欧州最大級の大学病院の研究計画

更新日:2022年01月19日(投稿日:2022年01月19日)
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ベルリンの大学病院


欧州最大の大学病院の一つシャリテーに、大人の場面緘黙症の研究計画があるそうです。

↓ そのページ。シャリテーのウェブサイトへのリンク。ドイツ語を、Google翻訳で日本語に訳します。
◇ 成人期の場面緘黙症における危険因子、生活満足度、および遺伝学
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↓ 原文はこちら。
◇ Risikofaktoren, Lebenszufriedenheit und Genetik bei selektivem Mutismus im Erwachsenenalter
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シャリテーはベルリンの大学病院です。レベルが高い病院としても知られています。歴史的には、ドイツにおけるノーベル医学生理学賞の受賞者の半数以上がここの出身です(細菌学者のコッホなど)。

お話ししたように、シャリテーは規模が大きいです。その中でも、「精神医学と心理療法のためのクリニック」(Klinik für Psychiatrie und Psychotherapie)に、今回の研究計画があります。


大人の緘黙者の参加、集まるか?


今回の研究計画には遺伝要因の研究も含まれていて、研究参加者から、唾液サンプルの提供を求めたりもしています。

私の誤読でなければ、この研究計画は、成人期の緘黙者400人の参加を募るようです。ですが、専門家でもなんでもない私が言うのもなんですが、果たしてそれだけの数の緘黙者が集まるか疑問に感じます。成人期の緘黙者を簡単に集めることができないからこそ、成人期の緘黙の研究が進展してこなかったのではないかとも思います。とはいえ、集まるとよいです。ドイツの緘黙団体も参加を呼びかけていますし、うまくいくとよいですね。

興味深い研究結果が明らかになり、ドイツ語のみならず、英語で発表されれば、世界中の専門家等に読まれるはずです。


研究者について


連絡先として挙げられているAndreas Ströhle教授は、不安やうつ病などの研究に携わってきた方のようです。活発な研究活動を行っていて、その研究成果はよく引用されています。中でも、2008年に発表したレビュー論文 Physical activity, exercise, depression and anxiety disorders は、Google Scholorという学術文献検索サイトによると、1600回以上引用されています。この方も、今回の緘黙研究に参加するのでしょうか。

Andreas Ströhle教授は、普段、緘黙に特別の関心を払っている方というよりはむしろ、不安症など、もっと広い範囲に関心を持ち、研究活動を送ってきた方のようです。特に海外では、こうした方が緘黙に関する優れた研究を出すことは多いです。例えば、『場面緘黙の子どもの治療マニュアル-統合的行動アプローチ-』を著したR.リンジー バーグマン氏は、緘黙以外にも研究実績が豊富です。



「親子ペア就業」

更新日:2020年10月18日(投稿日:2020年10月18日)
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親子ペア就業とは


場面緘黙症があるパティシエ少女「みいちゃん」の親子が話題です。

このお二人を見て、私は「親子ペア就業」という言葉を思い起こしました。

親子ペア就業とは、その名の通り、親子揃って同じ職場に就業することです。特に、高齢の親と、長期ひきこもりなど無業状態にある子どもへの就労で提唱されています(子どもといっても、就職氷河期世代あたりの年齢層の人です)。

ひきこもりなど、長く働いていなかった人が、急に働こうとしても上手くいかないかもしれません。親と同じ職場だと、親が子どものことを助けることができるなどのメリットがあります。提唱者は、東京大学の玄田有史教授(労働経済学)です。

みいちゃんは別に、長く無業状態にあったわけではありません。ですが、親子が同じ職場で働いている意味では、親子ペア就業状態にあると言えそうです。


緘黙者の就労の一つの選択肢として、あり得るか


考えてみると、親子ペア就業は、緘黙者の就労の一つのモデルとしてあり得るかもしれません(ひきこもり関係なく)。子どもの緘黙に理解のある親が、子どものことを助けながら働くのです。中には、親が一緒だと緘黙が発現しにくい人もいるかもしれません。

