「コミュニケーションは基本的人権」

更新日:2017年11月26日(投稿日:2017年11月26日)
アイキャッチ画像。

イギリスの緘黙団体ホームページに……


「コミュニケーションは極めて重要だ。それは基本的人権である」
ジョン・バーコウ
バーコウ報告


”Communication is crucial, it is a fundamental human right. ”
John Bercow,
The Bercow Report

こんな引用文が、イギリスの場面緘黙症支援団体 SMIRA のホームページに載っています。

掲載されているページは「場面緘黙症について」(About Selective Mutism)。緘黙を解説したページです。SMIRAホームページの中でも最も重要なページの一つと思われます。2015年10月頃のホームページリニューアルから、この引用文が載っています。

↓ SMIRAホームページへのリンクです。
◇ About Selective Mutism
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上の一節は、コミュニケーションを基本的人権であるとまで主張しています。基本的人権とは、人間が生まれながらに有している権利のことです。それを、わざわざSMIRAホームページの重要な箇所で記しているのです。


出典のバーコウ報告とは


引用元の「ジョン・バーコウ」「バーコウ報告」とは何なのでしょうか。

ジョン・バーコウ氏はイギリスの国会議員です(現・下院議長)。2007年、発話・言語・コミュニケーションに支援を必要とする子どもや若者へのサービスについてレビューするよう、子ども・学校・家庭相から指示を受けます。そのレビューが「バーコウ報告」で、2008年に最終報告が出ました。バーコウ報告の諮問グループのメンバーには、SMIRA のアリス・スルーキン(Alice Sluckin)会長も含まれていました。

2008年の報告書なので、そんなに新しいわけでもありません。その中の一節を、SMIRA が、2015年10月頃のホームページリニューアルでクローズアップしたわけです。

↓ バーコウ報告全文。PDF(0.99 MB)。Afasic という団体のホームページ内へのリンクです。
◇ The Bercow Report
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※ PDFを閲覧するには Adobe Reader が必要です。こちら新しいウィンドウで開く)からダウンロードできます。

バーコウ報告には、コミュニケーションは基本的人権であるとする文章が数箇所登場します。そのほとんどの箇所で、コミュニケーションは重要なスキルであるということが前後に書かれてあります。コミュニケーションが基本的人権と考えるのは、コミュニケーションの重要性ゆえということなのでしょうか。

次の一節は、その一例です(16ページ)。

コミュニケーション能力は、21世紀において、全ての子どもと若者にとって必要不可欠なライフスキルである。また、全ての社会的交流の中核である。子どもたちは効果的なコミュニケーションスキルがあれば何かと関わったり成長したりできる。だが、それがなければ、学んだり、目標を達成したり、友人を作ったり、周りの世界と交流したりするのに苦闘することになる。コミュニケーションの重要性は、単なる個人的な価値の表明ではない。ユニセフ、ユネスコ、そしてコミュニケーションを重要な10のライフスキルの一つとして挙げたWHOにより、正式、公式、多機関で表明されている。コミュニケーションは基本的人権である。

The ability to communicate is an essential life skill for all children and young people in the twenty-first century. It is at the core of all social interaction. With effective communication skills, children can engage and thrive. Without them, children will struggle to learn, achieve, make friends and interact with the world around them. The centrality of communication is not simply a personal statement of value. It is a formal, public and multilateral declaration by UNICEF, UNESCO and the World Health Organization, which lists communication as one of the ten core life skills. Communication is a fundamental human right.

バーコウ報告の関心事は、発話・言語・コミュニケーションに支援を要する子どもや若者です。コミュニケーションが基本的人権なら、そうした子どもや若者に対して、コミュニケーションが保障されるべきという話になります。


英国の緘黙関係者の認識は?


コミュニケーションを基本的人権とする考え方に対して、SMIRA はどういう認識なのか、詳しいところは私には分かりません。確かに SMIRA ホームページにはコミュニケーションは基本的人権だと目立つように書かれてはいます。ですが、少なくとも私が知る限り、SMIRA はこの考えを繰り返し主張するとか、そこまでのことはしていません。

SMIRA に限らず、イギリスで緘黙に関わる人で、コミュニケーションは基本的人権だと主張する人も、それほど見たことがありません。

少ない例の一つとして、SMIRAと関わりがあり、イギリスを代表する緘黙支援者の一人であるマギー・ジョンソン(Maggie Johnson)氏が2015年11月、基本的人権について軽く触れています。同氏は、D.J. シャリー(D.J. Sharry)氏の緘黙経験記 Persona Medusa へのレビューを、なんと Amazon.co.uk で書かれているのですが、その中の一節です。

シャリー氏が巧みに疑いもなく私たちに残してくれたのは、私たちの声は何よりも自由を表したものであることだ。基本的人権である。

Mr Sharry skilfully leaves us in no doubt that our voices represent above all else, freedom. A basic human right.

私の語学力が拙いこともあり、よく分からない文章です。私としては、声を出すことは自由に関わることで、それゆえ基本的人権だという解釈です。

↓ Amazon.co.uk へのリンクです。
◇ マギー・ジョンソン氏のカスタマーレビュー
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むすび


もしコミュニケーションが基本的人権なら、「コミュニケーション権」という権利があってもよさそうです。基本的人権は自由権、参政権、社会権に分かれますが、「コミュニケーション権」はこのうちどれに分類されるのでしょう。社会権でしょうか。

『ブリタニカ国際大百科事典』によると、人権は本来対国家権力との関係で成立したものですが、何らかの形で人権保障の趣旨を私人相互間にも及ぼそうとする考え方が顕著になっているそうです。よく分からないのですが、今回の件も、私人間の人権保障の話なのでしょうか。

ですが、本当にコミュニケーションは基本的人権なのかどうかは、私には判断がつきません。私はこの分野には暗いです。

コミュニケーションを基本的人権と考えるのは、緘黙に関わる人だけではないようです。これには、もっと大きな背景もあるかもしれません。ただ、今回の記事ではそこまでは踏み込みません。