『春が来たら、桜の花びらふらせてね。』を読んで

更新日:2018年04月30日(投稿日:2018年03月03日)
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以前ご紹介した新刊『春が来たら、桜の花びらふらせてね。 』(涙鳴著、スターツ出版、野いちご文庫)を読み終えました。場面緘黙症の女子高校生が主人公の小説です。

この本はフィクションですので、ある意味、ファンタジーとして読むのがよいのだろうと思います(実際、この話の男子高校生はちょっとかっこよすぎます!)。ですが、この本を読んで緘黙について少し考えさせられたことがあるので、そのことについて書いてみることにします。

緘黙児者の心の傷


「いい育ち方をされましたね」

この小説を読んで、まず、ある方にこう言われたことを思い出しました。

その方がおっしゃるには、緘黙を経験した人の中には、話せないことでいじめを受けるなどして、成長後も心の傷を抱えている人もいるとか、だいたいそんなお話だったと思います。

富条さんはそういうこともなく育ってこられたんですね、とその方はおっしゃりたいようでした。ですが、私だっていじめには遭いましたし、話せないことで辛い思いはたくさんしてきました(そうは見えないかもしれませんが……)。そのためか、「性格がねじれている」と繰り返し指摘された時期もあります。

※ なお、私は緘黙の正式な診断は受けていません。

緘黙児者の心のケアといえばよいのでしょうか、そうした問題については、緘黙支援の専門書はあまり扱っていないのではないかと思います。書かれてあることといえば、緘黙児者を最終的に発話に持っていく。あるいは、その人らしさを発揮できるようにする。そのための方略が中心です。もしかすると、緘黙支援の専門書で扱う内容でもないのかもしれません。

今回の小説は、緘黙がある女子高校生・冬菜の内面の問題を丁寧に掘り下げて描いており、その点考えさせられました。これは、緘黙がある人物を主人公とした小説だからこそ、できたことだろうと思います。

なお、どれだけの緘黙児者が、話せないことで心の傷を負ってきたのかは、はっきりとは分かりません。もしかしたら、周囲の理解に恵まれ、楽しい思いをたくさんしている緘黙児者もいるのかもしれません。


活発な同級生の関わり


主人公と並んで重要な登場人物である夏樹は、冬菜にかなり積極的に関わっています。

緘黙児者一般については分からないのですが、私が学校で話せなかった頃も、私とよく関わった同級生はこのように活発でちょっと強引なタイプの人が多く、面白く読みました。逆に、大人しいタイプの人とは、そもそもコミュニケーションが成り立ちにくかったです。

私自身が極端に受身だったため、行動的な同級生に引っ張ってもらうことによって、ようやく人と関わることができたことも多いです。今回の小説でも、夏樹は冬菜の活動場面の拡大に大きな役割を果たしています。ただ、発話までの過程は、小説ゆえかちょっと早回しかもしれません(フィクションは時々そうなのですが、作品全体として、もし専門家の監修がつけば、緘黙の書き方に少し影響があったかもしれないと思う部分はあります)。

こうしたアグレッシブな人は、一緒にいると正直落ち着かないと感じることも多々ありましたが、私のことをよく理解してくれる人については必ずしもそうではありませんでした。夏樹も、冬菜にとってそういう存在だったに違いありません。

↓ この小説のイメージソング、シュウと透明な街さんの『桜、花びら』です。緘黙とは関係ない歌ですが、恋愛の歌としてクオリティが高いです。再生回数も多いです。


同級生との人間関係に焦点


今回の小説では、このように同級生との人間関係に焦点が当たっています。ここが、緘黙の子どもや若者を主人公とした話の面白さです。

緘黙というと、教師や親や専門家がどう支援するかが中心的な話題になります。ですが、これは大人の視点の話です。当事者の視点に立つと、また違った景色が見えてくるはずです。

辛い思いをしてきた冬菜の心の傷を癒せたのが、カウンセリングの専門家ではなく同級生たちだったのも、単なるドラマ特有の展開以上に示唆するものを感じ、考えさせられました(※専門家の役割を否定するつもりはありません)。


新刊情報のミニ広告にも「場面緘黙症」


それにしても、本を手にとって書籍化されたことの重みを感じます。この物語の初出は「ケータイ小説サイト 野いちご」なのですが、本には新たに花芽宮るるさんの綺麗なイラストやミニ漫画が添えられました。

本の裏表紙には、あらすじとして「限られた人以外の前では言葉が出なくなってしまう"場面緘黙症"の冬菜は…」と書かれています。この文は、同じスターツ出版から今月発売されたケータイ小説系の本に共通して挿入されているものと見られるミニ広告にも載っていました。本の出版が緘黙の認知度に与える影響は、思ったより大きそうだと感じました。

さらに、出版に合わせてイメージソングも作られています(先ほどの動画です)。この曲を収録したCDアルバムの発売も決まっています。

最後に、作者の涙鳴さんは、「あとがき」の中でも緘黙について訴えてくださいました。感謝の念に耐えません。涙鳴さんは緘黙の方のブログをご覧になっていたそうで、作品の中でも緘黙のブログについて触れられる箇所があります。