シンガポールの緘黙の男性が書いた本

更新日:2020年07月13日(投稿日:2020年07月12日)
アイキャッチ画像。
シンガポールの場面緘黙症の男性が書いた本が電子書籍化され、日本でも手に取りやすくなりました。私にとっては、前から読みたかった本です。早速読み終えたので、感想を書いてみます。

本の基本情報


著者:Nigel Ng Qin Wei
書名:Silence Is Not Golden
副題:Real-life story of a young Singaporean living with selective mutism
出版社:Nigel Ng Qin Wei
出版日:2016年12月(紙の本)
出版日:2020年6月23日(電子書籍Kindle)
ページ数:141
言語:英語

著者は、場面緘黙症の22歳男性です。小学3年生の頃より緘黙が13年続き、今でも専門家の支援を受けています。現在、フルタイムで就労しています(以上の情報は、2016年12月当時のものです)。

書名を訳すと、『沈黙は金ではない-場面緘黙症とともに生きる、ある若いシンガポール人の実録』といったところでしょうか。


本の概要


本書は、主に著者のこれまでの人生を、緘黙を軸に時系列に振り返ったものです。

また、それとは別に、序盤に緘黙の概説、中盤にシンガポールにおけるメンタルヘルス理解の現状、終盤にはまとめのような内容も少し挟んでいます。ちょうど本の真ん中あたりには、著者の子どもの頃からのカラー写真の数々が挿入されています。

比較的シンプルな英文で書かれており、読みにくくは感じませんでした。


感想


シンガポールの話だが、日本にも通じる


本書はシンガポールの本ですが、全体として、著者が経験した緘黙ゆえの困難は、私たちと根本的な違いはないように感じました。

本書には、私たち日本人には馴染みが薄いシンガポールの学校制度や、学校慣習?の話も出てきますが、こうした文化面の違いは、そういう意味では気にせずに読みました。


著者が受けた専門的な支援が書かれてある


緘黙経験者の半生記という意味では類書が、日本でも出ています。最近出た主なものでは、『かんもくの声』『かんもくって何なの!?』『私はかんもくガール』などです。これらの本では、著者が緘黙のことで専門家の支援を受けた経験は描かれなかったと言ってよいのではないかと思います。

ですが、今回の本の著者は、これまで何人もの専門家の支援を受けており、そのことが本の中で語られます。このことにより、著者が意図したことではないのでしょうが、様々な支援や治療について、利用者の立場から論評したようなかたちになっています。これは日本の類書にはない特徴です。例えば、長い目での支援が必要な緘黙児に対して、専門機関の方針により担当者が4~6ヶ月毎に交代した話があります。支援のあり方が問われそうな話です。

それにしても、長年専門家の支援を受けていながら、成人になっても緘黙が治っていないというのは、何とも……(改善はしているようなのですけれども)。

また、著者は緘黙の診断を受けていて、まだ緘黙が治らない段階で、自分が場面緘黙症である事実を知っています。これも、最近の日本の類書にはない特徴です。緘黙と診断された際、母親はそれを素直に受け取ろうとしなかったという、緘黙の受容(障害受容)について考えさせられる場面もあります。


緘黙と徴兵制


本書は成人の緘黙者が書いたものですが、学校場面の話が多く、仕事など成人特有の話はあまりありませんでした。著者は本の刊行時まだ22歳だったので、無理のないことなのかもしれません。

ただ、兵役義務のことが書かれてある章があったのには、目を引きました。シンガポールには徴兵制があって、全ての若い男性は2年間兵役に服さなければならないのです。日本ではもちろんですが、海外でも緘黙関係者の間で兵役義務について話題になることは、そうないように思います。ですが、国や地域によっては、緘黙が長期化すると、兵役義務にどう向き合うかは問題になりそうです。

著者の場合、緘黙があったからでしょう、健康診断の結果、兵役は免除されました。兵役の免除は著者本人も、担当の精神科医も望んだことでしたが、免除を知らせる手紙が届いたとき、著者は複雑な気持ちだったそうです。兵役が務められないことから、自分は能力がないとか、弱いと見られるのではないかと動揺したというのです。私も学校で話せなかった頃は、自分が無能なのではないか、弱いのではないかとずいぶん悩んだものです。兵役が務められないとなると、そうした悩みはひときわ深まりそうです。


著者は一人ではない


私がこの本を手に取って驚いたのは、本の冒頭に並ぶ、推薦文の数々です。その推薦文を寄せたのは、著者の友人や家族、著者が通う専門機関のスタッフ、他の本の著者などです。

著者は緘黙への無理解やいじめ被害などで長年苦しみ続けた上、日本のように緘黙当事者同士の交流の機会にも恵まれませんでした。ですが、緘黙の理解が乏しいシンガポールで、この22歳の若者が緘黙の本を出版する際、これだけの人が推薦の言葉を贈って応援したのです。シンガポールの多くの緘黙児者が、このように周囲の理解や支援をより得られるようになることを願っています。

※ シンガポールと言えば、昔はオンライン上で緘黙のコミュニティがありました。また、児童心理学者のDaniel Fung氏という方が、緘黙サイトを運営されたりもしていました。最近は、どうなったのでしょうか。


動画版


↓ 本書の動画版です。YouTubeに公開された動画。4分59秒。


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