自治体が確認した緘黙児の数

更新日:2018年09月13日(投稿日:2018年09月13日)
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教育行政の担当者の答弁より


緘黙児者の数を確認しようとしているのは研究者だけではありません。

あまり知られていませんが、自治体の議会で、教育行政の担当者が「緘黙児を○○人確認している」という趣旨の答弁をすることが稀にあります。そうした例を調べたところ、4例見つかりました。全てご紹介してみることにします。

長野県佐久市:2人(平成27年)


まず、佐久市議会「平成27年3月定例会(第1回)3月4日2号」より、黒岩肇教育委員長の答弁です。

市内の小・中学校には、場面緘黙症の疑いのあるお子さんも含めて在籍はしておりますが、本年1月に場面緘黙症の支援が必要なお子さんにつきまして、市内の小・中学校に調査いたしましたところ、来入児が1名、小学校2年生が1名の合計2名との報告がございました。

http://www.kaigiroku.net/kensaku/cgi-bin/WWWframeNittei.exe?USR=nagsaks&PWD=&A=frameNittei&XM=000100000000000&L=1&S=3&Y=%95%bd%90%ac27%94%4e&B=255&T=0&T0=70&O=1&P1=&P2=&P3=&P=1&K=177&N=1232&W1=%e3%67%96%d9&W2=&W3=&W4=&DU=0&WDT=1

率にすると何%なのでしょうか。求めてみることにしました。

佐久市の小中学校の児童生徒数(平成27年)は分からないのですが、それに近い数字として平成30年の0~14歳の人口を見ると、0~4歳で3,977人、5~9歳で4,306人、10~14歳で4,574人です(佐久市ホームページ「佐久市の人口データ 5歳階級別」より;住民基本台帳に外国人登録を加えた人口)。これをもとに佐久市が把握した緘黙児を百分率で表すと、次のようになります。

0~4歳:0.025%(約4,000人に1人)
5~9歳:0.023%(約4,000人に1人)
10~14歳:0%

ただ、上の答弁では、厳密には「場面緘黙症の支援が必要なお子さん」の数とされています。支援が必要でないと考えられている緘黙の児童生徒が他にいるとも解釈でき、はっきりしない部分もあります。


長野県軽井沢町:0人(平成24年)


次は、軽井沢町議会「平成24年6月第1回定例会(6月会議)6月13日3号」での、荻原勝教育長の答弁です。

当町の現状ですけれども、各保育園、小学校、中学校、園児、児童・生徒には、場面緘黙症と判定されている子供さん、おりません。過去にも報告されておりません。

(中略)今、児童・生徒数1,500強おりますけれども、(後略)

http://www.kaigiroku.net/kensaku/cgi-bin/WWWframeNittei.exe?A=frameNittei&USR=nagkarc&PWD=&L=1&DU=1&R=K_H24_06130003_TXT_L00000133_00000455

軽井沢町が町制を敷いたのは大正12年からだそうです。それ以来、緘黙の児童生徒の報告が1件もなかったというのは意外で、ちょっと信じられないぐらいです。


愛知県扶桑町:1人(平成20年)


それから、これは扶桑町議会「平成20年第5回定例会(第2号9月8日)」での河村共久教育長の答弁です。

現在、場面緘黙の児童は、特別支援学級に在籍している児童で1人おります。(中略)また、過去には昨年度、中学校で1人おりました。

http://chiholog.net/chiholog/viewer.html?docid=23362-20080908-a694948

扶桑町ですが、平成22年で0~14歳の人口が5,092人だったそうです(扶桑町ホームページ「扶桑の統計 平成23年版」より)。緘黙児が1人として、これで百分率を求めてみると次のようになります。

0~14歳:0.02%(約5,000人に1人)

ただ、これも特別支援学級に在籍している児童のみを数えたとも解釈でき、はっきりしない部分があります。


千葉県船橋市:40数人(平成2年)


最後に、船橋市議会「平成2年第3回定例会9月12日4号」より、渡辺俊彦学校教育部長の答弁です。

本市でも、先ほどご質問者の方では、全国で1,000人に2.5ないし5人ということでございますが、このどこからどこまでの判定も難しゅうございますが、現在、私どもの調査では約6万人の小中学生の中で、小中合わせまして40数名の該当者がございます。

http://funabashi.gijiroku.com/voices/cgi/voiweb.exe?ACT=200&KENSAKU=1&SORT=0&KTYP=1,2,3,0&FBKEY1=%E3g%96%D9&FBMODE1=SYNONYM&FBMODE2=SYNONYM&FBMODE3=SYNONYM&FBMODE4=SYNONYM&FBCHK=AND&KGTP=1,2,3&TITL_SUBT=%95%BD%90%AC%81@%82Q%94N%91%E6%82R%89%F1%92%E8%97%E1%89%EF%81%7C09%8C%8E12%93%FA-04%8D%86&KGNO=43&FINO=298&HUID=22149&UNID=K_H020912000439

