ウェブ掲示板--おそらく日本初の、緘黙についての交流の場
更新日:2017年10月28日(投稿日:2017年08月06日)

場面緘黙症についての交流の場としては、日本では初めてではないか--
2000年頃にインターネット上で生まれた、緘黙などをテーマとした掲示板のことです。
アメリカやイギリスとは違い、日本ではインターネット普及以前には、緘黙の支援団体はありませんでした(初の団体設立は2006年)。小さな親の会などの存在も、少なくとも私は聞いたことはありません。日本では、ネット上の掲示板が、緘黙の当事者・経験者、保護者らの最初の交流の場だったのではないかと私は見ています。
今回は緘黙の掲示板を、その初期である2000年代前半を中心に取り上げたいと思います。今となってはネット上にあまり残っていない幻の交流の場です。私は当時をリアルタイムで知る者として、しっかりとお伝えしたいと思います。お付き合いいただけると幸いです。
今回の記事では、緘黙の掲示板を2通りに分類してお話します。一つは、業者運営型。もう一つは、個人運営型です。整理してお話したいと思います。
業者運営型の掲示板
緘黙掲示板の代表格だった「Yahoo!掲示板」
「Yahoo!掲示板」というツリー型掲示板がかつて Yahoo!Japan にあり、数多くの書き込みが寄せられていました。緘黙についても「緘黙症」というトピックがありました。
↓ 現在アクセスできません。
◇ Yahoo!掲示板「緘黙症」 (新しいウィンドウで開く)
webアーカイブスサービス「Wayback Machine」で調べたところ、トピックが立ち上がったのは2000年11月13日のことでした。確認できる最後の投稿は2003年4月26日で、この時点で1,624件の書き込みが寄せられています。
その後間もなく、後継トピック「緘黙症(再)」が立ち上がりました。この後継トピックは、確認できる最後の投稿が2004年7月15日で、この時点で251件の書き込みを記録しています。両者合わせると、1日平均1件以上の書き込みがなされた計算になります。
育児カテゴリに保護者が立てたトピックとあって、当事者・経験者よりも保護者の書き込みの方が多かったようです。
トピックは早くも2000年に立ち上げられていますし、書き込み頻度も多く、さらに緘黙を掲示板の明確なテーマとして掲げていることから、緘黙に関する初期の掲示板では最も代表的なものと言えるのではないかと思います。
なお、Yahoo!掲示板の投稿によると、これ以前にも「しゃべらない子」と題する、緘黙に関するトピックが立てられていたようです。その詳細についてまではつかめませんでした。
裏の代表格だった「2ちゃんねる」
Yahoo!掲示板が、緘黙掲示板の表の代表格とすれば、裏の代表格は2ちゃんねるでしょう。
2003年6月16日に最初のスレッドが立てられ、およそ2年後の2005年3月11日に書き込み数が1,000件に達しました。ここでも1日平均1件以上の書き込みがなされた計算になります(ただし、スレッドの趣旨とは無関係な書き込みも含みます)。緘黙のスレッドは以後も続きますが、2000年代後半以降の掲示板の状況については今回の記事の対象外ですので、触れずにおきます。
この2003年に立てられた最初の緘黙スレッドは、現在でも閲覧できます。この時期の掲示板での緘黙に関する書き込みが現在でも全て残っているのは、この2ちゃんねるスレッドぐらいです。貴重ですので、ご紹介することにします。保護者の書き込みも少なくありませんが、どちらかと言えば当事者・経験者の書き込みが多いかもしれません。
↓ 2ちゃんねる「場面緘黙症」最初のスレッド。
◇ ◆場面緘黙症◆ (新しいウィンドウで開く)
個人運営型の掲示板
個人運営型の掲示板は、多くの場合、緘黙を扱った個人ホームページのコンテンツの一部として設置されていました。一つのホームページに複数の掲示板を設置した例も珍しくありませんでした。
多数の掲示板が作られたため、差別化が図られるようになり、デザインや形式、用途などで、様々な個性あふれる掲示板が生まれました。通常の掲示板や、訪問者が挨拶をするために作られたゲストブック、中にはお絵かき掲示板などもありました。
個人運営の掲示板は、「なんでも掲示板」という掲示板が設置されるなど、話題は必ずしも緘黙には限りませんでした。当時の緘黙サイトは、緘黙専門のサイトというよりはむしろ、緘黙も扱ったメンタル系サイトとでもいうべきものが多く、そのことが、こうした傾向に関係していたものと思います。
そのうちいくつかを挙げてみます。
初の緘黙サイト?「ココロのひろば」の掲示板
「ココロのひろば」は、2000年4月10日に開設された最初期の緘黙サイトです。管理人さんによると、ネットで「場面緘黙」と検索をかけてもほとんど一件も引っかかることがなかった頃に作られたそうで、日本初の緘黙サイトの可能性が高いです。
◇ ココロのひろば (新しいウィンドウで開く)
↓ 現在アクセスできません。
◇ 「ココロのひろば」旧アドレス (新しいウィンドウで開く)
「Wayback Machine」で調べたところ、このサイトにはかつては3つの掲示板が設置されていたことが分かりました。「なんでも掲示板」、「ゲストブック&メルフレ掲示板」、「独り言コーナー」という構成です。この他、「喫茶室」と題するチャットもありました。
このうち最も書き込みが多かったとみられるのが「なんでも掲示板」です。「OTD BBS」をレンタルした、文字形式の掲示板でした。書き込んでいたのは保護者よりも、主に当事者・経験者やそれに近い立場の方だったようです。「なんでも掲示板」という題名ながら、緘黙に関する書き込みは少なくなかったようです。
