『場面緘黙の子どもの治療マニュアル』読みました

更新日:2018年09月30日(投稿日:2018年09月30日)
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新しい翻訳書『場面緘黙の子どもの治療マニュアル:統合的行動アプローチ』を読み終えました。この本について改めて簡単にまとめてみたいと思います。

本の基本情報


○ 書名:場面緘黙の子どもの治療マニュアル:統合的行動アプローチ
○ 原書名:Treatment for Children with Selective Mutism: An Integrative Behavioral Approach
○ 著者:R. Lindsey Bergman(R・リンジー・バーグマン)
○ 監訳:園山繁樹
○ 発行日:2018年7月20日
○ 出版社:二瓶社

著者のバーグマン氏は、Selective Mutism Questionnaire(場面緘黙質問票)を開発したり、数多く引用される緘黙の論文を複数著したりと、この分野で業績を挙げてきた方です。緘黙でこれだけの業績を挙げた専門家は、日本にはいません。原書は、2012年にオックスフォード大学出版局より出ています。

翻訳は7人の分担で、そのうち6人は、筑波大学大学院人間総合科学研究科障害科学専攻(博士後期課程)在学中の学生です。監訳者が指導する学生だそうです。もう一人は、千葉経済大学短期大学講師の雨貝太郎氏で、この方も筑波大と関わりがある方です。

二瓶社が、緘黙を主題とした本を出版したのは今回が初めてです。


本の内容


この本はセラピストを対象に、緘黙がある子どもに対する、いわゆるスモールステップの治療マニュアルを示したものです。この治療マニュアルの最大の特徴は20回のセッションを標準としている点であると、監訳者は指摘しています。治療に当たっては、親と教師の参加が絶対不可欠とされます。

著者はカリフォルニア大学ロサンゼルス校の准教授ですが、さすがに邦訳されることまで意識して書いてはいないようで、例えば日本には馴染みの薄い遊びが数多く紹介されています。

この本にはコピーして使える付録がついているため、本のサイズも少し気になります(拡大コピーがあるとはいえ)。原書はA4サイズよりやや小さい縦25.1x横17.5センチでしたが、今回の翻訳書はA5サイズ(縦21.0x横14.8センチ)で、少しコンパクトになっています。これまで国内で出た緘黙の和書は、だいたいこのA5サイズです。

監訳者のあとがきは1ページのみのシンプルなものです。


コメント


この本は治療専門家が読むものなので、私のような専門家でも何でもない者がコメントするのは特に難しいです(本を使う立場ではないので)。ただ、かなり具体的に書かれている印象は受けます。

この本について、私は一部思い違いをしていたので、訂正致します。以前こんなことを書いたことが何度かありました。

この緘黙の本で示された治療法は、ランダム化比較試験という信頼性が高い方法で有効性が検証されたことがあります。

◇ Bergman, R.L., Gonzalez, A., Piacentini, J., and Keller, M.L. (2013). Integrated Behavior Therapy for Selective Mutism: A randomized controlled pilot study. Behaviour Research and Therapy, 51(10), 680-689.
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このランダム化比較試験は、本の出版前に行なわれたもののようです(後だと思っていました)。まずは予備的研究というかたちで、開発した治療マニュアルを小規模なランダム化比較試験で有効性を検証し、その後に、今回の本を出版しています。

緘黙の治療法を示した本は複数ありますが、その準備段階で、小規模とはいえランダム化比較試験まで行なって有効性を検証したことを明言したものは、少なくとも英語圏では他に見たことがありません。その分、信頼性はあります。

ところで、最近、緘黙に関心を持つ方の間に内向きの傾向を感じます。緘黙に関する海外情報への関心の低下を感じるのです。昔と違って、日本の動向を追うだけで緘黙の情報がある程度集まってしまうようになったため、それで満足してしまう人が増えたのでしょう。

ただ、緘黙の概念を生んだのも、緘黙は不安症という今日の基本的理解を築いたのも、緘黙の団体やグループを最初に作ったのも、全ては海外の専門家や関係者です。スモールステップの取り組みが注目を集めるようになったのも、海外の影響です。そして、メディアによる緘黙の啓発活動にしても、日本は海外の後追いです(こういう歴史的経緯をご存じの方、減ってきているかもしれません)。緘黙については、海外が先を進んできたといっても過言ではありません。もう少し海外の動向に関心が寄せられてもよいのではないかと思います。



「合唱団からソロへ」という名のスモールステップ

更新日:2018年09月27日(投稿日:2018年09月27日)
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より多くの人が集まる場で、少しずつ発話へ


イギリスで場面緘黙症と言えば、The Selective Mutism Resource Manualという定番の本があります。

2016年に出版された第2版では、新しいスモールステップの取り組み方が示されています。以前にもお話したことがありますが、「初版の連続的アプローチはあまりに直線的な枠組みであったことが、初版から15年の間に明らかになった」 (Over the next 15 years it became clear that this sequential approach was too linear a framework.)(46ページ)として、新たに円形のモデル(circular model)を打ち出しています。