約6万人、40数名というのは、あやふやですが、仮に6万人と40人としましょう。これで百分率を求めると、緘黙の児童生徒の割合は次のようになります。

小中学生:0.07%(約1,500人に1人)


思ったよりだいぶ少ないような……


「500人に1人」ではなかったのか


思ったより、だいぶ少ないというのが率直な印象です。これまで引用されてきた、主に研究者らによって発表されてきた出現率に比べるとです。

主に研究者らによって示された緘黙の出現率については、このサイト「出現率は?」でまとめています。

◇ 出現率は?
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「出現率は?」では、例えば、平成27年に神戸市の公立小学校に在籍する全児童77,038人を対象とした調査をご紹介しています。それによると116人の緘黙児が確認され、出現率は0.15%だったそうです(約660人に1人)。上でご紹介した数字は、どれもそれより1桁低いです。

今夏には、長野大学の高木潤野准教授が、高校生向け講義の中で次のように述べています。

500人に1人ぐらいるって言われています。500人に1人だと、小学校に1人ぐらいの割合だと思います。


大学の准教授の発言ですし、おそらくは、先行研究をもとにした発言でしょう(⇒その講義について)。ところが、今回の記事でお話した自治体の緘黙の児童生徒の割合は、「500人に1人ぐらい」どころか、5,000人に1人ぐらいです。「小学校に1人ぐらいの割合」どころか、小規模自治体に1人ぐらいの割合です。


教育関係者に把握されてない緘黙の児童生徒がたくさんいるという意味だったら……


なぜこのような差があるのかは、ちょっと分かりません。もしかしたら、たまたま少なく出た自治体ばかりを見つけただけかもしれません。また、各自治体によって確認方法も違うかもしれませんし、一概にも言えないでしょう。

一番問題なのは、教育関係者に把握されていない緘黙の児童生徒が多数存在していた場合です。もしも本当は500人に1人の割合でいるのに、教育関係者は5,000人に1人しか把握していないようなことがあったとしたら、どうでしょう。緘黙の児童生徒のうち10人に1人しか把握されていないことになります。そうでなかったのだとしたら、よいのですが。

※ 肩書きは、いずれも当時のものです。



高校でも「通級による指導」開始、緘黙支援も

更新日:2018年05月01日(投稿日:2018年05月01日)
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高校でも通級開始


今年度(平成30年度)から、高校でも「通級による指導」が始まりました。場面緘黙症がある高校生も対象です。このあたりは皆様の方がお詳しいかもしれませんが、重要な動きなので、ここで取り上げます。


通級による指導とは


通級による指導とは、特別な支援が必要な比較的軽度の障害を持つ児童生徒を対象に、普通学級に在籍しながら、一部、障害の程度に応じて行う特別な指導を言います。 この指導は、「通級指導教室」という特別な場で行われます。

ここで言う特別な指導とは、障害による学習上または生活上の困難を改善し、または克服することを目的とする指導のことです。特別支援学校で言うところの、「自立活動」というものに相当するそうです。個々の児童生徒の障害の状態等に応じた具体的な目標や内容を定め、学習活動を行います。

緘黙がある児童生徒は、学校教育法施行規則と文科省の通知により、「情緒障害者」として、通級による指導の対象とされています。

↓ 中段に、通級による指導の対象に「情緒障害者」が挙げられていて、それには「選択性かん黙」があるもの等が含まれていることが示されています。文科省ホームページへのリンク。
◇ 障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)
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高校では、45都道府県と5政令指定都市で導入


林芳正文部科学大臣の話によると、今年度から高校の通級指導が導入されたのは、45都道府県と5政令指定都市だそうです。栃木県と三重県は平成31年度からだそうです。

↓ 文科省ホームページへのリンク。
◇ 林芳正文部科学大臣記者会見録(平成30年4月6日)
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モデル事業では、既に緘黙生徒の指導も


平成26年度にはモデル事業が始まっています。文部科学省の実践事例集には、緘黙がある生徒を指導した事例も、ごく一部にではありますが掲載されています。

↓ PDF(19.8MB)。文科省ホームページへのリンク。報告された高校生に配慮して、何ページに緘黙の事例が載っているかは、敢えてここでは書きません。探してみてください。
◇ 高等学校における「通級による指導」実践事例集
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※ PDFを閲覧するには Adobe Reader が必要です。こちら新しいウィンドウで開く)からダウンロードできます。

