場面緘黙症への遠隔医療(米)

更新日:2020年04月20日(投稿日:2020年04月20日)
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フロリダ国際大学の施設の例


新型コロナウイルスの感染が拡大する中、アメリカの地方紙Miami Herald が、遠隔医療の記事を掲載しました(電子版で確認)。その導入部で、場面緘黙児への遠隔医療の実践が書かれてあります。

↓ その記事です。Miami Herald 電子版へのリンクです。
◇ Telemedicine: What to know about virtual doctor visits | Miami Herald
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紹介されている緘黙児への遠隔医療は、緘黙の治療や研究に取り組むフロリダ国際大学子ども家族センターによるものです。

掲載された遠隔医療の例は、なかなか上手くいっているようです。この緘黙児の保護者は遠方の方ゆえか、コロナが収束したら、従来の医療と遠隔医療を織り交ぜたセッションを受けることを検討している、という意味のことまで書かれてあります。


緘黙への遠隔医療は、他でも行われている


記事の中で、フロリダ国際大学のJonathan Comer教授(心理学)の話が引用されていますが、それによると、メンタルヘルスの世界では遠隔医療は何年もの間重要な役割を果たしてきたそうです。そして今回のコロナの件により、大多数のメンタルヘルス支援事業者が、一時的にサービスをオンラインに移したそうです(これはおそらくアメリカ限定の話ではないかと思います)。これには、感染拡大を受けた、アメリカ政府による規制緩和の影響もあるのでしょう。

実際、アメリカの緘黙支援の世界では、今回のフロリダ国際大学の施設以外でも、遠隔医療は行われています。上述のフロリダ国際大学の他に、緘黙支援で有名なアメリカの施設のウェブサイトを3つ見てみると、いずれの施設も遠隔医療に乗り出していることが分かります。

↓ それら3つの施設のウェブサイトです。

◇ Virtual Services – Selective Mutism Anxiety Research & Treatment Center | SMart Center
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◇ Home Page - Corona Virus Covid-19 | Kurtz Psychology
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◇ Selective Mutism Treatment — Thriving Minds
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3月27日には既に、「場面緘黙症のために遠隔医療を使う」と題するウェブセミナーが行われています。これには、アメリカを代表する緘黙団体 Selective Mutism Association が関わっていたようです。

↓ そのウェビナーに関するページです。
◇ Webinar Using Telehealth for Selective Mutism | Selective Mutism Association
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コロナで変わる診療のあり方、相談内容も変わる?


あくまでアメリカの話とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大は、このように診療のあり方も変えようとしています。海外でも、緘黙の専門家を求めて遠方から……という例は時々聞きますし、遠隔医療は有用そうです。

いや、変わりつつあるのは診療のあり方だけではないのかもしれません。今回お話しした Miami Herald の記事で紹介されているフロリダ国際大学の施設では、通常は分離不安や社交不安の電話相談が来ているのが、今では新型コロナウイルス感染症や、家族間対立に関する電話相談が増えているそうです。

分離不安や社会不安の相談が減っているともそうでないとも解釈できる書き方ですが、思うに、ずっと家にいないといけない状況だと、分離不安や社交不安の相談は減りそうです。今のような状況が長期化すると、「学校で話せない」という緘黙の相談も減っていくか、代わりに「オンライン授業で話せない」といった相談が増えていくかもしれません。



この状況で、どうステップを踏むのか

更新日:2020年04月06日(投稿日:2020年04月06日)
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これまで前提としてきた社会環境が、大きく揺らいでいる


これまでの場面緘黙症支援のやり方が、通用しなくなっているのではないか--私は専門家ではないのですが、こういう素朴な疑問を持ち初めています。

というのも、これまで私たちが支援の前提としてきた社会環境が、大きく揺らいでいるからです。長期にわたる臨時休校、外出の自粛や制限、社会的距離戦略、オンライン学習や在宅勤務の拡大など、国や地域によって濃淡がありますが、新型コロナイウルスの感染拡大により、私たちを取り巻く状況が一変しています。

特に、緘黙治療でよく採用される、いわゆるスモールステップの取り組みはどうなるのだろうと思います。少しずつ発話場面を拡大して治してゆく、「エクスポージャー」などと言われるものです。これは、今日のような状況だと、実施は困難ではないでしょうか。

