『場面緘黙の子どものアセスメントと支援』発売

更新日:2019年03月01日(投稿日:2019年03月01日)
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場面緘黙症の新たな翻訳書が発売されることが明らかになりました。

本の基本情報


○ 著者:エイミー・コトルバ(Aimee Kotrba)
○ 監訳: 丹明彦
○ 訳: 青柳宏亮、宮本奈緒子、小暮詩織
○ 書名:場面緘黙の子どものアセスメントと支援:心理師・教師・保護者のためのガイドブック
○ 原書名:Selective Mutism: An Assessment and Intervention Guide for Therapists, Educators and Parents
○ 出版社:遠見書房
○ 発売日:2019年2月28日(既にAmazon.co.jpで注文可能です)


著者のエイミー・コトルバ氏は、臨床心理学者。ミシガン州のブライトンという街でクリニックThriving Mindsを運営されています。かつてアメリカ最大の緘黙団体の理事長を務められた経験もあります。2018年8月には、主に保護者を対象とした緘黙の本を共著で出されました。この本については、ちょうど先月、このブログでお話しました。

◇ 保護者向けに書かれた、新しい緘黙の本(米)
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翻訳に関わった方のうち、丹明彦氏(目白大学准教授)と青柳宏亮氏(横須賀市児童相談所・児童心理司)については、緘黙の論文を発表するなどされています。このお二方は、専門家でない私もお名前を拝見したことがあります。監訳者、翻訳者ともに、目白大学に関係する方が中心か、あるいは全てを占めているようです。

なお、原書については2014年11月27日に、このブログで記事にしています。

◇ 米・緘黙支援団体理事長の本が出る
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楽しみな本


2014年に11月27日に、原書についてこのブログで書いたときには気付かなかったのですが、この本には現在アメリカでは重要な位置を占める緘黙支援法が含まれています。PCIT(親子相互交流療法)に基づいた支援法や、集中プログラムなどです。

緘黙支援では国際的な影響力があるスティーブン・クルツ(Steven Kurtz)博士らが行なうこの支援法はしかし、これまで日本ではあまり紹介されていませんでした。今回の翻訳書出版で、いよいよ日本に上陸することになりそうです。

それから、翻訳を担当される方や出版社の顔ぶれが、これまでの緘黙の本とは違います。今回の翻訳書はちょっと宣伝文句が大仰な気もしますが、これまでにない陣容により、どのような翻訳書ができあがったのか楽しみです(私の手元に届くには少し時間がかかりそうです)。




書籍リンク



保護者向けに書かれた、新しい緘黙の本(米)

更新日:2019年02月12日(投稿日:2019年02月12日)
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アメリカで最近、場面緘黙症の本が出版されました。ここでご紹介してみます。私は専門家ではないのですが、私自身の勉強も兼ねて。

本の基本情報


○ 著者:Aimee Kotrba氏と Shari J. Saffer氏
○ 出版日:2018年、米国では8月21日発売日か(日本では少し遅れました)
○ 書名:Overcoming Selective Mutism - The Parent's Field Guide
○ 出版社:Summit & Krest
○ ページ数:177
○ 本のサイズ:A4サイズに近い


著者のAimee Kotrba氏は、臨床心理学者。かつてアメリカ最大の緘黙団体の理事長を務められたり、緘黙の本Selective Mutism: An Assessment and Intervention Guide for Therapists, Educators Parent(2014年)を出されたりしています。ミシガン州のブライトンという街でクリニックThriving Mindsを運営されています。

もう一人の著者のShari J. Saffer氏は、緘黙児の母親です。お子さんの緘黙を改善することに成功しました。その過程で、Aimee Kotrba氏と出会っています。

