緘黙児がダンス番組で活躍、世界の緘黙関係者がシェア

更新日:2019年02月28日(投稿日:2019年02月28日)
アイキャッチ画像。
アメリカのテレビ番組 World of Dance に場面緘黙症の少女が登場し、素晴らしいパフォーマンスを見せました。2月26日のことです。

何はともあれ、まずは動画をご覧ください!


これは、その動画です。4分7秒。再生回数は既に20万回を超えています。



↓ YouTubeで直接ご覧になりたい方は、こちら。
◇ The Crazy 8's Wow the Judges to "Keeping Your Head Up" - World of Dance 2019 (Full Performance)
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一番小さな子が、緘黙がある Naiaさんです。16秒頃、集団の中から抜け出し、腹ばいになって床の上を回転しています。

あと、はっきり見分けられないのですが、もしかしたら38秒頃に回転している子、1分00秒頃から回転している子も Naiaさんのように見えます。そうだとしたら、この作品は Naiaさんが主人公といっても過言ではありません。

1分24秒頃に涙を見せているのは、Naiaさんのご両親です(後述)。

緘黙に関する1分38秒頃からの質疑応答が、特に重要な箇所です。そこで、その部分を書き起こし、和訳してみました(ちょっと自信がないのですが……)。

[ジェニファー・ロペスさん(審査員の一人)]

しかし、最初に教えてください。あの作品は何についてのものですか。

But tell me first what was that piece about?

[メンバーの一人]

この作品は、ここにいる私たちの友達 Naiaにインスパイアされました。Naiaには場面緘黙症と呼ばれるものがあります。つまり、Naiaは他の人とあまり気軽に話せないという意味です。私たちはただ Naiaに、私たちがどれだけ Naiaのことを愛し、大切に思っているか知って欲しいと思っているだけです。それから……

So this piece was inspired by our friend Naia, here. She has something that's called selective mutism which means that she's not very comfortable talking with other people, and we just want her to know how much we love and care for her and...

[ジェニファー・ロペスさん]

ちょっと待て!ちょっと待って!あなた(Naiaさん)はちょっと、お腹***回転してなかった?あれはあなたよね?

※ ***のあたりは、何と訳せばよいのか分かりません。ごめんなさい。

Wait a minute! Wait a minute! Were you not just on your belly spinning with your head above your leg? Wasn't that you?


ジェニファー・ロペスさんは、先日のアカデミー賞でプレゼンターを務めるなど大変有名な方ですが、この Naiaさんのパフォーマンスを「私の人生の中で見たことがない」(I've never seen it in my life)とおっしゃって、歓声が沸いています(2分14秒頃から)。

このチームが獲得した点数は3人の審査員の平均で93.0点でした。これは、この回で放送されたジュニアチーム部門では最高点でした。


事前に、番組が緘黙について説明していた


このダンスが行なわれる前、チームの紹介が行なわれ、主に Naiaさんと緘黙について取り上げられていました。Naiaさんのご両親もコメントされています。

↓ その動画です。YouTubeへのリンク。3分21秒。
◇ The Crazy 8's Intro Package! WOD!
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World of Danceとは?


World of Danceは、世界各国で開催されるダンスコンペティションだそうです。賞金は100万ドル、日本円で約1億円という途方もない金額です。今年の世界選手権の開催は7月です。日本でも既に予選が始まっています。

テレビ放送は、アメリカの三大ネットワークの一つNBCを中心に行なわれています。2018年には、日本でもDlife(BS258ch)で放送されていました。

Naiaさんが登場した回は、シリーズ3期目の初日の放送です。

審査員には、ミュージシャンや女優として活躍中のジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)さん、シンガー・ソングライターのニーヨ(NE-YO)さん、俳優やダンサーとして活躍中のデレク・ハフ(Derek Hough)さんと、錚々たる面々が顔を連ねています。

