西語圏では緘黙支援先進国か、アルゼンチンの集中プログラム

更新日:2018年04月02日(投稿日:2018年04月02日)
アイキャッチ画像。

アメリカ発祥の集中プログラム


アメリカでは近年、緘黙児に対する、グループ形式の集中プログラムが広まっています。緘黙児に対し、模擬教室などで5日ほどの間、比較的安心できる状況で少しずつ発話に持っていくよう目指すものです。合わせて、親向けの教育も行ないます。

この動きは、アメリカ国外にも影響が少し及んでいます。例えばイギリスには、これを独自に発展させた集中プログラムを行なう専門家がいるというお話を以前このブログでしました。合わせて、香港でも行なわれた情報があるとか、詳細は不明ながらイスラエルでも行なわれているらしいともお話しました。

◇ 専門家が最大1週間マンツーマン-英国の集中プログラム
新しいウィンドウで開く


アルゼンチンでも行なわれている


最近知ったところでは、アルゼンチンでも集中プログラムが実施されているそうです。

アルゼンチンで場面緘黙症と言われても、私たちにはピンときにくいです。ですが、アルゼンチンは、スペイン語圏(西語圏)では緘黙支援が特に進んでいるようなのです。ブエノスアイレスには緘黙のための専門のセンターがあるほどです。なお、スペイン語の母語話者は世界的に多く、スペイン語は世界三大言語の一つとも言われます。

↓ その集中プログラムの概要。
◇ Propuestas de Mutismo Selectivo Internacional
新しいウィンドウで開く

↓ 2月のプログラム。アメリカの緘黙団体Selective Mutism Associationホームページへのリンクです。
◇ Centre Mutismo Selectivo Argentina Programma Comuniamigate, Buenos Aires, Argentina
新しいウィンドウで開く

↓ 5月のプログラム。Facebookへのリンクです。Facebookに登録されていない方でもご覧になれます。
◇ Programa de tratamiento grupal para niños tímidos e inhibidos
新しいウィンドウで開く

↓ 6月のプログラム。年齢層高め。Facebookへのリンクです。Facebookに登録されていない方でもご覧になれます。
◇ Programa de tratamiento grupal para niños tímidos e inhibidos
新しいウィンドウで開く

プログラムを主催するのは、ブエノスアイレスにある緘黙のセンター Centro Mutismo Selectivo Internacional。一部ページには Centro Mutismo Selectivo Argentina とありますが、これは旧称です。"Argentina" から "Internacional" に変わっています。アルゼンチンに限らず、スペイン語圏の国々を幅広く視野に入れているということでしょうか。

プログラムを指導するのは、先ほどの緘黙のセンターの所長 Fabiana Baracchini氏。ブエノスアイレス大学ご出身の臨床心理学者です。また、アメリカの緘黙団体 Selective Mutism Association のインターナショナル・コーディネーターの一人でもあります。

上記リンク先を機械翻訳で読んだ限りの印象では、このアルゼンチンのプログラムは、アメリカのそれに似ています。グループ形式で、4日間にわたって毎日5時間行なっています。模擬教室の設定や親向けの介入が窺える記述もあります。ただ、この情報だけではもう一つ詳細がつかめません。アメリカの影響を受けたものかも、はっきりしません。

5月以降に行なわれるプログラムには4~12歳向けのものと、13~17歳向けのものが予定されています。10代向けプログラムは、アメリカでも昨年に始まったばかりです。アルゼンチンのプログラムも、かなり発展していることが窺えます。





専門家が最大1週間マンツーマン-英国の集中プログラム

更新日:2018年04月30日(投稿日:2018年02月14日)
アイキャッチ画像。

米国発祥の集中プログラム


これまでお話してきたように、アメリカでは、場面緘黙症の子どもを対象とした集中治療プログラムが各地で行なわれています。ニューヨークにあるChild Mind Instituteという施設のBrave Buddiesがその代表です。最近では、より高年齢層の10~14歳向けプログラムも始まりました(10~14歳向けプログラムについては、日本でも昨年、BBCワールドサービスで放送されました。現在でもインターネットで視聴できます)。

