システムアプローチと行動アプローチ

更新日:2024年01月22日(投稿日:2024年01月22日)
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海外の博士候補生の記事


海外のある情報サイトに先日、場面緘黙症の記事が掲載されました。ソーシャルメディアで割とシェアされていましたので、取り上げてみたいと思います。

↓ その記事へのリンクです。The Conversation という情報サイトへのリンクです。
◇ What is selective mutism? And is it a lifelong condition?
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著者はオックスフォード大学の博士候補生です。この著者は緘黙への関心が強く、2023年にはシステマティック・レビューと呼ばれるタイプの緘黙の論文を発表しています(筆頭著者です)。この論文は、上記記事の下敷きになっています。

さて、記事の内容ですが、緘黙を概説したものです。英国の読者を意識したとみられる内容ですが、全体としてそんなに変わったことは書かれてありません。


「システムアプローチ」と「行動アプローチ」


ただ、緘黙児へのアプローチを「システムアプローチ」と「行動アプローチ」に分けて説明しているのは明快で、面白いかも知れないと感じました。

ここで言うシステムアプローチとは、緘黙を維持する環境要因に対処するアプローチです。親や教師へのトレーニングがこれに含まれます。緘黙児に話すプレッシャーを取り除いたり、逆に話す機会を作ったりといったことを教えるなどします。

行動アプローチは、いわゆるスモールステップの取り組みのことと言えばよいでしょうか。応用行動分析学をベースに、段階的に発話に持って行くアプローチです。

上の記事では、システムアプローチを先に説明しています。また、システムアプローチの方が説明がやや長いです。著者はシステムアプローチに重きを置いているということなのか、別に深い意味はないのか、そのあたりのところは分かりません。

米国では近年、ここで言うシステムアプローチのうち、特に親へのトレーニングへの重要度がやや増しているように思います。親が緘黙児の言うことを代弁するなどして話す機会を奪ってしまうことがあるとして、緘黙児がプレッシャーを感じずに発話できるように持って行くスキルのトレーニングが行われています。




関連リンク


お話しした論文です。なお、Murayama, Kとは、村山航氏(英国レディング大学教授)のことです。

◇ Hipolito, G., Pagnamenta, E., Stacey, H., Wright, E., Joffe, V., Murayama, K., & Creswell, C. (2023). A systematic review and meta-analysis of nonpharmacological interventions for children and adolescents with selective mutism. JCPP Advances, 3(3), e12166. Advanced online publication. https://doi.org/10.1002/jcv2.12166
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関連記事


◇ 治療プログラム「SPACE」
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エクスポージャー・ライフスタイル

更新日:2024年01月08日(投稿日:2024年01月08日)
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常にエクスポージャー実践機会を探る


場面緘黙症への支援等をニューヨークで行う Kurtz Psychology は、「エクスポージャー・ライフスタイル」を提唱しています。

エクスポージャー・ライフスタイルとは、「緘黙児やその親が常にエクスポージャーを実践する機会を探す」ことです (we promote an exposure lifestyle where children and parents are always looking for opportunities to practice exposures)。

↓ 詳しくは、こちらをご覧下さい。Kurtz Psychology ウェブサイトへのリンクです。英文。
◇ Answering your Questions: Maintaining an Exposure Lifestyle while the World is Paused
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エクスポージャーとは、不安を感じる場面に敢えて身をさらすことです。一言で言うと、暴露です。

例えば、話せない場面で、発話を試みるといったことが含まれます。いわゆるスモールステップの取り組みを思い起こしていただければよいだろうと思います。もちろん、やみくもに不安に身をさらしたり、発話を促したりすればよいわけではありません。

こうしたことを実践する機会を、常に探して、ライフスタイルとして取り込もうということなのでしょう。


「自分の生活レベルに落とし込む」


さて、1月5日(火曜日)、NHK熊本放送局が緘黙に関するニュースを取り上げました。

↓ その記事へのリンクです。1分16秒の動画あり。
◇ 「場面かん黙」の子どもたち 熊本市内の神社で初詣|NHK 熊本県のニュース
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ここで中之園はるな氏が、「声を出す機会を自分の生活レベルに落とし込むことが、症状の改善につながります」とお話しされているのが、目を引きました。

エクスポージャー・ライフスタイルに通じる考え方だからです。中之園氏がエクスポージャー・ライフスタイルという言葉をご存じかどうかは分かりませんが、まるで、うまくこの外国の言葉を日本語に落とし込んだようだと感じました。

日常生活の中でエクスポージャーをいかに組み込んでいくか、丁寧に考えたいです。



ウォーミングアップの必要性

更新日:2023年09月12日(投稿日:2023年09月12日)
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Psychology Today という、アメリカの心理学の雑誌があります。ここのウェブサイトでは、専門家が場面緘黙症について解説することが時々あります。

先日も、臨床心理学者の Veronica Raggi博士による緘黙の寄稿が掲載されました。同氏は特に緘黙に関心を持ち、治療を行ってきた方です。

↓ その記事へのリンクです。
◇ Empowering Your Anxious Child’s Voice | Psychology Today
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記事は、緘黙を改善させるための一つの方法を示したものです。具体的には、「親子相互交流療法」を緘黙に適用した PCIT-SM (Parent/Child Interaction Therapy for Selective Mutism)という技法の紹介です。この技法はアメリカを中心に世界で広がりを見せています。Psychology Today で取り上げられたのも、やはりアメリカでは有力視されている技法なのだと改めて感じさせられます。

PCIT-SMは日本ではまだあまり馴染みがありませんが、邦訳書『場面緘黙の子どものアセスメントと支援』には説明があります。また、以下のかんもくネットの記事にも、簡単な説明があります。

↓ そのかんもくネットの記事へのリンクです。
◇ おしゃべり会でPCIT-SMを紹介
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さて、その記事の中でも、次の箇所が個人的に印象に残りました。

いかなる新しい社会的環境でも、子どもには即座の質問を促さずに、ウォーミングアップの時間を与えてください。例えば、誕生日パーティーに到着したとき、子どもに「誕生日おめでとう」と言うように促さないでください。その代わりに、子どもとパーティーの場所を探検し、期待や要求をせずに、子どもに自由と肯定的な注意を与えてください。

Give your child time to warm up in any new social setting without prompting them with an immediate question. For example, when you arrive at the birthday party, don’t encourage your child to say "Happy Birthday." Instead, explore the birthday area with your child, giving them freedom and positive attention without expectation or demand.

緘黙児者は挨拶が苦手という話を、国内外で見聞きします。もしそれが事実なら、挨拶はウォーミングアップの時間がとりにくいことが一因ではないかと考えさせられました。イギリスのチャイルドセラピスト Lucy Nathanson氏も、そのようなことを話していました(関連記事参照)。

なお、別にPCIT-SMでなくても、緘黙児者に適切な方法で発話を促すためには、ウォーミングアップの機会が与えられることが望ましいでしょう。