例えば、「緘黙は、緘黙が現れる場面で治す」と、どなたか海外の専門家が述べているのを読んだ覚えがあります。学校で話せないのであれば、スモールステップで学校で話せるよう持って行くわけです。ところが、少なくない学校が、臨時休校を続けています。

また、海外では、複数の緘黙児や保護者、専門家を集め、集中プログラムや治療キャンプを通じてエクスポージャーを図る取り組みが行われてきました。ですが、社会的距離戦略がとられる今、そのようなことは可能でしょうか。

↓ ニューヨークで行われた Brave Buddies という集中プログラムの YouTube動画。緘黙児と大人(おそらく心理関係のスタッフ)がペアになり、密集しています。
◇ Curing Kids with Extremem Social Phobias - YouTube
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新型コロナウイルスの問題は、いずれは収束し、元の社会環境が戻る日が来るのでしょう。ですが、いつ収束するかは分かりません。来年に持ち越すなど、長期化するシナリオもあり得ないではありません。そうすると、今の状況は非常時の一過性のものと軽視することはできなくなります。


この状況に対応した治療法


このような社会環境の急激な変化を受けて、海外の専門家の間には、今の状況に対応した緘黙児者の治療法をインターネットを通じて伝える動きもあります。こういうものは本で出版したり、研修会のようなものを開いたりして伝えていては間に合わないので、ここはネットの出番です。

その概要については、以前の記事「新型コロナ、緘黙関係者の対応」でお伝えした通りです。

例えば、イギリスの Confident Children は「コロナウイルスのパンデミックが発生する中の場面緘黙児への支援」(Helping children with Selective Mutism during the Coronavirus pandemic) と題する解説を行いました。

◇ イギリスの Confident Children による解説
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ごく簡単に書かれたものとしては、ポーランドの Polskie Towarzystwo Mutyzmu Wybiórczego が次のような投稿を行っています。

◇ Polskie Towarzystwo Mutyzmu Wybiórczegoによる解説
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最近公開された新しいものとしては、Boston Child Study Center による「COVID-19に立ち向かう:場面緘黙症の若者への提案」 (BRAVING COVID-19: Suggestions for Youth with Selective Mutism) があります。

◇ Boston Child Study Center による解説
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色々書かれてありますが、一言で言うと、Confidence Children の言う「デジタルエクスポージャー」でしょう。つまり、SkypeやZoomなど、インターネットによるオンライン通話やテレビ会議を活用したり、あるいは録音や録画したものを誰かに送ったりして、人と関わったり、これまで話せなかった相手に少しずつ話せるようにしたりしていこうということです。


治療の基本原理は変わっていない


これらを見ると、少しずつ発話場面を拡大して治してゆくという基本原理は変わっていないことが分かります。主に現実世界で行っていたことを、オンライン上などで行うようにしただけです。

アメリカの SMartセンターという緘黙の治療センターが考えるこの状況下の治療法も、従来行ってきた S-CAT という支援プログラムの応用らしく(この治療法の詳細は限定公開なので、詳しくは知りません)、やはり原理は変わっていないようです。

↓ SMartセンターの治療法に関する情報があります。
◇ Treatment Group: General S-CAT Principles Adapted for Pandemic
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打つ手が限られる中、できることを


ただ、先ほどの Confidence Children が「私たちが今できることには非常に限りがある」(We are very restricted in what we can do now) と述べるなど、感染拡大の影響が深刻な国や地域では、打つ手は限られているようです。今回ご紹介したデジタルエクスポージャーも、その緘黙児者に合うかどうかは、ケースバイケースのようです。

「これまでの場面緘黙症支援のやり方が、通用しなくなっているのではないか」という冒頭の私の疑問は、当たらずとも遠からずなのかもしれません。

そんな中、前向きに、なんとかできることを探していこうというのが、今回ご紹介した海外の専門家たちの姿勢です。



緘黙を深刻視しなければならない理由

更新日:2020年01月07日(投稿日:2020年01月07日)
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「場面緘黙症を深刻に受け止める必要がある5つの理由」
(5 MOTIVOS POR LOS CUALES EL MS DEBERÍA SER TOMADO SERIAMENTE!!!)
(5 Rasons Why You Need to Take Selective Mutism Seriously)

