緘黙児の受容・表出言語スキルを高める新しい本(海外)

更新日:2018年01月20日(投稿日:2018年01月20日)
アイキャッチ画像。
場面緘黙症支援の本としてはこれまでにない本が、2017年11月にアメリカで発売されました。

この本はサイズが大きく、我が家にあるタウンページより大きいです。私が今まで買った緘黙の本の中では最も重量があり、我が家の量りで1.4Kg近くもあります。一般的な緘黙の和書は0.3~0.5Kgほどですから、その数倍です。ページ数も多く、私が所有する紙製の緘黙の本では最多の554ページに及びます(ただし、大きな空白があるページも多いです)。その分高価だったのですが、皆様が場面緘黙症Journal で本などを買ってくださったおかげで、入手できました。ありがとうございます。

私はまだこの本を読んでいる最中なのですが、読み終えるには時間がかかりそうなので、とりあえず速報として今回お伝えします。

本の基本情報


書名


本の題名は、Expanding Receptive and Expressive Skills through Stories: Language Formulation in Children with Selective Mutism and Other Communication Needs です。私は専門家ではないのでよく分からないのですが、訳すと、『物語を通じての受容・表出スキルの拡大-場面緘黙症や他のコミュニケーションに支援を要する子どもの言語構成』といったところでしょうか(少し自信ありません)。

著者


著者には、Klein,‎ R.L., Armstrong,‎ L.S., Gordon,‎ J., Kennedy,‎ D., Satko,‎ G.C., Shipon-Blum, E. といった方が並んでいます。

この多くは、フィラデルフィア近くにある民間の緘黙研究施設 Selective Mutism Research Institute や治療研究センター SMart Center(Selective Mutism Anxiety Research & Treatment Center)の関係者です。2つの施設は同じ場所に位置していて、関係が深いです。SMart Centerは、かんもくネットの Knet資料でもお馴染みです。

また、本書の著者には、言語聴覚士など、ことばの問題を専門とする方が多いです。フィラデルフィアにあるラサール大学の教授が2名、同大学で博士号を取得した方が2名です。

出版社、出版年月日


出版社は、Plural Publishing です。2017年11月の発売ですが、本には、2018年出版ともとれる記載があります。


本の概要


緘黙の子どもには、ことばの問題を併せ持つ子がいます。本書はそうした緘黙児に児童文学を読み聞かせ、問いに対して非言語的手段や言語的手段で段階的に答えさせることを通じて、受容言語スキル(言われたことを理解するスキル)と表出言語スキル(話すスキル)を高めるためのマニュアルです。このプログラムを、本書は「エクスプレス」(EXPRESS)と名づけています。

この本に先立つ研究として、Klein,‎ R.L. 氏らによる2013年に発表された論文があります(Klein et al. 2013)。フィラデルフィアの緘黙治療専門施設(おそらくは SMart Center)にかかっていた5歳から12歳までの33人の緘黙児に対してアセスメントを行なったものです。その中で、緘黙児は自分で物語を語る検査の点数が低いという結果が出ています(検査は専門家ではなく訓練された親が行なったにもかかわらず)。今回の本の中では、その研究により、緘黙児に次の問題が確認されたと例示されています(2ページ)。

○ センテンス毎に十分な数の単語を使うこと
○ 複合的で複雑な構文を使うこと
○ 聞いたばかりの物語を自分で語り直すこと
○ 見た絵から物語を作ること
○ 考えを伝えるために想像力を働かせること
○ decontextualized language(※)を用いて情報を伝達すること

※ すみません、どう訳せばよいか分かりません。

エクスプレス・プログラムは、この研究を受けて開発されました。

エクスプレス・プログラムは、緘黙がある子のために開発されたものですが、他のコミュニケーションに問題を抱える子や、英語を第二言語とする子に対しても、この本は使えるとしています。


コメント


こうしたことばやコミュニケーションの問題(と言えばよいのでしょうか)と緘黙の関係については、あまり聞いたことがないという方もいらっしゃるかもしれませんが、英語圏では以前から取り上げられていました。昨年、イギリスの本の邦訳『場面緘黙支援の最前線』が出版されましたが、その第5章で「場面緘黙とコミュニケーション障害の併存」が解説されたことから、日本でもようやく知られ始めているかもしれません。なお、この第5章では、先の Klein 氏らによる2013年の論文が繰り返し引用されています(本では2012年の論文とされています)。

Klein 氏らによる先の研究では、緘黙児の受容言語スキルには特に問題は確認されなかったと私は読み取ったのですが、この本ではその受容言語スキルの拡大も図っています。他の先行研究には受容言語スキルに問題がある緘黙児の存在を示唆するものがあるため、そこのところを考慮したのかもしれません。

それにしても、この本を読んでいると、緘黙支援はどこまで行われるべきなのだろうかと考えさせられます。ただ声が出るようになったら支援を打ち切るのではなく、年齢相応の表現で、筋道立てて、自ら話せるようにまでなるまでは支援が必要なのか。私自身は、だいたい後者の段階にまで至った時に、とりあえず自分は緘黙(診断は受けていませんが)を克服したと考えています。