欠格条項:「口がきけない者」は昔、車の免許も取れなかった

2017年08月24日(木曜日)

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昔の欠格条項


口がきけない者には自動車免許を与えない--道路交通法には、十数年前まで、こんな規定がありました。

(免許の欠格事由)
第八八条1 次の各号のいずれかに該当する者に対しては、第一種免許又は第二種免許を与えない。

(中略)

二 精神病者、精神薄弱者、てんかん病者、目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者
(以下、略)

「欠格条項」と呼ばれるものです。ただ、この「口がきけない者」に場面緘黙症の者が含まれたという話は、少なくとも私は聞いたことがありません。そもそも法律を作った側も運用した側も、運転免許を取得しようとする青年期以降の緘黙者の存在は、想定していなかったのではないかと思います。

この規定に対し、ある聾者が裁判を起こしています。1968年に始まったこの「運転免許裁判」には、全日本ろうあ連盟が支援、全国的な運動に発展しました。ですが、この方は裁判に敗れました。

ただ、裁判中、警察庁が聴力検査に補聴器の使用を認める通達を出すという新たな動きがあり、結局は免許取得に至ったそうです。補聴器を使えば聴こえるのなら、この法律でいう「耳が聞こえない者」にはあたらないということなのでしょう。

このような規定はかつて、道路交通法以外にもありました。「口が/のきけない者」は医師、薬剤師、歯科医師、保険婦、看護婦、准看護婦、言語聴覚士ほか多くの免許が与えられませんでした。

↓ 「障害保健福祉研究情報システム(DINF)」へのリンクです。2001年の記事。中断に、法律上の欠格自由の範囲をまとめた分かりやすい表があります。
◇ 「障害者に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律」について (新しいウィンドウで開く


「絶対的欠格」から「相対的欠格」へ


こうした状況は現在変わっています。「障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう」(障害者対策推進本部決定)見直しが行われた結果です。

ただ、障害にかかわる欠格条項が全廃されたわけではありません。例えば、次の条文は、現在の道路交通法第九十条です。

(免許の拒否等)
第九十条  公安委員会は、前条第一項の運転免許試験に合格した者(当該運転免許試験に係る適性試験を受けた日から起算して、第一種免許又は第二種免許にあつては一年を、仮免許にあつては三月を経過していない者に限る。)に対し、免許を与えなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する者については、政令で定める基準に従い、免許(仮免許を除く。以下この項から第十二項までにおいて同じ。)を与えず、又は六月を超えない範囲内において免許を保留することができる。
一  次に掲げる病気にかかつている者
イ 幻覚の症状を伴う精神病であつて政令で定めるもの
ロ 発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であつて政令で定めるもの
ハ イ又はロに掲げるもののほか、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの
(以下、略)

以前は、これこれこういう障害を持つ者には一律に免許を与えないという規定でした(絶対的欠格)。改正後は、免許を保留することができるという、やや緩和された規定です(相対的欠格)。

医師や看護師など他の免許も、相対的欠格に改められたり、欠格条項が廃止されたりしています。例えばこの2資格なら、医師法や保健師助産師看護師法、そして同法施行規則により、「視覚、聴覚、音声機能若しくは言語機能又は精神の機能の障害により○○の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」 には、免許が与えられないことがあると規定されています(○○には資格の名前が入ります)。

ただし、「当該者が現に利用している障害を補う手段又は当該者が現に受けている治療等により障害が補われ、又は障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならない」とも規定されていることには注意が必要です。

欠格条項がこうしたかたちで残っていることには、異を唱える団体もあります。

◇ 障害者欠格条項をなくす会ホームページ新しいウィンドウで開く

緘黙については、欠格条項のために免許が取れなかったという話を、少なくとも私は聞いたことがありません。心配はいらないのかもしれません。

ただ、欠格条項の存在の背景には、医師や看護師など医療に関わる免許については、意思疎通などに障害がある者が取得できない場合があってもやむを得ないという考え方があるような気がします。憲法第22条には職業選択の自由(公共の福祉に反しない限り)の規定がありますが、この件に関しては問題ないという解釈なのでしょう。

一方、これは障害者の社会参加を促そうという考え方とは衝突します。緘黙とは直接関係ないかもしれませんが、考えさせられる話だと思いました。