書名のOvercoming Selective Mutismとは「場面緘黙症の克服」「場面緘黙症を乗り越える」といった意味です。


本の内容


本の内容を一言で表すと、書名の通り、主に緘黙児の保護者向けに書かれた手引書と言えるのではないかと思います(専門家も対象読者として意識はしているようです)。緘黙児の保護者が知っていると役立つと思われる知識(緘黙の理解、治療法、学校での支援制度等)や心構え、ツール、我が子の緘黙の改善に成功したShari J. Saffer氏の経験など、幅広く書かれてあります。緘黙を克服した人によって書かれた本や保護者視点の本が少ないことが、本書執筆の問題意識だったそうです。

著者は2名いますが、どちらがどの章を担当したのかは明記されておらず、はっきり分かりません。専門家のAimee Kotrba氏が主に執筆したっぽい章が、ページ数で8割以上を占めますが、あくまで「執筆したっぽい」章で確証はありません。

この本で示されている緘黙に対する考え方や支援法は、Steven Kurtz博士を中心とする(という言い方でいいのかな)グループのものと見られます。緘黙に対する考え方や支援法は専門家によって若干異なるのですが、その中でも、ある程度似た考えの専門家からなる流派というか、学派というか、そうしたものがあるのです(学派という言い方は大げさかな)。アメリカではElisa ShiponBlum氏を中心とするグループと、Steven Kurtz博士や今回の著者Aimee Kotrba氏を中心とするグループが二大勢力だろうと思います。

ちなみに、日本で発言力を持つ専門家の緘黙に対する考え方も、私が見た限りでは、海外のそれとは若干異なるように思います。しばしばICFを引用して「環境因子」を重く見たり、アセスメントを特に重視したり、話せないこと以外の問題への意識がとりわけ強い点が特徴のように思います。

本の話に戻ると、内容は、Aimee Kotrba氏による2014年の本Selective Mutism: An Assessment and Intervention Guide for Therapists, Educators & Parentsと重なるところもあります。ただ、2014年の本は、治療専門家、教育者、保護者の三者を対象読者としていました。今回の本は主に保護者向けに特化した内容です。

紙面はカラーです。文字色は黒を基本として、見出しなどに青系統の色や赤が使われています。図やイラストはカラフルで、中には具体的な緘黙支援を行なう様子を写したカラー写真まであります。絵本の類でもないのにカラー印刷の緘黙の本というのは、ちょっと珍しいかもしれません。


Facebookを活用した販促


この本には、ちょっと特殊な販促が行なわれました。発売を前にFacebookで非公開グループ "Overcoming Selective Mutism"(書名と同じ)が作られ、本の情報を提供するとともに、そのFacebookグループでコンテスト?か何かを実施し、当選者には本を無料でプレゼントしたそうです。

また、Facebookの公開グループ Selective Mutism Awareness でも事前に宣伝が行なわれ、著者がビデオメッセージを公開する場面もありました。

※ 以下は、Facebookの公開グループへのリンクです。Facebookに登録されていない方でもご覧になれます。

◇ そのFacebookグループでの投稿1
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◇ そのFacebookグループでの投稿2
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◇ そのFacebookグループでの投稿3
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◇ そのFacebookグループでの投稿4
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◇ そのFacebookグループでの投稿5
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感想


よくまとまっている


全体的によくまとまっていると感じました。一般向けに分かりやすく書く一方、2015年以降の新しい研究も参照しています。内容が幅広いので、とりあえずこれ1冊があればなんとかなるかもしれません。

個人的なことですが、他のところで説明されて分からなかったことが、この本の説明でやっと氷解した部分もありました(私は頭が悪い)。また、細かい発見も所々にありました。例えば、緘黙児はなぜ人の名前が呼ぶのが苦手なのかという問いに、一つの答えを示しています。

もっとも、お話したように、この本の内容はAimee Kotrba氏の2014年の著書と重複する部分はあります。また、英語圏ではインターネットなどでも繰り返し説かれてきた内容が含まれます(それでも書籍化した意義はあるとは思いますが)。

この本に書かれているSteven Kurtz博士やAimee Kotrba氏らのグループの緘黙の考え方や支援法は、日本ではあまり知られていないかもしれません。このグループと並んで勢力の大きいElisa ShiponBlum氏らのグループやイギリスでの考え方、支援法については、以前から日本で翻訳されたり、引用されたりしてきました。ですが、今回のSteven Kurtz博士やAimee Kotrba氏らについては、奇妙なほど日本では紹介されません。


