この状況で、どうステップを踏むのか

更新日:2020年04月06日(投稿日:2020年04月06日)
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これまで前提としてきた社会環境が、大きく揺らいでいる


これまでの場面緘黙症支援のやり方が、通用しなくなっているのではないか--私は専門家ではないのですが、こういう素朴な疑問を持ち初めています。

というのも、これまで私たちが支援の前提としてきた社会環境が、大きく揺らいでいるからです。長期にわたる臨時休校、外出の自粛や制限、社会的距離戦略、オンライン学習や在宅勤務の拡大など、国や地域によって濃淡がありますが、新型コロナイウルスの感染拡大により、私たちを取り巻く状況が一変しています。

特に、緘黙治療でよく採用される、いわゆるスモールステップの取り組みはどうなるのだろうと思います。少しずつ発話場面を拡大して治してゆく、「エクスポージャー」などと言われるものです。これは、今日のような状況だと、実施は困難ではないでしょうか。

例えば、「緘黙は、緘黙が現れる場面で治す」と、どなたか海外の専門家が述べているのを読んだ覚えがあります。学校で話せないのであれば、スモールステップで学校で話せるよう持って行くわけです。ところが、少なくない学校が、臨時休校を続けています。

また、海外では、複数の緘黙児や保護者、専門家を集め、集中プログラムや治療キャンプを通じてエクスポージャーを図る取り組みが行われてきました。ですが、社会的距離戦略がとられる今、そのようなことは可能でしょうか。

↓ ニューヨークで行われた Brave Buddies という集中プログラムの YouTube動画。緘黙児と大人(おそらく心理関係のスタッフ)がペアになり、密集しています。
◇ Curing Kids with Extremem Social Phobias - YouTube
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新型コロナウイルスの問題は、いずれは収束し、元の社会環境が戻る日が来るのでしょう。ですが、いつ収束するかは分かりません。来年に持ち越すなど、長期化するシナリオもあり得ないではありません。そうすると、今の状況は非常時の一過性のものと軽視することはできなくなります。


この状況に対応した治療法


このような社会環境の急激な変化を受けて、海外の専門家の間には、今の状況に対応した緘黙児者の治療法をインターネットを通じて伝える動きもあります。こういうものは本で出版したり、研修会のようなものを開いたりして伝えていては間に合わないので、ここはネットの出番です。

その概要については、以前の記事「新型コロナ、緘黙関係者の対応」でお伝えした通りです。

例えば、イギリスの Confident Children は「コロナウイルスのパンデミックが発生する中の場面緘黙児への支援」(Helping children with Selective Mutism during the Coronavirus pandemic) と題する解説を行いました。

◇ イギリスの Confident Children による解説
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ごく簡単に書かれたものとしては、ポーランドの Polskie Towarzystwo Mutyzmu Wybiórczego が次のような投稿を行っています。

◇ Polskie Towarzystwo Mutyzmu Wybiórczegoによる解説
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最近公開された新しいものとしては、Boston Child Study Center による「COVID-19に立ち向かう:場面緘黙症の若者への提案」 (BRAVING COVID-19: Suggestions for Youth with Selective Mutism) があります。

◇ Boston Child Study Center による解説
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色々書かれてありますが、一言で言うと、Confidence Children の言う「デジタルエクスポージャー」でしょう。つまり、SkypeやZoomなど、インターネットによるオンライン通話やテレビ会議を活用したり、あるいは録音や録画したものを誰かに送ったりして、人と関わったり、これまで話せなかった相手に少しずつ話せるようにしたりしていこうということです。


治療の基本原理は変わっていない


これらを見ると、少しずつ発話場面を拡大して治してゆくという基本原理は変わっていないことが分かります。主に現実世界で行っていたことを、オンライン上などで行うようにしただけです。

アメリカの SMartセンターという緘黙の治療センターが考えるこの状況下の治療法も、従来行ってきた S-CAT という支援プログラムの応用らしく(この治療法の詳細は限定公開なので、詳しくは知りません)、やはり原理は変わっていないようです。

↓ SMartセンターの治療法に関する情報があります。
◇ Treatment Group: General S-CAT Principles Adapted for Pandemic
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打つ手が限られる中、できることを


ただ、先ほどの Confidence Children が「私たちが今できることには非常に限りがある」(We are very restricted in what we can do now) と述べるなど、感染拡大の影響が深刻な国や地域では、打つ手は限られているようです。今回ご紹介したデジタルエクスポージャーも、その緘黙児者に合うかどうかは、ケースバイケースのようです。

「これまでの場面緘黙症支援のやり方が、通用しなくなっているのではないか」という冒頭の私の疑問は、当たらずとも遠からずなのかもしれません。

そんな中、前向きに、なんとかできることを探していこうというのが、今回ご紹介した海外の専門家たちの姿勢です。