緘黙児が、挨拶言葉が苦手な理由

更新日:2020年02月29日(投稿日:2020年02月29日)
アイキャッチ画像。
なぜ場面緘黙症の子どもは、挨拶言葉が苦手なのか--

イギリスのチャイルドセラピスト Lucy Nathanson氏は2月24日、その理由と対策について動画配信の中で説明しました。

↓ その動画です。Facebookライブの過去配信分より。動画が自動再生するかもしれません。
◇ Selective Mutism: why certain words are more tricky (hello / goodbye / please / thank you / sorry) - Confident Children - Selective Mutism Therapy
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Lucy Nathanson氏は緘黙を専門とする方で、支援活動の一環として、このように緘黙に関する動画を多数公開しています。同氏を頼りにしている方は世界中にいて、今年の初めにはオーストラリアやタイまで支援に行ったそうです。Facebookページのフォロー数は5,000件以上で、これは日本で最もフォロー数が多いかんもくネットの倍以上に上ります。

さて、動画の中で、Lucy Nathanson氏は、緘黙児が挨拶言葉が苦手な理由を4つ挙げています。簡単にまとめてみます。

挨拶言葉が苦手な4つの理由


理由1:プレッシャーを与える言葉だから(1分23秒頃~)


挨拶をしないと無作法だとみなされてしまいます。挨拶言葉は、緘黙児にとってプレッシャーを与え、不安を引き起こす言葉だからと、Lucy Nathanson氏は述べています。


理由2:挨拶言葉を使わない経験をよりたくさん重ねてきたから(2分28秒頃~)


挨拶を求められる

挨拶できず、固まる

親など、誰かが助ける

緘黙児の不安が減る

「自分は挨拶ができない」と学習する

緘黙児は、こうした経験をよりたくさん重ねてきているとLucy Nathanson氏は述べます。同氏は、「負の強化」 (negative cycle of reinforcement) という学習心理学の概念らしき言葉を持ち出して説明しています。こうした経験と、挨拶言葉を緘黙児は結びつけてしまうのです。


理由3:自分から言い出さなければならないから(4分28秒頃~)


Lucy Nathanson氏が挙げる挨拶は、自分から言い出さなければならないものです。このように自分から言い出す発話は、緘黙児にとって特に難しいからという理由です。相手の話に返事をする方が、比較的しやすいです。


理由4:ウォーミングアップの時間がないから(5分43秒頃~)


ウォーミングアップの時間なしに、挨拶をしなければならないからという理由です。


コメント


Lucy Nathanson氏の見解


今回の動画で、Lucy Nathanson氏は、緘黙児が挨拶言葉が苦手な理由はああだ、こうだと断定的に話しています。ですが、Aimee Kotrba氏らが述べているように、本当に緘黙児は挨拶言葉が苦手なのかどうか、そしてその理由については、研究で明らかになっているわけではないのではないかと思います (Kotrba and Saffer, 2018)。私見を話しているだけでしょう。

今回の件に限らず、専門家が断定的に言い切ると、その内容を私たちは安易に信じてしまいがちですが、注意したいところです。

とはいえ、これまでの緘黙の理解をよく踏まえた説明で、説得力を感じます。また、緘黙児が挨拶言葉が苦手な理由をここまで詳しく述べた人を、少なくとも私は見たこともありません。Aimee Kotrba氏らの著書に少し書かれているのを見たことがある程度です (Kotrba and Saffer, 2018)。


理由2の「挨拶を言葉を使わない経験をよりたくさん重ねてきたから」について


理由2については、Aimee Kotrba氏らもほぼ同様のことを述べています (Kotrba and Saffer, 2018)。同氏らは「過剰訓練」? (over-practice) や「回避」 (avoid) という、学習心理学の概念らしき言葉を用いて説明しています。

これは、以前お話しした、緘黙行動が維持・強化されるサイクルが、挨拶場面でも起きているということでしょう。

↓ そのサイクルです。
負のサイクル

なお、この図は英語圏では頻出に近いです(本などによって図の書き方は若干異なります)。Lucy Nathanson氏もAimee Kotrba氏らも、当然これを念頭に、緘黙児が挨拶言葉を苦手とする理由として挙げたものと思われます。

理由3の「自分から言い出さなければならないから」について


この理論だと、同じ挨拶でも、例えば日本語の「おはよう」に対して、「おはよう」と返すなど、相手からの挨拶に対して挨拶を返すのは比較的易しいことになります。そうかもしれません。