新刊『話せない私研究』
更新日:2020年12月12日(投稿日:2020年12月12日)

場面緘黙症の新しい本が出版されました。ご紹介したいと思います(お待たせしました)。
本の基本情報
著者:モリナガアメ
解説:高木潤野
書名:話せない私研究-大人になってわかった場面緘黙との付き合い方-
出版社:合同出版
出版日:2020年11月20日
ページ数:242
モリナガアメさんは、緘黙を経験された方です。既刊に、コミックエッセイ『かんもくって何なの!?
合同出版は過去にも『かんもくって何なの!?』『イラストでわかる子どもの場面緘黙サポートガイド
本の概要
本書は、緘黙を経験したモリナガアメさんによるコミックエッセイです。前作『かんもくって何なの!?』では、モリナガアメさんが話せるようになった場面も描かれました。ですが、会話への苦手意識や感覚過敏など、関連する問題は残りました。その後、「場面緘黙を知ってからの約5年間で生きやすくなるために私が考えた事・行動した事」(9ページ)を描いたのが本書です。主な舞台は職場です。
全13話の構成です。緘黙経験記は時系列にまとめた本が多いですが、今回の本は「話せない私研究」というテーマゆえか、時系列への拘りは若干薄めです。テーマ別に話をまとめているのだろうかと思える箇所もあります(誤読していたらごめんなさい)。ですが、ストーリー性もあります。
各話の合間に「教えて高木先生」と題して、長野大学の高木潤野准教授の解説が挿入されています。全8カ所、各1ページあります。
本書は、pixiv(ピクシブ)というイラストコミュニケーションサービスなどで連載していた漫画作品『「話せない私」を考える-元かんもく少女のその後の話-』がもとです。前作を読んでいない方でも支障なく読めそうです。
感想
ある程度話せるようになった後のことがテーマ
本書は、緘黙経験者がある程度話せるようになった後のことがテーマです。こうした本は、私が知る限りこれまでにありません。緘黙はマイナーなテーマだと思うのですが、今回の本は、さらにマイナーなテーマを掘り下げているように私には思えます。出版不況と言われて久しい中、よく出版に至ったものです。
前作やpixivがよほど好評だったのかもしれません。いわゆる緘黙の後遺症への関心が高まっているのかもしれません。コロナ禍で巣ごもり需要が見込まれたのかもしれません。あるいは、緘黙が徐々にマイナーではなくなって、それに伴い緘黙の書籍市場の規模が拡大し、多種多様なテーマを扱った緘黙の本が出るようになってきたということなのかもしれません。
やや現在進行形に近い話
これまでの緘黙経験記は、30歳前後ぐらいの経験者が、子どもの頃からのことを振り返るものが多かったです。このため、どうしても話の多くにタイムラグ(時間差)がありました。昭和末期や平成初期に子ども時代を過ごした方の緘黙経験記が、近年出版されています。本の執筆は、大人になってからでなければ取りかかりにくいからだろうと思います。
今回の本はタイムラグが少なく、やや現在進行形に近い話です。
ご自身のことを観察
私は今作をpixiv連載時より読んでいましたが、1冊の本としてまとめて読むと、モリナガアメさんは実に鋭敏な方だと感じます。これは緘黙経験者にある程度共通した特徴なのかどうかは、私には分かりません。
モリナガアメさんは、ご自身のことをとてもよく観察されています。自己分析が鋭いです。いわば、もう一人のモリナガアメさんが、一段高いところからご自身の考えや行動などを俯瞰し、客観視されています。「メタ認知」と言ってよいのか分かりませんが、そうしたことに秀でていらっしゃるのでしょう。
そして、その記述も巧みです。モリナガアメさんが2冊も本を出されたのは、ただ単に漫画が描けるからというだけではないことが分かります。
あと、人間関係の細やかな話が、私にはやや多めに思えました。偏見かもしれませんが、このあたり、女性的な感性を感じました(モリナガアメさんは女性、私は男性)。モリナガアメさんは、周囲の人についても、よく見ています。職場環境の話は、複数の職場を経験したことがよく生きています。
話が具体的なので、モリナガアメさんが行動に移したことを、自分も取り入れてみようという方はいらっしゃるだろうと思います。
一つの生き方を提示
なお、私も学校で話せなかった経験を持つ者ですが、モリナガアメさんのように、極限のような状態には至りませんでした。また、自分の話せなさについて、そこまで強く意識もしません。そして、自分と「普通」を対比させて「普通にならなければ」と考えたこともそうなく、だいぶ違いを感じました。そもそもモリナガアメさんと私とでは、学校等で話せなかった期間、併せ持つ問題、性格、それまでの経験、価値観などで違いが多いです。
このあたりは、人それぞれなのかもしれません。緘黙経験者は多様で、こうした違いにこそ意味があるようにも思います。私としては「こういう方もいらっしゃるんだ」と勉強になりました。本書は一つの生き方を提示したものとして高く評価されるのでしょう。
書籍リンク
関連リンク
◇ 「話せない私」を考える-元かんもく少女のその後の話 - pixiv
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