更新日:2020年10月18日(投稿日:2020年10月18日)
親子ペア就業とは 場面緘黙症があるパティシエ少女「みいちゃん」の親子が話題です。 このお二人を見て、私は「親子ペア就業」という言葉を思い起こしました。 親子ペア就業とは、その名の通り、親子揃って同じ職場に就業することです。特に、高齢の親と、長期ひきこもりなど無業状態にある子どもへの就労で提唱されています(子どもといっても、就職氷河期世代あたりの年齢層の人です)。 ひきこもりなど、長く働いていなかった人が、急に働こうとしても上手くいかないかもしれません。親と同じ職場だと、親が子どものことを助けることができるなどのメリットがあります。提唱者は、東京大学の玄田有史教授(労働経済学)です。 みいちゃんは別に、長く無業状態にあったわけではありません。ですが、親子が同じ職場で働いている意味では、親子ペア就業状態にあると言えそうです。緘黙者の就労の一つの選択肢として、あり得るか 考えてみると、親子ペア就業は、緘黙者の就労の一つのモデルとしてあり得るかもしれません(ひきこもり関係なく)。子どもの緘黙に理解のある親が、子どものことを助けながら働くのです。中には、親が一緒だと緘黙が発現しにくい人もいるかもしれません。 もっとも、これは一部の自営業など特殊な例に限って可能な話かもしれません。また、親が子どもの緘黙に理解があることが大前提です。子どもにしても、自分が緘黙しているところを親に見れるのが嫌という人もいるかもしれません。ただ、選択肢の一つとして考えてみると面白いかもしれないと思います。にほんブログ村参加中です いつもクリックありがとうございます。にほんブログ村
更新日:2018年09月15日(投稿日:2018年09月15日)
37歳女性の記事 オーストラリアの情報サイトでしょうか、ten daily というサイトで9月13日、場面緘黙症の記事が掲載されました。 El Earlさんという、37歳の成人当事者に取材を行なったものです。結婚や就労といった、成人当事者特有の話があります。臨床心理学者のElizabeth Woodcock博士による解説も挿入されています。 ↓ その記事へのリンクです。 ◇ The Mute Photographer: How Her Photos Do The Talking (新しいウィンドウで開く ) Elさんはこれまで20人以上の専門家と会ってきたにも関わらず、当時は専門家に緘黙への理解が不足していたことから、適切な治療を受けられなかったようです。Elさんの緘黙がここまで長引いた一因は、ここにあるのかもしれません。非言語コミュニケーション、結婚式の誓いの言葉も筆記で Woodcock博士が指摘するように、年齢が高くなればなるほど緘黙は治しにくくなるとされます。Elさんほどの年齢になると、緘黙を治すことはもちろんですが、同時に、緘黙でありながらどう社会適応を図るかという視点が重要になってくるのではないかと思います。 記事でも、緘黙を治すことよりも、緘黙のままでも非言語コミュニケーションなどで人と関わるElさんの姿に焦点が当たっています。 実はElさん、結婚して子どもがいます。これには、非言語コミュニケーションが大きな役割を果たしたようです。Elさんはオンラインで現在の夫と出会い、二人の関係はオンライン上の書き言葉で深まりました。結婚式では、誓いの言葉を筆記で行なったのだそうです(!)。なお、記者へのインタビューも、書き言葉によって行なわれています。 また、Elさんは写真家として働いていらっしゃいます。自ら写真家の仕事を立ち上げたそうです。写真撮影も、言葉を使わないコミュニケーションのようです。 Elさんにはいまだ緘黙による困難はあるだろうと思うのですが、記事を読む限り、写真家として一定の社会適応を果たしているように見えます。一つのロール・モデルになるか そういえば、2016年にスイスの新聞で取り上げられた緘黙の成人当事者も非言語コミュニケーションはとれる方で、一定の社会適応を果たしていました。奇しくも、その方の職業も写真家でした。 ↓ そのスイスの新聞の記事について。 ◇ 大人の緘黙当事者、非言語コミュニケーションで生きる(スイス) (新しいウィンドウで開く ) Elさんは話せるようになったら、なおよいと思います。ただ、緘黙が成人期に続いても、理解者がいて、非言語コミュニケーションがとれて、自分に合った仕事に出会うことができれば、ある程度何とかやっていけるかもしれないという一筋の光明を感じさせる記事だとは思います(ただし、非言語コミュニケーションがとれない緘黙児者もいます)。 もっとも、それが簡単にはいかないから次のような現実があるのですけれども。