もっとも、これは一部の自営業など特殊な例に限って可能な話かもしれません。また、親が子どもの緘黙に理解があることが大前提です。子どもにしても、自分が緘黙しているところを親に見れるのが嫌という人もいるかもしれません。ただ、選択肢の一つとして考えてみると面白いかもしれないと思います。



結婚して子どもがいて、就労もしている-ある豪州の成人当事者

更新日:2018年09月15日(投稿日:2018年09月15日)
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37歳女性の記事


オーストラリアの情報サイトでしょうか、ten daily というサイトで9月13日、場面緘黙症の記事が掲載されました。

El Earlさんという、37歳の成人当事者に取材を行なったものです。結婚や就労といった、成人当事者特有の話があります。臨床心理学者のElizabeth Woodcock博士による解説も挿入されています。

↓ その記事へのリンクです。
◇ The Mute Photographer: How Her Photos Do The Talking
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Elさんはこれまで20人以上の専門家と会ってきたにも関わらず、当時は専門家に緘黙への理解が不足していたことから、適切な治療を受けられなかったようです。Elさんの緘黙がここまで長引いた一因は、ここにあるのかもしれません。


非言語コミュニケーション、結婚式の誓いの言葉も筆記で


Woodcock博士が指摘するように、年齢が高くなればなるほど緘黙は治しにくくなるとされます。Elさんほどの年齢になると、緘黙を治すことはもちろんですが、同時に、緘黙でありながらどう社会適応を図るかという視点が重要になってくるのではないかと思います。

記事でも、緘黙を治すことよりも、緘黙のままでも非言語コミュニケーションなどで人と関わるElさんの姿に焦点が当たっています。

実はElさん、結婚して子どもがいます。これには、非言語コミュニケーションが大きな役割を果たしたようです。Elさんはオンラインで現在の夫と出会い、二人の関係はオンライン上の書き言葉で深まりました。結婚式では、誓いの言葉を筆記で行なったのだそうです(!)。なお、記者へのインタビューも、書き言葉によって行なわれています。

また、Elさんは写真家として働いていらっしゃいます。自ら写真家の仕事を立ち上げたそうです。写真撮影も、言葉を使わないコミュニケーションのようです。

Elさんにはいまだ緘黙による困難はあるだろうと思うのですが、記事を読む限り、写真家として一定の社会適応を果たしているように見えます。


一つのロール・モデルになるか


そういえば、2016年にスイスの新聞で取り上げられた緘黙の成人当事者も非言語コミュニケーションはとれる方で、一定の社会適応を果たしていました。奇しくも、その方の職業も写真家でした。

↓ そのスイスの新聞の記事について。
◇ 大人の緘黙当事者、非言語コミュニケーションで生きる(スイス)
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Elさんは話せるようになったら、なおよいと思います。ただ、緘黙が成人期に続いても、理解者がいて、非言語コミュニケーションがとれて、自分に合った仕事に出会うことができれば、ある程度何とかやっていけるかもしれないという一筋の光明を感じさせる記事だとは思います(ただし、非言語コミュニケーションがとれない緘黙児者もいます)。

もっとも、それが簡単にはいかないから次のような現実があるのですけれども。

失業は、緘黙当事者の間ではよくあることだとWoodcock 博士は言います。

「私が関わった多くの成人当事者は、話さないゆえに仕事に就いていなかったり、学校を卒業していなかったり、進学していなかったりします。ですので、彼女ら彼らの人生に、本当に大きな影響を及ぼしているのです」

Dr Woodcock says unemployment is common among people with Selective Mutism.

“Many of the adults I work with don’t have jobs or didn’t finish school or go on to further study because they don’t talk so it’s really impacted their lives,” Dr Woodcock said.

※ なお、これはオーストラリアでの話です。Elさんにしても、誰も雇ってくれなかったことから、起業したという経緯があります。