上の資料には、緘黙がある生徒らがカフェで来客に挨拶し、コーヒーを提供するといった指導事例が記されています。商業科ではなく、普通科の学校でです。就労支援でしょうか。

緘黙以外の指導事例を見ても、就労を意識したものが記されていて、高校での通級指導ならではと感じます。高校を出てそのまま就職する生徒はもちろん、進学する生徒にしても大学などでアルバイトというかたちで働くことはよくあるでしょう。役立ちそうな支援です。



Bercow: Ten Years On-コミュニケーションへの支援体制

更新日:2018年03月21日(投稿日:2018年03月21日)
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Bercow 10


イギリスで20日、Bercow: Ten Years On (以下 Bercow 10 と略します)と題するリポートが公表されました。

これは SLCN(speech, language and communication needs) と呼ばれる、発話や言語、そしてコミュニケーションに特別なニーズを持つ子どもや若者への支援体制についてまとめたものです。関係者の間で注目されています。

◇ Bercow: Ten Years On
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SLCN はイギリス特有の用語です。イギリスには、140万人以上の SLCN の子どもや若者がいるとされます。場面緘黙症もこれに含まれ、今回のリポートでも、緘黙の若者を持つ母親の声が引用されるなどしています。

リポートでは、SLCN の子どもや若者への理解や資源が不十分な現状が指摘されています。また、こうした現状を踏まえた提言も行なわれています。

Bercow 10は、コミュニケーションの慈善団体 I CAN と英国言語聴覚士協会によりまとめられました。また、『場面緘黙支援の最前線』で序文を執筆したことでもお馴染みの Jean Gross(ジーン・グロス)氏が、有識者委員会の議長として関わっています。


Bercow Review の続編に当たる


今回出た Bercow 10は、10年前の2008年に出た Bercow Review(The Bercow Report)というリポートのいわば続編に当たります。Bercow Review は、SLCN の子どもや若者への支援について、政府への様々な提言をまとめたものでした。

↓ PDF。1.02MB。
◇ The Bercow Report
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※ PDFを閲覧するには Adobe Reader が必要です。こちら新しいウィンドウで開く)からダウンロードできます。

Bercow とは、イギリスの国会議員 John Bercow氏(ジョン・バーコウ、現・下院議長、保守党)のことです。同氏は2007年、SLCN の子どもや若者へのサービスについてレビューするよう、子ども・学校・家庭相から指示を受け、2008年に最終報告 Bercow Review を出しました。Bercow Review の諮問グループのメンバーには、イギリスの緘黙団体 SMIRA の Alice Sluckin(アリス・スルーキン)会長も含まれていました。

昨年、SMIRA ホームページの重要な箇所に「コミュニケーションは基本的人権」という一文が引用されているというお話をこのブログでしましたが、この引用元は Bercow Review でした。


国会議事堂で催し


Bercow 10の公表に合わせ、教育省提携のもと、イギリスの国会議事堂(ウェストミンスター宮殿)で何らかの催しが行なわれたそうです。催しの中では、John Bercow下院議長や、Nadhim Zahawi子ども・家庭政務次官がスピーチするなどしています。

※ いずれも Twitter へのリンクです。Twitter に登録していない方でもご覧になれます。

◇ John Bercow下院議長のスピーチ
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◇ Nadhim Zahawi子ども・家庭政務次官のスピーチ
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◇ 国会議事堂に来たという方
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思うところ


今回の Bercow 10 を通読して感じたのですが、必ずしも理解が得られていないとか、適切な支援が受けられないといった問題は、緘黙に限ったことではなさそうです。SLCN の子どもや若者に、概ね共通した問題のようでした。

また、今回のリポートは支援体制という制度面を分析したものですが、緘黙支援ではこうした分析は意外にあまりないので、興味深く読みました。社会福祉の分野ではミクロ、メゾ、マクロという概念があるそうですが、個別の緘黙児者をどう支援するかというミクロレベルの議論は多くても、地域や国レベルでどのような支援体制を整えるかといった議論は少ないような気もします。

今回のリポートは本格的なものですが、このようなリポートをまとめることができたのは、SLCN という大きな括りで扱ったからでしょう。お話したように、SLCNの子どもや若者は、イギリスで140万人以上もいると見られています。これが緘黙だと、マイナーな問題ゆえ、ここまではできなかったはずです。

ですが、無茶を承知で言うと、緘黙の支援体制についてもこのような緻密な分析が行なわれて欲しいという思いはあります。緘黙についても適切な理解や支援が必ずしも得られないという話は聞くことがあるのですが、詳細な分析はあまり行なわれていないのではないかと思います。