今回の Naiaさんは、アナハイムヒルズ(カリフォルニア州)のCrazy 8'というチームの一人として参加しています。

緘黙が主流メディアで取り上げられたということで、世界各国の緘黙関係者の間で話題になっています。アメリカだけでなく、イギリスニュージーランド台湾アルゼンチンポーランドの Facebookページでシェアされているのを確認しています。国によっては、「いいね!」の数がかなり多いです。


あんなに伸び伸び動けない緘黙児も多いのでは


チームCrazy 8'の活躍は、メディアも取り上げています。そのうち緘黙に言及したものは、次の3件を確認しています。

↓ Women'sHealth へのリンクです。
◇ J.Lo Was ‘Floored’ By A Little Girl With Selective Mutism on ‘World Of Dance’—But What Is That?
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↓ GoldDerby へのリンクです。
◇ The Crazy 8’s (‘World of Dance’) spoke softly but carried a big spinning arabesque in the Qualifiers [WATCH]
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↓ Hollywood Life へのリンクです。
◇ ‘World Of Dance’ Premiere: 17 Yr. Old Delivers Stunning Performance That Gives J.Lo ‘Goosies’
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上の二つについては、Naia さんは言語で自分自身を表現するのに困難を抱えているけれども、ダンスフロアで自己表現するには何の問題もないとして美談にしています。言わんとしていることは分かります。

ただ、だからといって、言語表現ができない問題が軽く見られるようなことにはなって欲しくないとも思います。

また、緘黙児者の中には、人前でこのように伸び伸び身体を動かすことすらままならない人も少なくないのではないかと思います。日本語では「緘動」、英語でも frozen などと言うことがあるのですが、緘黙児者の中には、動作そのものに抑止が強く働き、動き自体が封じられてしまう人もいます。

そして、もし「頑張る緘黙児者」像が、感動の対象として変に消費されるようなことになったら、嫌だなとも思います(感動ポルノ)。

とはいえ、素晴らしいパフォーマンスでした。また、緘黙という言葉を広めてくれた Naiaさんのお友達にも感謝したいです。



緘黙行動が維持・強化されるサイクル

更新日:2019年02月23日(投稿日:2019年02月23日)
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回避のサイクル


下の図は、発話の回避により、緘黙行動が維持・強化される悪循環を描いたものです。

「発話を促される→不安が強くなる→大人が代わりに答える→不安が軽減する→緘黙行動が強化される」と書いています。

場面緘黙症の原因をリスク要因、引き金、維持要因の三つに分けるとすると、これは維持要因に相当するものの説明です。学習心理学を背景とした考え方と思われます。専門的には「負の強化」(negative reinforcement)と呼ぶようです。

「大人が代わりに答える」とありますが、ここは主語が「子どもの友人」や「同級生」でも構わないでしょう。何らかのかたちで発話が回避できれば、大体同じことではないかと思われます。緘黙児者の気持ちを勝手に読んで済ませてしまう(mind reading)といったことも、挙げられます。


英語圏では割と目にする図


この図ですが、緘黙に関する英語圏の情報に触れていると割と目にします。

例えば、イギリスでは緘黙治療の定番の書 The Selective Mutism Resource Manual(第2版)には、「どのようにしてプレッシャーと回避が緘黙の一因となるか」(How pressure and avoidance contribute to selective mutism)の説明として出てきます(40ページ)。

また、先日お話した、2018年8月に出たアメリカの保護者向けの本Overcoming Selective Mutismにも、「場面緘黙症サイクルの維持-回避のサイクル-」(MAINTAINING the Selective Mutism Cycle -The Cycle of Avoidance-)として登場します(58ページ)。

※ ただし、本などによって、図の仔細は異なります。


なぜか、日本ではあまり見ない


ですが、日本ではこの図を目にした覚えはちょっとありません(私の不勉強ゆえだったら申し訳ないのですが)。先日出版された新しい本『イラストでわかる子どもの場面緘黙サポートガイド』でも、思った通り見つかりませんでした。あれだけイラストが大量に挿入された本であるにもかかわらずです。