この「なんでも掲示板」ですが、「Wayback Machine」で調べたところ、2001年6月28日時点で59件の書き込みがありました。それが10ヵ月後の2002年4月28日だと、230件まで増えています。書き込み数は10ヶ月で171件ですから、2日に1件以上のペースで書き込みがあった計算になります。
なお、「Wayback Machine」で確認できる最後の書き込みは2004年8月12日で、書き込み数は743件にまで増えていますが、この頃になるとスパムが現れています。スパムを除いた純粋な書き込み件数は分かりません。
9つもの掲示板を擁し、末期には掲示板サイトに転換した「ほほえむ」
「ほほえむ」は2000年10月23日に開設されたサイトです。緘黙や斜視、対人恐怖、社会恐怖などを扱っていました。
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◇ ほほえむ (新しいウィンドウで開く)
「ほほえむ」には掲示板の数が多く、2003年4月現在には、9つもの掲示板を擁するまでになりました。以下が、そのリストです。
○ げすとぶっく&メル友募集
○ なんでも掲示板
○ ぴろり宛掲示板
○ 足跡ぺたぺた
○ 叫びの掲示板
○ おえかき掲示板
○ 日本全国緘黙症・元緘黙症探し
○ ぶつぶつBBS
○ 緘黙について話し合う掲示板
※ 「ぴろり」は管理者さんのお名前です。
この他、上の掲示板9つの他に、チャットが5つ、ゲームが3つ、交流の場として用意されていました。緘黙についての交流の場としては、当時最大規模の器を用意していたと言えるでしょう。
数ある掲示板のうち、メインは「なんでも掲示板」だったようです。これはCGI/Perlによるプログラムの配布サイト「KENT WEB」のアイコン式掲示板「YY-BOARD」を利用したもので、数多くの書き込みがなされました。こちらも、主に当事者・経験者やそれに近い立場の方の書き込みが中心だったようです。内容は緘黙に限らず、多岐に及んでいます。
この「なんでも掲示板」での書き込みでも特に目立つものに、さくらかよさんの書き込みが挙げられます。以前にも掲示板の管理人さんと関わりがあったさくらかよさんが、なんと本を出すことになったというお知らせを書き込まれ、多数の返信が寄せられました。その本こそ、2002年に出版された『君の隣に-緘黙という贈り物-
「ほほえむ」は2005年にリニューアルを行い、本格的な掲示板サイトに移行しました。2007年頃に閉鎖されています。
同盟簿の役割を果たした「日本全国緘黙症・元緘黙症探し」
「日本全国緘黙症・元緘黙症探し」も、緘黙サイト初期から存在していた掲示板で、「Wayback Machine」では少なくとも2001年11月には存在が確認できます。
↓ 現在アクセスできません。
◇ 日本全国緘黙症・元緘黙症探し (新しいウィンドウで開く)
この掲示板は一種の名簿で、居住する都道府県とハンドルネーム、自己紹介コメント等を1回限り書き込みます。当時流行した「同盟簿」と同じ役割を果たすものと説明されていました。特に、居住する都道府県に注目した点に、この掲示板の特徴があります。なお、この掲示板は「Tacky's Room」というCGIスクリプト配布サイトで配布されている「目指せ全国制覇」を使用したものです。
全国47都道府県からの書き込み達成を目指していたところ、書き込み多数により、実現しました。私もこの掲示板に投稿したことがあるのですが、投稿ナンバーは121番でした。2005年12月4日のことです。当時、既に120件を超える投稿があったことが分かります。最終的には、数百件ぐらいまで書き込みが増えたのではなかったかと思います。保護者からの書き込みもありましたが、ここでも当事者・経験者の書き込みの方が多かったようです。
この掲示板は「浮遊(フユー、ふゆう)」という緘黙サイトの一コンテンツとして出発しましたが、 2002~2004年頃にかけては、「ほほえむ」と共同管理という形をとっています。末期には「浮遊」が閉鎖され、新たに管理人さんの個人ブログからリンクが張られました。長く続いた掲示板ですが、 2014年4月末日をもって、その歴史に幕を降ろしています。
むすび
調べたところ、2000年代前半における掲示板での緘黙に関する交流は、Yahoo!掲示板の緘黙トピックを中心に、個人ホームページの掲示板や、2003年以降は2ちゃんねるも巻き込んで行なわれていたことが分かりました。というか、思い出しました。Yahoo!掲示板や2ちゃんねるは緘黙の話題が多くを占めていたのに対し、個人ホームページの掲示板では、緘黙以外にも様々な話題で盛り上がっていました。
私自身、この頃、ある緘黙経験者が運営していた個人ホームページの掲示板に入り浸っていたものです(全く違うハンドルネームで)。今回取り上げた個人運営の掲示板はあくまで一部で、当時は他にもたくさんありました。
ですが、あの頃の掲示板のほとんどは、現在無くなっています。「Wayback Machine」に頼らない限り、交流の跡を窺うことができなくなっています。
また、あの頃掲示板に書き込んでいた当事者、経験者、保護者も、現在ほとんど見かけることがありません。当時の方たちは、今頃お元気でいらっしゃるでしょうか。
※ 毎年8月には、緘黙サイトの歴史をお話しすることにしています。緘黙についての動きをおよそ15年にわたって見続けてきた者として、昔のことを伝えたいです。