日本の緘黙研究を概観した論文

更新日:-0001年11月30日(投稿日:2010年02月16日)
矢澤久史氏(東海学院大学)の「場面緘黙児に関する研究の展開」(2008年)が、ようやくネットで無料公開されました。

これは、日本の場面緘黙児に関する研究の展開を、特に初期の研究や、近年の研究に焦点を当てて概観したものです。

場面緘黙児に関する研究の展開
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最近場面緘黙症を主題にした本の出版が相次いでいますが、いずれも英語圏の本の翻訳や、海外の手法を多く取り入れたものばかりです。日本の研究動向を知りたいという方には、上の論文はおすすめです。

日本の先行研究を積極的に引用した文献として、皆さんがお馴染みのものとしては、故河井芳文氏と河井英子氏による『場面緘黙児の心理と指導』(1994)があります。この本も、日本の研究を概観するのに役立ちますが、近年の研究はどうしてもカバーしていませんし、初期の研究についても弱いです。

もしかするとあまり知られていないかもしれないのでお話しすると、場面緘黙症に関する国内の研究は、最近でもある程度出ています。これらは、緘黙症に関する研究というよりはむしろ、緘黙の子を○△療法で治したという、治療の事例研究が多いです。矢澤氏の論文には近年の国内の事例研究が何件も引用されていますが、これらはごく一部で、おそらく代表的なもののみを取り上げたのだろうと思います。

「クラスのなかの場面緘黙」

更新日:-0001年11月30日(投稿日:2010年01月22日)
このブログでは、時々緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。今回は、これです。

松村茂治 (1998). クラスのなかの場面緘黙-緘黙児と子どもたちとのふれあい-. 東京学芸大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要, 22, 75 -91.

■ 概要

場面緘黙症の事例研究です。緘黙の小学5~6年生・葉子さん(仮名)に、「フェーディング法」(行動療法)を行っています。そして、学校場面で、学級担任の教師やクラスの子どもたちが、葉子さんにどのように関わってきたかを検討しています。

■ 所感・所見

◇ 行動療法を用いた日本の研究

場面緘黙症の治療法は、英語圏の国では行動療法が盛んです。近年わが国でも『場面緘黙児への支援』や『場面緘黙へのアプローチ』といった邦訳書の発売などで、英語圏の行動療法のノウハウが知られつつあります。

しかし、実は緘黙の子に行動療法を用いた例は、日本でも昔からあります。今回取り上げる論文は、その行動療法を用いた研究の一つです。





「心因性緘黙症児のための心理治療仮説」

更新日:-0001年11月30日(投稿日:2009年11月17日)
このブログでは、時々緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回は、これです。比較的よく引用されているので取り上げます。

畠瀬直子 (1978). 心因性緘黙症児のための心理治療仮説. 児童精神医学とその近接領域, 19(4), 227-245.

■ 概要

遊戯療法により完治をみた場面緘黙症児の事例を示し、場面緘黙症の心理治療仮説を導いた論文です。

■ 所感・所見

場面緘黙症の事例研究は日本でも数多いのですが、今回の研究は、その中でもよく引用されています。調べたところ、場面緘黙症の治療仮説がある、として引用されていることがままあり、そのことが被引用回数の多さにつながっています。

心理治療仮説は、心理治療、特に遊戯療法を行う上での仮説で、私には分からない技術的な問題がいくつか含まれています。このため、この仮説についてコメントするのは控えます。

しかし、今回の論文には、ほかにも気になった点がいくつかあるので、それについてコメントします。

○ 緘黙症が「完治」

まず、この論文では、緘黙症児が遊戯療法により「完治」したという表現が用いられています。たしかに治療室内では緘黙症状が完全に消えましたが、治療室外ではどうだったのか、セラピストがいない場面ではどうだったのか、この論文を読むだけでは十分に読み取れませんでした。改善したらしいことは読み取れるのですが、どの程度の改善だったかが、もう一つよく分かりません。4年後の追跡調査では、学校では緘黙症状は消えていたものの、内気な子どもに一般的にみられる程度の問題はあったことが少し気にかかります。

たとえ治療室内で声が出るようになっても、それが治療室を出た後も続くかどうかは、一つの問題です。行動療法では、学校を舞台に少しずつ発話を促そうという試みがなされることがありますが、これにはそうした問題がないというメリットがあると、どこかで読んだ覚えがあります。学校内が言ってみれば治療室なわけで、学校で声が出ればそのまま問題解決ということになるからです。