場面緘黙症と広汎性発達障害の鑑別

更新日:-0001年11月30日(投稿日:2011年07月12日)
このブログでは、時々緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。今回はこれです。

◇ 渡部泰弘,榊田理恵 (2009). 自閉症スペクトラムの観点から検討した選択性緘黙の4例. 児童青年精神医学とその近接領域, 50, 491-503.

■ 概要

場面緘黙症と診断される患児の一部には広汎性発達障害(以下、PDDと略す)または自閉症スペクトラムが存在することを明らかにしています。

■ 所感・所見

私は日本の緘黙に関する文献を読んでいますが、近年、発達障害とのかかわりに関するものを目にするようになってきました。今回の論文もその一つです。

◇ 緘黙と PDD の鑑別

DSM-IV-TR や ICD-10 というよく用いられる診断基準によると、場面緘黙症(診断基準では「選択性緘黙」)とみられる症状があっても、PDDの診断基準に当てはまる場合は、場面緘黙症ではなく PDD と診断されます。このため、場面緘黙症とPDDの鑑別が重要になってきます。

緘黙のような症状がみられた場合、もしかしたら PDD を併せ持っていないか、疑ってみた方がよさそうです。もし併せ持っていた場合、それは PDD の二次的症状による緘黙であり、不安がもとの場面緘黙症とは違うという話になります。こうなると、支援の方法も変わってきます。実際のところ両者の鑑別を行うのは専門家ですが、この論文によると、鑑別には困難を伴うことが多いようです。はっきりしない場合、両方の可能性を視野に入れることも必要になってくるかもしれません。

◇ PDD の概念が普及する前に緘黙と診断された子

それから、1979年に荒木富士夫氏や大井正己氏らが場面緘黙症の分類を試みた論文が発表されたのですが、この論文では、これら分類の検討を行っています。著者は、当時緘黙の一分類とされたグループは、今日で言うところの自閉症スペクトラムの一部ではないかと指摘しています。荒木氏や大井氏らの論文は、PDD の概念が普及する以前に発表されたものなのだそうです。

そうすると、過去の緘黙に関する論文や書籍を読む際には、注意が必要ではないかと私などには思えてきます。今日では PDD と診断されるような子が、緘黙児として論文や本で扱われた例があるのではないかと私は考えてしまいます。


なお、場面緘黙症と PDD の鑑別については、かんもくネット代表の角田圭子氏も『児童心理』2011年3月号などの中で、掘り下げた考察を行っています。

教師の研修報告に『場面緘黙児への支援』

更新日:-0001年11月30日(投稿日:2011年05月17日)
愛媛県総合教育センターから出ている『長期研修講座研究集録』に、場面緘黙症に関する研修報告が載っています。2008年、実践協力校教師33名を対象に、場面緘黙症についての意識調査、啓発資料作成、校内研修などが行われたそうで、その報告です。

この報告は、大変興味深いです。2007年に出版された『場面緘黙児への支援』の技法が、緘黙の子の個別支援で大幅に取り入れられているからです。つまり、「人」「場所」「活動」の統合的な階段を考えながらスモールステップを踏んだり、支援チームを組んだりといったことが行われています(かんもくの会の方、この研修報告はご存知でしょうか?)。また、2008年に出た『場面緘黙Q&A』も、報告書の中で引用されています。日本でも、インターネットから場面緘黙症の支援団体が生まれましたが、その活動から生まれた書籍が、教師の研修の際に重要な参考資料とされていたことを示しています。

また、教師の意識調査も興味深いです。ときどき、学校の教師の中には場面緘黙症のことを知らない人がいるという声を耳にすることがありますが、具体的に何パーセントの教師が場面緘黙症のことを知っているとか、そうした定量的な実態の把握をしている人はそうはいないのではないかと思います。今回の調査は価値ある調査であるとともに、認知度調査の必要性についても考えさせられます(といっても、私に調査はできないのですが……)。

[文献]

◇ 高市秀昭(2008). 場面かん黙児に対する学校としての支援の在り方-教師への啓発と支援プログラムの実践を通して-. 長期研修講座研究集録, 73-76.

フェイディング法に対人関係ゲームを加える

更新日:-0001年11月30日(投稿日:2010年04月27日)
このブログでは、時々緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。今回は、これです。

◇ 沢宮容子, 田上不二夫 (2003). 選択性緘黙児に対する援助としてフェイディング法に対人関係ゲームを加えることの意義. カウンセリング研究 36(4), 380-388.

■ 概要

場面緘黙症の事例です。緘黙の幼稚園児A子さん(5歳)に対して「フェイディング法」と「対人関係ゲーム」を行っています。同時に、家庭、幼稚園など緘黙症児をとりまく集団に対して認知行動療法的アプローチを実施しています。これにより、症児の発話の頻度を高めることに成功しています。

■ 所感・所見

◇ 日本でもフェイディング法

今回場面緘黙症児に行われたフェイディング法は、症児が家族と話している最中に徐々に人が姿を現す fade-in と、家族が姿を消していく fade-out からなります。

このフェイディング法は、The Selective Mutism Resource Manual 等で紹介されている sliding in という技法と重なるところがあります。ですが、この論文の著者は、そうした海外の文献を参照したわけではなさそうです。著者はフェイディング法について、松村茂治氏の『教室でいかす学級臨床心理学』を2度にわたって引用しているため、松村氏の著書等を特に参考にしたのかもしれません。この松村氏の著書には、緘黙についての記述があるようですが、私は内容を直接確認していません。

※ なお、これとは別に、松村氏は、場面緘黙症の子にフェイディング法を行った事例を発表しています。詳しくは、「クラスのなかの場面緘黙」参照。

場面緘黙症児への行動療法というと英語圏の手法がよく引用されますが、日本でも緘黙への行動療法の蓄積が全くないわけではありません。