"pop-up people"


興味深く感じた箇所は部分的にあちこちあるのですが、一つだけ挙げると、"pop-up people"という表現です。

緘黙児者が話せるようにするためのスモールステップの取り組みは、管理された環境で行なう場合があります。例えば、先日ご紹介したイギリスBBCの動画では、緘黙児が学校の小部屋で発話ができている状況を作って、その中へ、徐々に教師を入れる場面がありました。あの緘黙児が話している最中に、不特定多数の同級生が勝手にその部屋に出入りしたら台無しです。ですので、そのようなことがないようにするのです。

ですが、そうした管理をしようにもできないこともあります。地域コミュニティでの取り組みの場合、特にそうです。例えば、コンビニエンスストアで買い物する取り組みを行なおうとしたところ、緘黙のことも何も知らないコンビニの客から突然「お嬢さん、ハンカチ落としたよ」などと声を掛けられるようなこともあるかもしれません。そうした予期せぬ人物を、この本は"pop-up people"と呼んでいます。"pop-up"とは、ポンと飛び出す様を表す英語表現です。

上手い用語を作ったものだと感心して読み進めていたところ、実はこの言葉、Shari J. Saffer氏の造語であることが終盤で明かされています。緘黙児の母親が取り組みの中で思いついた造語を緘黙支援の手引書で正式に採用するとは、専門家と保護者の共著だからこそできたことでしょう。


カラフルな紙面について


分かりやすさを意識して紙面を構成した緘黙の本は色々あると思うのですが、その中では、この本が最も私の好みかもしれません。様々な色を使って見やすいですが、色は主張しすぎず、あくまで基本は白地に黒の文字です。図やイラストの使用も過不足ありません。

ただ、この本の価格設定が気になります。もしかしたらカラー印刷ゆえ、高めになったのではないかとも考えてしまいます。それでもなんとか購入できたのは皆様のお陰です。





『イラストでわかる子どもの場面緘黙サポートガイド』読みました

更新日:2019年01月21日(投稿日:2019年01月21日)
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昨年末に、新しい場面緘黙症の本が出版されました。年の瀬の発売とあって購入はしばらく控えていたのですが、このほど読み終えました。読んだ感想等を書きたいと思います。

本の基本情報


○ イラスト:にしださとこ
○ 著者:金原洋治、高木潤野
○ 協力:かんもくネット
○ 出版日:2018年12月15日 第1刷発行
○ 書名:イラストでわかる子どもの場面緘黙サポートガイド-アセスメントと早期対応のための50の指針
○ 出版社:合同出版
○ ページ数:159
○ 本のサイズ:B5

にしださとこ氏はイラストレーター。これまで教科書や書物、雑誌など数多くの出版物でイラストを担当してきました。漫画も描く方で、『ぼくらのじかん。』という本も出しています。

著者は2名ですが、金原氏はかねはら小児科院長、高木氏は長野大学社会学部准教授です。両氏とも、緘黙の本に携わるのは今回が初めてではありません。

出版社の合同出版は、これまで緘黙のコミックエッセイを2冊出版しています。『私はかんもくガール』(2015年)と『かんもくって何なの!?』(2017年)の2冊でした。同社はまた、専門家による発達障害の本なども出しています。

ページ数は類書に比べると2割ほど少ない一方、本のサイズが大きめです。

合同出版の「イラストでわかる」シリーズの新たな一冊です。


本の内容


学校における緘黙への対応方法を示した本


本の内容を一言で表すと、学校における緘黙への対応方法を示した本と言えるのではないかと思います。対象読者も、主に教師が想定されているものと思われます。副題に「50の指針」とありますが、1から50まで指針が書かれているわけではなく、特に意味はありません。