この集中プログラムは、アメリカで急速に広まりました。ここまで広まると、今度はアメリカ国外にも広まるかどうかが、私には気になります。特にイギリスにまで広まると、その意味は大きそうです。なにしろ、緘黙支援は北米とイギリスがツートップというのが私の大雑把な印象です。英米両国で集中プログラムが行なわれるようになると、他国にも影響が及ぶでしょう。日本でも、いよいよ見逃せなくなります。

実はイギリスでも近年、アメリカの技法に影響を受け、独自の集中プログラムを行なう専門家が現れました。今回は、そのお話です。


米国から影響を受けた、英国の集中プログラム


イギリスで集中プログラムを行なうのは、チャイルドセラピストのルーシー・ネイサンソン(Lucy Nathanson)氏。Confident Childrenという団体名で緘黙支援に当たる方です。ネイサンソン氏は2016年7月にニューヨークを訪れ、集中プログラムBrave Buddiesの実施に参加されたそうです。なお、この方については、先日の記事「『学校の先生には、緘黙の本を読む時間はない』(海外)」でもお話しています。

ネイサンソン氏の集中プログラムを私なりにまとめてみました。私は専門家ではないのでよく分からないのですが、だいたい次の通りではないかと思います。

○ 3日から5日間、1つの家族に対して行なう
○ 緘黙児の不安を和らげ、そこでゲームとして発話をしたりといった経験を、ネイサンソン氏と一緒にスモールステップで楽しく積む
○ まずは家庭場面で始める、緘黙児が話せない大人を入れることもある
○ お店など近所や、学校でも行なう
○ こうした技法や緘黙児への接し方を、親や学校関係者などにも教える

プログラムの実施にあたっては、特定のゴールを設定し、準備と計画の策定を詳細にわたって行います。準備や計画は親と一緒に行ないます。計画の内容はその子によって違いますし、取り組みの速さもその子のペースによります。

この最大1週間のプログラムで、緘黙の完治までには至りません。この技法を親や学校関係者などに教えるのも、プログラム終了後を見据えてのことです。

ネイサンソン氏は集中プログラムの利点として、子どもがスモールステップの歩みに勢い(momentum)をつけることができることを挙げています。週1回などの従来の取り組み方だと、1週間の間隔(week gap)が開いてしまうというのです。


ネイサンソン氏の集中プログラムの独自性


ネイサンソン氏の集中プログラムは、アメリカのものを独自にアレンジしたものです。アメリカの集中プログラムは集団で行なうのですが、ネイサンソン氏の場合、個別に行ないます。

それにしても、専門家が最大1週間1家族を相手にするとは、贅沢な話です。日本では、少数しかいない緘黙専門家に相談予約が殺到することがあるという話を聞いたことがあります。日本では専門家の人手不足により、そこまではできないのではないかと思います。また、専門家がそれだけ長時間関わるとなると、費用も気になります。

それから、家庭環境から初める方法もアメリカの集中プログラムにはなく、ネイサンソン氏独自のものです。


ネイサンソン氏、英国内外にも影響を与えるか?


ネイサンソン氏は、2017年にポーランドで開かれたLanguages and Emot!onsという会議で、この集中プログラムの事例研究を2例紹介しています。次の動画の22分27秒頃からです。スピーチは英語、プレゼンテーション資料はポーランド語という珍しい動画です。



ネイサンソン氏は、海外の方とも交流されているようです。12月の最初の1週間だけでも、Skypeでイギリス、カナダ、オーストラリア、サウジアラビアの緘黙児の保護者と話をしたとFacebookに投稿されたことがあります。その投稿の翌日にも、スリランカとロシアの親と話をする予定が入っていたそうです。

