緘黙と感覚処理障害、感覚過敏

更新日:2019年12月01日(投稿日:2019年12月01日)
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感覚処理障害や感覚過敏に重点を置いた、緘黙の解説


アメリカの場面緘黙症研究治療センター「SMartセンター」(Selective Mutism Anxiety Research & Treatment Center)が、緘黙理解のための小冊子をインターネット上で公開しています。URLから見て、2018年4月に公開されたものと思われます。

↓ その小冊子です。PDF。3.72MB。
◇ What is Selective Mutism?
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これを読んで驚いたのが、感覚処理障害や感覚過敏の記述に重点が置かれていることです。表紙や裏表紙を含んだ全28ページのうち、5ページ目と6ページ目が、感覚処理についての記述でした。序盤の、緘黙に関する本当に基本的な事柄の説明をするべき箇所で、2ページにわたってこの問題を取り上げているのです。

その5ページ目の冒頭には、次のように書かれてあります。

場面緘黙症研究所 (SMRI) の研究が示すところによると、場面緘黙症を呈する多くの子どもにはまた感覚過敏があり、感覚処理障害 (SPD) の基準に当てはまります。このように、SPD は緘黙行動の根源的な原因になることがあります。

Research from the Selective Mutism Research Institute (SMRI) indicates many children who present with Selective Mutism also have sensory sensitivities and meet the criteria for Sensory Processing Disorder (SPD). Thus, SPD can be an underlying reason for mute behavior.

場面緘黙症研究所は、SMartセンターと密接な関わりがある民間の研究所です。


その元となる研究を確かめると……


上の記述の真偽を確かめてみましょう。場面緘黙症研究所が関わった研究の概要は、公式サイト上で公開されています。

↓ そのページです。
◇ Research – Selective Mutism Research Institute
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このうち、先ほどの引用箇所で触れられた研究は、例えば次の2件と思われます。

A Large Sample Study of Comorbidities in Childhood Selective Mutism.
What Else is Going On? Selective Mutism Comorbidities.

これらは、緘黙の治療施設にかかった緘黙児の併存症の研究です。前者は2002年~2016年、後者は2002年~2015年までに緘黙の治療センターにかかった緘黙児それぞれ1,311例(!)と1,266例(!)を報告しています。

他にも、以下の研究が挙げられます(一部重複もあり)。

Gender Differences in the Sensory Profiles of Children with Selective Mutism.
Sensory Processing Patterns in Selective Mutism using the Sensory Profile.
Parents’ Perspective: Children with Selective Mutism and Sensory Processing.
Parents’ Perspective: Children with Selective Mutism and Sensory Processing.
Sensory Sensitivities in Children with Selective Mutism: Why Are They Important to Consider?
Sensory Sensitives in Children with Selective Mutism: Are They Different Than the Norm?

これらの研究を見ていると、例えば82%の緘黙児に少なくとも1つの感覚処理の問題があり、例えば音に過敏な緘黙児が35.7% (N=1,257) で、これに対して定型発達児の場合は11.9% (N=1,538) など (Sensory Sensitives in Children with Selective Mutism: Are They Different Than the Norm?)、確かに感覚過敏な緘黙児は多めであることを示す結果が見受けられます。

ただし、感覚処理障害の診断基準に当てはまった緘黙児は8.9%で、緘黙児でない子 (5-16%) と比べてもとりわけ高くないという結果もあります (A Large Sample Study of Comorbidities in Childhood Selective Mutism)。

他にも、緘黙児は全般として、定型発達児と感覚機能のほとんどの分野で似通っているけれども、無視できないほど大きい少数の緘黙児が、いくつかの特定の分野で感覚の問題があったという研究 (Sensory Processing Patterns in Selective Mutism using the Sensory Profile) などもあります。


問題提起の意味もあったのかも


公式サイトで公開されている範囲の研究成果ではありますが、これらを見ると、SMartセンターの小冊子が、この問題についてあそこまで強調したのは妥当だったのかというと、何もあそこまでという気がしないでもありません(専門家でもない私が言うのもなんですが)。

ただ、緘黙と感覚処理障害、感覚過敏については他にあまり研究がないようです。そんな中、先ほど見たように、この分野については場面緘黙症研究所が継続的に研究を行ってきました。こうしたことから、場面緘黙症研究所と関わりの深い SMartセンターが、この問題についてあれだけ重点的に書いたのではないかとも思います。やはり、自分たちが専門的に研究している分野は強調したいものでしょう。もしくは、問題提起の意味もあったのかもしれません。

どちらにしろ、あの小冊子の記述は気になります。



緘黙児は、髪型で目立つのを嫌がる?

更新日:2019年11月01日(投稿日:2019年11月01日)
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髪型を変えると注意を浴びるから、変えない?