失業は、緘黙当事者の間ではよくあることだとWoodcock 博士は言います。 「私が関わった多くの成人当事者は、話さないゆえに仕事に就いていなかったり、学校を卒業していなかったり、進学していなかったりします。ですので、彼女ら彼らの人生に、本当に大きな影響を及ぼしているのです」 Dr Woodcock says unemployment is common among people with Selective Mutism. “Many of the adults I work with don’t have jobs or didn’t finish school or go on to further study because they don’t talk so it’s really impacted their lives,” Dr Woodcock said. ※ なお、これはオーストラリアでの話です。Elさんにしても、誰も雇ってくれなかったことから、起業したという経緯があります。
更新日:2017年10月29日(投稿日:2017年07月25日)
非言語コミュニケーションはとれる成人当事者の例 記事で取り上げられたのは、27歳の男性当事者です。緘黙は幼稚園入園時から続いています。 この男性は言語コミュニケーションはとれないのですが、非言語コミュニケーションをとることができます。目の前の記者にも、スマートフォンの文字入力アプリやジェスチャーを通じてコミュニケーションをとっています。 また、上の記事のページには動画もあるのですが、これを見る限り表情も豊かで、緘黙でない人と比べても差がなさそうなほどです。 緘黙児者の中は、非言語コミュニケーションも満足にとれなかったり、表情が乏しかったりする人もいるのですが、この男性はそこまでではありません。 この男性はセラピストのもとに通っていて、緘黙克服はまだ途上です。一方、写真家としての仕事を始めていて、話さなくてもジェスチャーを使うなどしてこなしているようです。電話ができないので、この方のウェブサイトには電話番号を載せていないとか。話さなくても仕事がこなせるのであれば、社会適応はある程度できていると見ることもできそうです。20代後半にまで緘黙が続くと、治るのに時間がかかりそう 成人期の緘黙は研究がとりわけ進んでいない上、私は専門家ではないのでよく分からないのですが、20代後半にまで緘黙が続くと、緘黙を治すのには時間がかかりそうです(ただし、治らないとまでは思いません)。 記事にも、男性は緘黙がアイデンティティの一部になってしまい、アイデンティティを変えるのは長い道のりだという意味のことが書かれてあります。話さない状況が持続すると起こり得る問題として「緘黙identity」という造語を荒木冨士夫氏が1979年に用いていますが、それを連想させる記述です(荒木, 1979)。 このように治りにくいとなると、緘黙を治すことはもちろんですが、同時に、緘黙でありながら社会適応を図るという福祉的な視点がますます重要になってくるのではないかと思います。このスイスの男性の例はその点、一つのモデルになるかもしれません(もっとも、このように上手くは、なかなかいかないかもしれませんが)。非言語コミュニケーションで一定の社会適応、だが…… ただ、気になる点があります。私はこの男性にお会いしたことがないのでいい加減なお話になるのですが、非言語コミュニケーションが上手すぎるように思います。あくまでこの男性の場合ですが、ある程度非言語コミュニケーションがとれるようになっても、何らかの原因で言語コミュニケーションに移行できず、非言語コミュニケーションばかりが発達してしまったなんてことはないだろうかと思います。そのため、発話の回避行動が維持・強化され、緘黙が長期化してしまった可能性を考えてしまいます。 話さなくても非言語コミュニケーションで社会適応というのもよいですが、緘黙は治せるなら治した方がよいとも思います。非言語のみのコミュニケーションには限界があるでしょうし、不安症である緘黙が持続すると他の精神疾患を続発する可能性も指摘されています。ですが、大人の緘黙は治りにくそうですし、このあたり難しいです。ドイツ語は、機械翻訳で英訳して読みました ところで、私はドイツ語を読むことができません。Google 翻訳で、英語に訳して読みました。ドイツ語は、日本語よりも英語に機械翻訳した方が読みやすいです。 ですが、それでも誤読の可能性があります。もし誤読していたら申し訳ないです。あと、ドイツ語のリスニングは機械翻訳できず、どうにもなりません。文献 ◇ 荒木冨士夫 (1979). 「小児期に発症する緘黙症の精神病理学的考察」児童精神医学とその近接領域, 20(5), 290-304.