ネイサンソン氏はイギリスではもちろんですが、このように国際的にある程度知られた方なのかもしれません。ネイサンソン氏の影響を受け、集中的な技法が、今後さらに各国に広まる可能性もあると思います。アメリカの集中プログラムは集団で行なう大掛かりなものですが、ネイサンソン氏の個別に行なう技法であれば、模倣はしやすいでしょう。


集中プログラム、既に世界に広がり始めているかも


なお、アメリカで始まった集中プログラムは、今回お話したイギリス以外にも、既に広がり始めている節があります。

詳細は分かりませんが、香港で同種のプログラムが行なわれたという情報があります。Kurtz Psychologyウェブサイトの、このページ最下部にある情報です。ここにお名前が載っている"Dr. Ortega"とは、Melissa Ortega氏のことと思われます。同氏は以前、ニューヨークのChild Mind Instituteに勤務し、ここの集中プログラムの開発にも関わっていました。

また、これまた詳細が分からないのですが、イスラエルでも1週間にわたる集中的介入が行なわれているようです。Ruth Perednik 氏のウェブサイトに書かれてあります。




電話でロボットと会話する取り組み(英国)

更新日:2017年10月28日(投稿日:2017年09月05日)
アイキャッチ画像。

緘黙児者にとって、ロボットは人より話しやすい?


緘黙症(かんもくしょう)という、家庭の外など特定の環境で話せなくなる症例の子どもも、ロボットに対してであればどこでも積極的に会話をするようになります。ある子どものご両親は、「うちの子がこんなに楽しそうに話しているのを初めて見た」と涙を流して喜んでいました。

日本のロボット工学の第一人者である大阪大学の石黒浩教授(栄誉教授)は、インタビュー記事の中でこう語ります(石黒, 2017, p. 143)。

緘黙児者とロボットの会話について、学術的検証がどこまで進んでいるかは、不勉強なもので知りません。

ただ、ロボットと会話する取り組みについては、イギリスの緘黙治療マニュアル The selective mutism resource manual (第2版)でも示されています(Johnson and Wingtgens, 2016)。この本はイギリスの緘黙支援では定番で、今年出版されたイギリスの本の邦訳『場面緘黙支援の最前線』でも、『場面緘黙リソースマニュアル』という訳で繰り返し登場します。

そのロボットと会話する取り組みは、電話によるものです。イギリスには音声認識ソフトを使った電話案内があり、該当する電話番号にかけると、人間ではなくロボットが出るそうです。話しかけるとロボットが音声を認識し、回答をします。具体例として TrainTracker™ という、列車の運行情報の問い合わせサービスが紹介されています。

これは、電話を使った取り組みの一つとして位置づけられています。スモールステップで人と電話で会話できるようにして、最後は直接人と会話ができるように持って行く取り組みです。その中の一段階として、このロボットとの会話があります。本格的に電話で人と話をする前に、ロボットとの会話を挟むわけです(ただし、ロボットではなく留守番電話を使うなど、別の電話の方法もあります)。


ロボとの会話、緘黙支援で生かすことはできないか


このようなロボットが電話に出るサービス、日本にもあれば緘黙支援に生かせそうですが、果たして日本にはあるのでしょうか。私は知らないのですが、何しろ私は世間知らずなもので。

電話をかけると機械音声が出るというサービスは、私も何度も経験があります。ただ、それは音声認識ソフトではありません。「……の方は1を、……の方は2を押してください」というように、電話のボタンを押してこちらの意思を伝えるものです(これのおかげで、電話の会話が苦手な私は助かってはいます。緘黙児者も、これなら家から電話できるでしょう)。

日本でロボットが出る電話の存在は私は知らないのですが、人間の音声を認識して会話できるアプリは身近にあります。例えば、Siri というアプリは有名です。また、人間と会話ができるロボットも発売されています。最近はAI(人工知能)の活用が進展していることもあり、ロボットと会話できる機会はこれから少し増えていくかもしれません。会話とはやや違うかもしれませんが、AI を搭載した「スマートスピーカー」は、今話題でもあります。

こういったものを緘黙支援で役立てることはできないだろうかと思います。