Facebookには、場面緘黙症の公開グループ(英語)があります。その公開グループで先日、緘黙児の髪型のこだわりが話題になりました。これには保護者のコメントが28件ついています。

◇ その投稿です。
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やはり男の子よりも女の子の髪型についてのコメントが多いです。髪を下ろしたままにしているとか、親が髪を触るのを嫌がるとか、そんなコメントが目立ちます。ただ、このFacebookグループの傾向を、どこまで多くの緘黙児にまで一般化できるかは、分かりません。

私が興味深く思ったのは、ある教師(であると同時に、緘黙児の保護者)の方のコメントです。

私が教室で観察してきたことは、緘黙がある子どもたちの髪が違った風に見えると、それが子どもたちの注目を集め、このことによって、緘黙の子どもたちがあの圧倒的な不安を感じることです。ですので、彼女ら彼らは、同じ髪型を保っておきたいのです。

What I have observed in the classroom is when the children’s hair looks different it draws attention to the children and this gives them that overwhelming anxiety. So, they would rather keep the same hair style.

https://www.facebook.com/groups/smawareness/permalink/2664702030262927/?comment_id=2664903086909488

これと似た話は、『場面緘黙Q&A』にも載っています(65ページの「コラム40」)。


私の場合


私は緘黙の正式な診断は受けたことがありませんし、男なので同列に扱ってよいかどうかは分からないのですが、やはり髪型を変えることは避けていました。

ただ、私の場合、目立つこと以外にも、髪型を変えるのを嫌う理由があったように思います。それは、髪型を変えたり、髪型に凝ったりすることは自己主張につながると考えていたからです。自分の趣味嗜好や考えを、他の人に知られるのが嫌だったのです。

それで無難な髪型にしていたつもりですが、それがかえって変な髪型になっていたような気もしないでもありません。それでも髪型を変えないのが、これまた変と言えば変な話でした。



場面緘黙症の誤診

更新日:2019年08月29日(投稿日:2019年08月27日)
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「PTSDの二次障害として…選択性緘黙等を併発」


亀岡暴走事故をご存じでしょうか。2012年(平成24年)4月23日、京都府亀岡市で車が暴走し、集団登校中の小学生と保護者の列に突っ込んだ事故です。3人が死亡、7人が重軽傷を負いました。

ある児童は、この事故に遭遇したことによってPTSDになり、「PTSDの二次障害として不登校や選択性緘黙等を併発する状態にある」と診断を受けたそうです(下記リンク)。「選択性緘黙」は、場面緘黙症の正式な診断名です。

↓ 裁判所ウェブサイトへのリンク。PDFファイル(593KB)。緘黙の診断については、48ページに書かれてあります。
◇ 平成27(ワ)1308 損害賠償請求事件 平成29年10月31日 京都地方裁判所
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この診断に、私は素朴な疑問を持ちました。PTSDで話せなくなるのは、場面緘黙症とは別なのではないかと (下記リンク)。

↓ 緘黙とよく混同されるもの。PTSDも"Trauma"の項目で挙げられています。Child Mind Instituteウェブサイトへのリンク。
◇ What Isn't Selective Mutism
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最近日本で発売された本だと、『場面緘黙の子どものアセスメントと支援』に、PTSD症状の一種としての緘黙と、場面緘黙症の区別が書かれてあります(コトルバ, 2014/2019, p.25)。

ただ、私はその児童を直接見たわけではありません。また、医師でもないので、そもそも診断ができません。この児童を診た医師の言うことの方がやはり確かなのかなと思いながらも、疑問は残っている状態です。


緘黙にも誤診があるようだ


この事例がそうだと言うつもりはありませんが、緘黙にも誤診される場合があるようです。誤診の実態についてまとめた研究報告は見た覚えはないのですが、文献では誤診について軽く触れられることがあります。

イラストでわかる子どもの場面緘黙サポートガイド』では、「場面緘黙の診療経験が少ない医師を受診した場合、自閉症や広汎性発達障害(疑い含む)と診断される場合が多い傾向にあります」と指摘されています(金原・高木, 2018, p.35)。

『不安障害研究』に掲載された論文では、「限定的な発話がある場合は、『緘黙』では無いと誤診されがちだが、『一貫してできない』ならば、場面緘黙の範疇に入る」と指摘されています(久田ら, 2016, p.33)。

このような誤診が指摘されているので、亀岡暴走事故の件も、誤診の可能性をつい疑ってしまいます。亀岡暴走事故に限らず、メディアで誰それが緘黙の診断を受けていたと報じられた場合も、私はそれをどこまで信用してよいか分からなくなることがあります。

誤診されてしまうと、患者の状態の正確な理解につながりません。また、適切な治療法が選択されず、時間が空費される恐れも出てきます。合理的配慮を求めるにしても、診断は基礎となりますが、その診断が誤っていると前提が崩れてしまいます。

緘黙の誤診がはびこっているとしたら、問題です。ですが、この問題が大きく取り上げられているのを見たことはありません。先ほど引用した文献についても、さらっと書かれてある程度です。昔から、緘黙の経験者などが、専門家の中にも緘黙を理解していない人が多いと訴えることがありますが、もう少し踏み込んで「誤診」という言葉を使う人は、意外に少ないと感じます。

誤診の頻度が仮に稀であるならば、さほど問題ではありませんし、大きく取り上げられないのも分かるのですが、実態はどうなのでしょうか。