BBCの緘黙ドキュメンタリーを見た感想

更新日:2017年12月03日(投稿日:2017年12月03日)
アイキャッチ画像。

日本語字幕つきで放送中


お伝えしたように、イギリスの公共放送BBCによる場面緘黙症のドキュメンタリーが、日本語字幕つきで放送されています。「アワ・ワールド」という番組です。

放送は「BBCワールドニュース」のチャンネルで12月2日(土曜日)に始まり、3日(日曜日)に3回(うち1回は済み)、8日(金曜日)に1回再放送が予定されています。

↓ 放送予定。
◇ Yahoo!テレビ
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放送を視聴するには、テレビの場合、CS放送やケーブルテレビを視聴できる環境が必要です。12月3日(日曜日)に限っては「スカパー!無料の日」なので、スカパーに加入されていない方や、BBCの番組を契約されていない方でも、CS放送の視聴環境さえあればご覧になれます。12月3日(日曜日)は視聴のチャンスです。

また、CS放送やケーブルテレビが視聴できないご家庭であっても、パソコンや携帯端末などでご覧になることもできます。Huluというサイトではリアルタイム配信が行なわれています。また、dTVというサイトでは放送後の配信が行なわれるものと見られます。ただし、どちらのサイトも、視聴には会員登録が必要です。

◇ リアルタイム | BBCワールドニュース(日) | Hulu
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◇ dTVアワ・ワールド 世界は今シリーズ
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この番組は日本以外でも放送されているようなのですが、世界何カ国で放送されているかは分かりません。

さて、私はこの番組の再放送を Hulu などで繰り返し見ました。感想を書いてみたいと思います。

内容


まずは、内容を確認します。ニューヨークで行なわれた緘黙児の集中治療プログラム WeSpeak を取材したものです。5日間にわたるキャンプの模様をカメラに収めています。WeSpeak は10~14歳を対象としたプログラムです。

放送開始直後、英語のナレーションが流れましたが、間もなく日本語の字幕が表示されました。30分番組でしたが、開始12分頃にインターバルを挟みました。


感想


全般


緘黙の深刻さや、親の切実な思いがよく伝わってくる内容でした。支援者の心境までもが語られていました。

ただ、なにしろ発話を目標とした緘黙治療のキャンプという、日本にはない取り組みのドキュメントです。日本の視聴者の中にはこれを見て戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。


翻訳について


日本語字幕には「患者」という、私たちが緘黙を語る上であまり使わない言葉が繰り返し登場します。緘黙児のことを指したものです。ですが、もともとの英語を聴くと、該当箇所で「患者」に相当する英単語 patient や sufferer はほぼ出てこず、意訳かなあと思います。

また、「(緘黙児は)私たちになかなか心を開いてくれません」という、物議をかもしそうな翻訳が出てきます。緘黙児は心を開いてないわけではないとして、小さな問題になったことがあるのです。これも、もともとの英語を聴くと "slow to warm up" と言っており、ちょっと違います。"warm up"は「ウォーミングアップ」という日本語のもとになったと思われる英語表現ですが、心を開く、開かないといった表現では特になく、やはり意訳だろうかと思います。

全体的に無駄を省いた分かりやすい訳なのですが、緘黙に詳しくて日本語が堪能な方がおそらく監修していないのでしょう、私たちにとっては微妙に違和感を覚えてしまいそうな翻訳が一部にないこともありません。


10代向けプログラムは、実は新しい試み


WeSpeak は、新しい試みです。アメリカではこれまで緘黙児を対象とした集中プログラムが行なわれてきたのですが、それはどれも低年齢の子を対象としたものでした。今回のプログラムは10歳~14歳までと対象年齢を上げています。

これは注目すべき動きではないかと私は思います。緘黙というと、これまで焦点が当たってきたのは主に低年齢の子どもで、10代の緘黙については、あまり話題に上ってこなかったからです。

ところが、このあたりの背景については、番組では十分に説明されていませんでした。WeSpeak を取材するという着眼点は非常に面白いのに、もったいないです。また、番組制作者側にここのところの意識がもっと強くあれば、年齢が上の緘黙児ならではの取り組みにも焦点が当たったかもしれないのに、と思います。


発話練習について


今回の放送では WeSpeak に初めてカメラが入るというので私は期待していました。番組を見たところ、現場の雰囲気は伝わってきました。また、プログラムについてある程度要点は抑えているようにも思えました。

ただ、プログラムの詳細までは分かりませんでした。背景となる考え方や理論にも、踏み込み不足だったような気がします(例えば、なぜ5日間のキャンプ形式で集中的に行なうのかなど)。このため、番組を見るだけでは、ただ発話練習しているだけのようにも見えました。ですが、WeSpeak がただ発話練習するだけのプログラムのはずがありません。緘黙児に無理に発話を促すのは逆効果になることも多いことは、専門家の間では常識だからです。

私は WeSpeak のモデルとなったと思われるプログラムについて少しかじったことがあるのですが、そのプログラムでは、緘黙児が発話しやすいよう工夫がなされていました。この工夫がポイントで、この点は WeSpeak にも踏襲されていそうだと番組を見て感じたのですが、予備知識がない方には十分には伝わらなかったかもしれないと思います。

一般向けの30分のテレビ番組で、WeSpeak の詳細について解説を求めるのは過大な期待かもしれません。ですが、緘黙児者については、発話を強要される不適切対応を受けたという話を聞くこともあるので、このあたりはもう少し何とかならなかったのだろうかと思います。


「緘黙の克服には、不安になる状況と向き合うしかない」


場面緘黙症を克服するには不安の原因と向き合うしかありません。

番組の本編だけでなく、冒頭にも登場するこの一言。もともとは "The only way to get over selective mutism is to confront it, and to confront the situation that makes us anxious." です。

私なら、次のように訳すかもしれません。

「場面緘黙症を克服するには、不安になる状況と向き合うしかありません」

もともとこの発言をした人は、不安になる状況に敢えて身を曝すしかないと、言わんとしたのではないかと思います。重箱の隅をつつくような指摘をしてしまいましたが、これは WeSpeak の基本的な考え方の一つと思われる大事な箇所です。

そういえば、例えばイギリスの本 The Selective Mutism Resource Manual(第2版)にも、ほぼ同じことが書かれてありました。「徐々に恐怖に直面することが、恐怖を払いのける唯一の方法である」(gradually facing fears is the only way to banish them)という文があるのです(Johnson and Wingtgens, 2016, p.162)。おそらく専門用語で言うところの「エクスポージャー」「暴露療法」についての話で、緘黙支援では重要な考え方です。

最近、日本で色んな人の話を見ていると、緘黙児者に対しては、不安を和らげる環境作りが大事だということが強調されていると感じます。それはもっともなことなのですが、それを前提に、適切な条件の元で不安に身を曝すことも大事なことではないかと、番組を見て改めて考えさせられました。

最後に、取材に応じた当事者や保護者の皆様に、敬意を表したいです。番組の中では、当事者が家庭場面で話している映像まで流れていました。なかなかできることではありません。こうした方の協力無しには、番組は成り立たなかったことでしょう。