スペイン語圏で場面緘黙症の支援を行う Mutismo Selectivo Internacional が、昨年12月、Facebookページでこんな投稿を行ないました。

↓ その投稿です。
◇ Mutismo selectivo en niños: qué es y cuáles son los síntomas
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もともとは、イギリスの緘黙団体 SMIRA によるものだそうです。私は SMIRA の会員ではなく、一次情報の確認はできていません。

その「5つの理由」をご紹介し、私なりに少しコメントをしてみたいと思います。このコメントには、私の解釈が入っています。

理由1 場面緘黙症がある人を支援する戦略は、あらゆる人に、非常に大きなプラスの影響がある


不安を避けるのではなく受け入れ挑戦することや、スモールステップの取り組みを学ぶことなどによる、いわば教育的効果を指します。

緘黙そのものの話ではなく、支援を行うことによる得られる副産物のようなものの話ですね。

(原文:Strategies used to support people with SM have a huge positive impact on EVERYONE)


理由2 場面緘黙症は、あなたが考える以上に、発症率が高い


イギリスでは緘黙は140人に1人と言われており、上の投稿でもこの数字が紹介されています。日本では500人に1人と言われていて、もう少し稀と見られているようです。この理由3が日本でも当てはまるかどうかは分かりません。

(原文:Selective mutism is more common than you think)


理由3 場面緘黙症の感情的影響


要するに、本人が辛い思いをしているからという理由です。

(原文:The emotional impact of selective mutism)


理由4 場面緘黙症の財政的影響


理由4とまとめてお話します。

(原文:The financial impact of selective mutism)


理由5 場面緘黙症の経済的影響


理由4も5も、要するに、早期支援が行われないと、よりコストがかかるからという理由です。支援のための「社会的投資」 (social investment) が大きくなるとか、成人当事者の失業 (unemployment) についても、上の投稿では言及があります。

イギリスでは早くから、精神疾患の社会的コストの推計の試みが行なわれていました。理由4と5は、イギリスらしい視点かもしれません。緘黙についてはこの種の推計が行なわれたという話は聞かず、社会的コストも個人のコストもどれだけかかるかは知りませんが、早期支援によりコストを減らせることは予想されます。

この理由を挙げる場合、「緘黙は、成長すれば自然に治る」という見方を退ける必要がありそうです。何も特別な支援をせずとも治るのであれば、そのようにするのが最もコストがかからないからです。

(原文:The economical impact of Selective mutism)


緘黙は軽視されがちだからこそ、こうした理由を掘り下げる


緘黙は大人しいだけで問題ないなどと、軽視されがちではないでしょうか。軽視してはならず深刻に受け止める必要があるのなら、それはなぜかが問題になります。ですが、その理由については、あまり掘り下げられてはこなかったのではないかと思います。それだけに、この「5つの理由」は興味深いです。

理由2のように、本人が辛い思いをしているからという理由が挙げられることはあります。「当事者は苦しんでいます」「私は辛いです」などと必ずしも明記しなくても、暗にというかたちや、雰囲気などで伝えられることもあります。この場合、感情に訴えかける傾向になりやすいです。それが悪いわけでは決してないのですが、合理的な理由を他に挙げられれば説得力は増しそうです。


私ならば


私は専門家ではありませんが、私ならば緘黙を深刻視しなければならない理由は、次のように挙げます。

○ 緘黙は日常生活に大きな支障をきたすから
○ 緘黙で大変苦しい思いをしてきた当事者・経験者がたくさんいるから(上の理由3と同じ)
○ 緘黙が長期化すると、他の精神疾患を続発する可能性が指摘されているから
○ 緘黙が長期化すると、言語コミュニケーションの経験を積む機会を長期にわたって逸することになり、そのことは緘黙が治った後に響いてくるから

この4つを挙げても相手が納得してくれない場合は、先ほどの理由4や5のコストの問題を挙げます。先ほどの理由1は緘黙そのものの話ではありませんし、理由2は緘黙の発症率は日本では低めに出ていますので、挙げることはしません。

皆さんなら、どういう理由を挙げますか?