それが、下の図です。クリックで拡大しますが、新しいウィンドウが開きます。

図 A multidimensional model of confident talking(420ページより。47ページのものと同一)

円形のモデル

このうち、右上と左下については、より多くの人が集まる場で少しずつ発話に持っていこうとするものです。

右上:「公共の場での発話」(Talking in public places)
公共の場で発話を見聞きされることへの耐性をつけること。最初は誰もいない場面から、より多くの人のそばで発話ができるよう取り組みます。主に家庭や地域社会での話です。

左下:「集団参加」(Group participation)
一対一の会話から、より多くの人が集まるグループ活動で発話できるようになること。主に学校での話です。


その逆「合唱団からソロへ」


ところが、これとは逆とも思える方法が提唱されていることを知りました。ポーランドの教育雑誌Wychowawca2018年9月号の記事の中で触れられています。

↓ その記事を転載したもの。緘黙児の母親で、ポーランドの緘黙支援団体Polskie Towarzystwo Mutyzmu Wybiórczego会員へのインタビュー記事です。同団体ホームページへのリンク。
◇ Wywiad » Mutyzm wybiórczy | diagnoza i skuteczna terapia
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"od chóru do solo" という名の方法です。Google 機械翻訳の助けを借りて訳を考えると「合唱団からソロへ」のような訳ではないかと思うのですが、自信がありません。これはポーランドの言語聴覚士Maria Bystrzanowska氏が、2018年に出した著書 Mutyzm wybiorczyの中で明らかにしたものだそうです。本来ならこの本を読んでから述べるべきなのでしょうが、ここでは上の記事をもとにお話します。

上の記事によると、まずは大人数で一緒に詩を読むといった発話から初めます。そして、徐々に人数を減らしていくのだそうです。よく読み取れなかったのですが、緘黙がある子が、自由にコミュニケーションをとれるようになるまで続けると書かれてあるようにもとれます。

私は専門家ではないのでよく分からないのですが、確かに、大勢の中声を発しても目立たないので、緘黙児者にとっては最初の一歩としては比較的挑戦しやすいかもしれません。うまい方法を考えるものだと思いました。

一見して、徐々に人を増やしていくイギリスの本と正反対のことをしているようですが、相反するものではないと思います。大人数と一緒に発話⇒少人数と発話⇒大人数の前で発話といったように、イギリスの方法と組み合わせることもできるかもしれません。



Mutyzm wybiorczy--近年動きが活発な、ポーランドの緘黙事情

更新日:2018年09月21日(投稿日:2018年09月21日)
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場面緘黙症に関する、世界各国のFacebookページ。そのうち「いいね!」が多いページを、国別に分かる範囲で調べてみました。

米国:Selective Mutism Association 10,680
ポーランド:Polskie Towarzystwo Mutyzmu Wybiórczego 6,787
ブラジル:Mutismo Seletivo 4,849
イタリア:AIMuSe Associazione Italiana Mutismo Selettivo 3,874
アルゼンチン:Mutismo Selectivo-Textos y videos de ayuda 3,710
英国:Confident Children - Selective Mutism Therapy 2,605
豪州:Selective Mutism Australia 2,059
日本:かんもくネット 1,499
台湾:台灣選擇性緘默症協會 1,216
独国:Mutismus Selbsthilfe Deutschland e.V. 1,138

ポーランドのFacebookページの「いいね!」数、ちょっと多くありませんか。ポーランドの人口は4,000万人でアメリカやブラジルには遠く届きません。また、Facebookの利用者数がとりわけ多い国でもありません。それなのに、これだけの「いいね!」があるとは驚きです。

ポーランドのFacebookページには、他にも多くの「いいね!」を集めているものがあります。

Mutyzm wybiórczy - Poradnia Terapii Mutyzmu "Mówię" 1,315
Mutyzm wybiórczy - informacje, szkolenia, konsultacje online 1,029

もっとも、Twitterや動画サイトの利用状況や、Googleの検索回数については、ポーランドは特に目立ってはいません。ポーランドの緘黙関係者はFacebookに固まっているだけなのかもしれません。

それでも、あの「いいね!」数の多さは相当なものです。こうなると、ポーランドの動向が気になってきます。ポーランドでは、場面緘黙症はMutyzmu Wybiórczegoと呼びます。近年緘黙に関する動きが活発なポーランドについて簡単にまとめてみました。

※ 私もポーランドの現状についてはごく最近知ったばかりです。ポーランド語も読めず、英語に機械翻訳してなんとか情報収集に当たった次第です。

※ この記事ではFacebookページへのリンクを多数貼っていますが、「非公開」と記したもの以外は、Facebookに登録されていない方でもご覧になれます。