小学校での緘黙への対応を最も念頭に置いているようですが、中学校や大学入試に関する記述も中にはあります。

本の構成を見ると、第3章「環境調整・関わり方の工夫・合理的配慮」が67ページ分あり、最も多いです。コラムや巻末資料等を除くと、本書の半分のページ数を占めます。


高木氏の担当分が8割


共著ですが、金原氏は第1章(29ページ分)を担当、高木氏は第2~第4章(110ページ分)の担当です。どなたが執筆したか明記されていないコラムや巻末資料等を除くと、高木氏の担当分が全体の8割のページ数を占める計算です。

この本の内容は、高木氏による2017年3月の著書『学校における場面緘黙への対応』(学苑社)と重なるところが大きいです。今回の本の8割は高木氏が書いたものですし、前の高木氏の本の出版から2年も経っていませんので、内容が重複するのももっともです。


最大の特徴は、読みやすさへの意識


本書の最大の特徴は、本の読みやすさに特段の意識を置いていることでしょう。具体的には、見開き2ページ毎に一つの項目をまとめ、具体的な助言を数個示すというものです。全体的にシンプルな印象を受けます。専門用語の使用も最小限です。『学校における場面緘黙への対応』が専門書に近かったのに対し、こちらは一般書に近いです。

特筆すべきは、イラストを数多く配置して視覚的にイメージしやすくする工夫を施している点です。書名にも「イラストでわかる」と強調してあることから、イラストを中心とした構成は本書が最も強く打ち出そうとしたポイントと思われます。

その一方で、余白が多くて文章は少なく、ページ数も少なめです。読み通すのに、あまり時間はかかりません。


感想


ほぼ高木氏の本


この本は、ほぼ高木氏の本と私は見ています(もちろん金原氏の担当分も重要ですけれども)。8割が高木氏の担当ですし、高木氏の専門性や緘黙に対する考え方が色濃く反映されています。

もっと言うと、ほぼ『学校における場面緘黙への対応』のイラスト版と言ってよいのではないかと思います。


分量が薄い本の良し悪し


見た目によらず分量が薄い本ですが、この良し悪しは一概には言えません。本書の想定読者は主に小学校教師でしょうが、多忙な教師が分量の多い本をどこまで読めるかは分かりません。イギリスでは「教師には本当に時間がない」として、わずか30ページの本が出版されています。ポイントを端的にまとめられたのであれば、かえって優れた本ということにもなります。

分かりやすさを重視した本のようですし、意図的に分量を少なくしているのではないかと私は思います。


最も注目されるのは、分かりやすさへの意識


本書で最も注目されるのは、分かりやすさを意識した本の構成です。こんなにイラストが多い緘黙の和書は、コミックエッセイや絵本などを除けば見た覚えがありません。例えて言えば、NHKラジオ「基礎英語」シリーズのテキストを見ているようです。この点で、『学校における場面緘黙への対応』との差別化に成功しています。

緘黙サイトの老舗「場面緘黙症専用」を運営する俊太さんは、この本についてTwitterで「何よりイラストが多くてわかりやすいのがいいですね」とコメントされています。

私は逆で、大人向けの本に、ここまでの量のイラストは必要だろうかと感じます。イラストや余白にスペースを多く割いて、肝心の説明文が少ないページも散見されます。もっとイラストや余白を削るなり縮めるなりして内容を圧縮した方が、ページの一覧性が高まって、私には見やすくなりそうです。

ただ、このあたりは好みの問題で、どちらがよいとも言えません。私などよりも、対象読者層が読みやすいと感じるかどうかの方が重要です。主要読者層と思われる学校教育界からはどう評価されるでしょうか。

にしだ氏のイラストは、本書の内容の視覚的理解を促すよう描かれています。また、小さなイラストから大きなイラストまで、見やすいものばかりです。本書を手に取るのは主に小学校教師でしょうが、にしだ氏のイラストは小学校の教科書に採用された実績があるため、馴染みのある絵柄を見て安心する教師もいることでしょう。本書は何より「イラストでわかる」ことが目玉ですので、やはり的確なイラストレーターが選ばれていると唸らされます。