別に図ではなくても、この図の趣旨を文章で解説していれば同じことなのですが、やはりこのように説明したものを見た覚えはあまりありません。

なぜ日本ではこの図を見かけないのか(逆になぜ英語圏ではよく目にするのか)は、専門家ではない私には分かりません。どちらにしろ、上の図のような考え方の理解は、日本ではあまり広まっていないものとみられます。


「安心できる環境作り」「合理的配慮」の罠


私は、この図から教えられるところは、日本でも大きいと思います。

よく緘黙児者が安心できる環境作りが大切とされますが、不安の除去の仕方をこのように誤ると、緘黙行動が維持・強化されることにもなりかねません。

また、最近は「合理的配慮」が緘黙支援で大きなテーマの一つですが、これも配慮の名の下に、このような接し方をしてしまうと、緘黙行動が維持・強化されることも考えられます。

図のような悪循環は断ち切る必要があります。そのためには、緘黙児者が答えやすいかたちで答えさせるのです。なお、この点について興味がある方は、次の記事をご覧ください。

◇ 緘黙児が口頭で答えやすい質問(症状が軽い場合)
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【訃報】アリス・スルーキン氏、英緘黙団体創設

更新日:2019年02月21日(投稿日:2019年02月17日)
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イギリスの場面緘黙症団体SMIRAの創設者で、緘黙のGrande Dame(大御所、第一人者)とも呼ばれるアリス・スルーキン氏(Alice Sluckin氏)が、2月15日に亡くなられたようです。99歳でした。

SMIRAの公式発表はまだ確認できないのですが、イギリスの緘黙当事者Sabrina Branwood氏や、日本のかんもくネットがソーシャルメディアに投稿しており、ほぼ間違いないものとみられます。

◇ かんもくネットのFacebook投稿
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◇ Sabrina Branwood氏のTwitter投稿
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[追記(2019年2月21日)]

SMIRAホームページで、追悼記事が出ています。

◇ News - SMIRA
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上級精神医学ソーシャルワーカーだったアリス・スルーキン氏は、1960年代に緘黙児と出会いました。現在緘黙治療の主流である行動療法を当時から行い、その研究は専門誌 British Journal of Psychiatric Social WorkA behavioural approach in the treatment of elective mutism という論題で発表されました(1969年、Derek Jehu氏との共著)。

その後も緘黙に関する研究を発表されていて、1977年には Children who do not talk at schoolChild Care Health and Development掲載)、1991年には Behavioural treatment programs and selectivity of speaking at follow-up in a sample of 25 selective mutesAustralian Psychologist掲載、2名の方との共著)が出ています。

アリス・スルーキン氏の緘黙に対する関心は退職後も続き、1992年には緘黙団体SMIRA(Selective Mutism Information & Research Association)を設立、代表に就任しました。SMIRAの本拠地が現在もレスターなのは、おそらくこの方が同地を中心に活動されていたからだろうと思います。

その後も活動を続けられていたところ、緘黙に対する長年の活動が評価され、2010年に大英帝国四等勲士(OBE)を受章されました。

日本のかんもくネットも、創設時にはアリス・スルーキン氏から様々な支援を受けたそうです。また、翻訳書『場面緘黙へのアプローチ』(2009年)や『場面緘黙支援の最前線』(2017年)には、アリス・スルーキン氏が関わった論考が掲載されており、特に『アプローチ』には顔写真まで載っているので、お馴染みの方もいらっしゃることと思います。

日本では、緘黙が「また新しい病気か」などと軽く見られることがあります。その一因は、アリス・スルーキン氏のような、緘黙の歴史を体現した方が日本にいないところにあるのではないかと私は考えていました。

イギリスの緘黙当事者 Sabrina Branwood氏は、先ほどお話したTwitter投稿の中で、アリス・スルーキン氏のことを "lovely Alice" と呼んでいらっしゃいます。緘黙に関わる方からいかに愛されていたかが窺えます。