40年前、日本で緘黙児の合宿が行なわれた

更新日:2019年09月02日(投稿日:2019年09月02日)
アイキャッチ画像。
※ 上の画像は、緘黙合宿とは無関係です。念のため。

アメリカを中心に広がる集中プログラム


アメリカを中心に、場面緘黙症の集中プログラムやキャンプが、世界各地で行なわれています。

例えば、夏季に週5日間程度、学校に似せた環境を作り、そこでグループ形式で発話などを行なうのです。やみくもに発話を促すのではなく、緘黙児者にとって取り組みやすい方法で行ないます。合わせて、親向けの教育も行ないます。

この集中プログラムの有効性を検証する研究が、ついこの間発表されました。「ランダム化比較試験」という信頼性が高い方法で検証された初めてのもので、予備的研究とはいえ注目されます。この研究が出たことにより、一つの「エビデンス」(治療法の有効性の根拠)ができました。集中プログラムは新たな段階に入ったのではないかと思います。

↓ その研究。PDFファイルで全文読めます。377KB。フロリダ国際大学の集中プログラムBrave Bunchの研究とみられます。Kurtz Psychologyウェブサイトへのリンク。
◇ Intensive group behavioral treatment (IGBT) for children with selective mutism: A preliminary randomized clinical trial.
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この集中プログラムやキャンプは、アメリカ国外でも実践されてきました。最近では、アルゼンチンのMutismo Selectivo Internacionalが、COMUNIAMIGATEという同種のプログラムを、自国だけでなく、スペインやメキシコでも行なうなどと盛んに宣伝しています。

↓ その宣伝の一部。
◇ COMUNIAMIGATE en MADRID, ESPAÑA! ...
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◇ EN SEPTIEMBRE EN BS. AS.- Argentina...
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また、今年の8月には、ポーランドでも3日間の日程で行なわれたようです。

↓ ポーランドのプログラムの情報。
◇ WAKACYJNY TURNUS dla dzieci z mutyzmem wybiórczym i ich rodzin | Rodzina | Artykuły | Poradnia Terapii Mutyzmu "Mówię"
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40年前の日本で、緘黙児の合宿プログラム


こうした世界の流れは、日本には入ってきているのでしょうか。少なくとも私が知る範囲では、集中プログラムを実施したという話も、あるいは計画中だという話も、聞いたことがありません。

ただ、これとは趣を異にするのですが、緘黙児を対象とした合宿が日本で行なわれたことがあるという論文を読んだことがあります。それも、今を遡ること40年前、1970年代末の話です。興味深いのでご紹介します。

◇ 安倍順子 (2002). 緘黙児の心理査定-心理教育プログラムの実践を通して-. 九州社会福祉研究, 27, 15-23.

※ 1970年代末に行なわれた合宿を、2002年に分析した研究です。

合宿プログラムの概要を、論文より少し書き出します。

プログラムの概要


期間;197X年 8月3日~8月6日(3泊4日)
場所;某県少年自然の家(渡船の必要な島に立地)
方針;子どもグループの活動は遊びやゲーム中心で、緊張をとき、感情表出を促す。親グループでは、自由な話合いの中から相互の支え合いや気づきをめざす。
参加者
(1)スタッフ;8名
(2)参加児童;8名(緘黙児6名、姉妹児2名)
(3)保護者;6名(母親5名、父親1名) 


集中プログラムとの共通点


この合宿は、今日海外で実施されている集中プログラムやキャンプと共通する点があります。といっても、海外のプログラムも全て同じ内容ではありませし、私は全てを把握しているわけでもないのですが、だいたい共通しているのではないかと思う点をいくつか挙げてみたいと思います。

まず、夏季に複数の緘黙児を集めて行なっている点です。やはり夏休みのような、学校が長期にわたって休みの時期でなければ、何日間にもわたるプログラムは実施できません。また、この時期だからこそ、こうしたプログラムの実施には意義があるのではないかとも思います。せっかく学校で緘黙が改善傾向にあっても、長期休暇を挟んでしまうと、休み明けには後退してしまうかもしれないからです。

また、参加児童と同等の数のスタッフが同行している点も、共通しています。スタッフがマンツーマンで支援に当たったのでしょう。それにしても、よくこれだけのスタッフを集められたものです。

それから、保護者もともに参加し、子どもとは別の支援が提供されている点も共通しています。やはり子どもが何日間にもわたって家を離れるとなると、保護者も同伴というかたちになるのでしょう。その結果、合宿所に緘黙児の保護者が多数集まるという状況ができるわけで、その状況が、有効に活用されています。それにしても、70年代末に緘黙児の保護者が6名も集まっていたとは、親の会はなかったであろう当時としては、極めて珍しかったのではないかと思います。


集中プログラムとの違い


一方、今日の海外の集中プログラムやキャンプと異なる点もあります。まず、遊戯療法を志向していることです(論文では「遊戯療法オリエンテッド」という表現)。海外では、行動療法や親子間相互交流療法が軸です。

スケジュールも朝から晩まで本当に一日中です。スタッフは、お風呂まで一緒に入ったようです。

きょうだい児(姉妹児)が少数ですが混じっている点も、違いとして挙げられます。合宿には保護者も同伴するので、一緒に連れて来られたのかもしれません。合宿では、姉妹児が参加者の緘黙児と仲良くなり、積極的に話しかける場面もあったそうです。

そして、保護者向けの支援が自由な話し合いである点も、違っています。今日の海外の集中プログラムでは、親向けの教育が行なわれています。これには、プログラム終了後も、緘黙改善につながる関わり方ができるよう、親を指導する狙いもあるようです。


その他、読んだ感想


その他、少年自然の家で合宿した点は、なるほどそういう活用可能な資源もあったと気付かされました。ただ、場所が場所だけに、緘黙児の他にもたくさんの宿泊者がいたそうです。

それから、この論文は心理査定(アセスメント)の視点から論じられています。合宿プログラムを通じて、個別の心理療法場面ではみられない生活場面(食事場面、入浴場面、就寝時の場面等)でのチェックも可能であると等の指摘もあります。今日海外で行なわれる集中プログラムは治療が目的なので、この視点は意外に感じました。


1回限りの試行的なものだった


この合宿は、1回限りの試行的なものだったそうです。合宿中に緘黙が改善した子も複数いたのですが、このため、その効果が学校場面に広がることはなかったそうです。

その40年後の今日、海外では集中プログラムやキャンプが盛んに行なわれています。私は専門家ではありませんが、今にして思うと、合宿という着想はよかったかもしれないだけに、1回限りで終了したのはもったいなかった気もします。