうした人たちの中には最小限の返答ぐらいはできた人が多く、そのために問題視されなかった人もいるかもしれません。

緘黙が知られるようになっても、「この子は最小限の返答はするから緘黙ではない」として、適切な支援が行われないといったことも起こらないとも限りません。

もっとも、最小限に返答する緘黙は本当に目立たないかどうかは、私が知る限り、しっかりしたかたちで検証は行なわれていません。そうした研究発表の情報は確認できません。「目立たない緘黙」の長期経過についても、はっきりしたことはまだ明らかになっていないのではないかと思います。実際、先のイギリスの本は、このあたりについて、根拠となる文献を挙げていません。今後の研究が待たれます。

どちらにしろ、緘黙を「全く」話せない状態に限定すると、「目立たない緘黙」を見過ごす以前に、除外することになります。「目立たない緘黙」という呼び方は、この意味では分かるような気もします。





ある専門家「緘黙放置の結果、自殺思考が起こることも」

更新日:2018年11月19日(投稿日:2018年10月25日)
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起こり得る負の結果の一つとして、挙げられる


場面緘黙症が治療されなければ、何らかの負の結果が起こり得ます。

アメリカを代表する緘黙専門家の一人、Elisa Shipon-Blum(エリザ・シポンブラム)氏は、この起こり得る負の結果を9つ挙げ、その最後の一つに「自殺思考と、自殺の可能性」(Suicidal thoughts and possible suicide)を挙げています。

↓ 動画です。29分33秒から始まります。2018年3月12日投稿。


このシポンブラム氏の見解は、同氏が運営する緘黙の研究治療センター(SMartセンター)のホームページにも書かれてあります。

↓ そのホームページです。中盤あたりに書かれてあります。ここでは負の結果は8つ挙げられています。
◇ What Is Selective Mutism – Selective Mutism Anxiety Research & Treatment Center | SMart Center
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この問題について言及した専門家は、シポンブラム氏が初めてではありません。認定臨床専門カウンセラーの Donna Mac氏も、著書の中で取り上げています(Mac, 2015)。

同氏は、緘黙の診断そのものは自殺既遂の特定のリスク要因ではないものの、緘黙児者の多くは孤独、絶望、無力、無価値、重荷といった多くのリスク要因となる類の思考や感情を、長期的に経験すると述べています。

同氏はまた、強い不安が自殺既遂の一つのリスク要因である可能性を示唆しています。


今のところ研究がない、明らかになって欲しい


緘黙の経験者と見られる方で、自殺思考の話をした方は、日本でも以前からインターネット上等で見かけることがありました。場面緘黙症Journalも、コメントを頂いたことがないことはありません。

ただ、緘黙と自殺の関係については、私が知る限り研究は出ていないはずです。冒頭のシポンブラム氏も、何を根拠にあのようにおっしゃったのかは、はっきりしません。

緘黙を経験していない人でも、命を絶ちたいと考えることはあるでしょう。緘黙経験者と見られる方が、その種の投稿をネット上で行っているのを見たからといって、では緘黙にはそのリスクがとりわけ高いかというと、そこまでのことは言えません。

とはいえ、シポンブラム氏があのような見解を示したことはインパクトがあります。緘黙と似た社交不安症など、他の不安症については自殺のリスクに関する研究があるようです。そうした先行研究を調べると、緘黙についてもリスクがあっても不思議ではないと思わされます。緘黙についても詳しいことが明らかになることを期待します。

どちらにせよ、緘黙が軽く見られて放置されることは無くしたいです。





場面緘黙症とトラウマ性緘黙症は違う

更新日:2018年04月22日(投稿日:2018年04月22日)
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場面緘黙症とトラウマ性緘黙症の違い


場面緘黙症とトラウマ性緘黙症(心的外傷性緘黙症)の違いを説明するなどしたこの記事が、海外で好評のようです。

◇ Q and A Cover Reveal: After Zero by Christina Collins
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書かれてある通りで、トラウマ性緘黙症は、災害、事故、虐待といった強いショック体験の後に、あらゆる場面で急に話せなくなるものです。上の記事では、心的外傷後ストレス反応(PTSR: posttraumatic stress response)と説明されています。

一方、場面緘黙症は、学校など特定場面で話せなくなる不安症です。もともと不安が強い子が学校で声をからかわれて話せなくなるといったことなら時にありますが、トラウマ性緘黙症のような強いショック体験が原因で話せなくなることは稀です。


「ハリウッド版緘黙症」


上の海外記事によると、海外のフィクションで見られる緘黙は、トラウマ性緘黙症が多いそうです。似たようなことを主張した方は過去にもいて、「ハリウッド版緘黙症」(Hollywood version of mutism)という造語を残したアメリカの精神科医がいます(Dummit, n.d.)。海外では緘黙児者には何らかのトラウマがあるという誤解がわりとあるようで、このように両者の区別が強調されることがあります。

こうしたこともあって、場面緘黙症Journalでは、場面緘黙症を扱っているとされる海外フィクションを取り上げるのは、これまで慎重に行なってきています。

日本でもフィクションでトラウマ性緘黙症が多いのかどうかは、私には分かりません。強いショック体験の後に話せなくなる子のフィクションはあっていいと思いますが、それがもし「場面緘黙症」という設定だった場合は注意したいです。

なお、冒頭でご紹介した記事は、場面緘黙症とトラウマ性緘黙症の違い以外にも興味深いことが色々と書かれてあります。インタビュー記事なのですが、インタビューを受けた方は緘黙の経験者です。この方は、緘黙がある人物が主人公の子ども向けフィクション After Zero という本を出版されるそうです。