少数の臨床家に殺到する緘黙児者

更新日:2021年04月03日(投稿日:2021年04月03日)
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場面緘黙症の相談・受診のため、緘黙児者やその保護者が、少数の臨床家のもとに殺到。パンクする時も--

以前から、こうした現象が起こることがあるようです。というのも、臨床家やその臨床家が所属する医療機関が、SNSやウェブサイト等で、こうした状況を明かしているのを目にしたことが何度かあるのです。中には、わざわざ遠方から、そうした臨床家を頼る人もいるそうです(今はコロナの影響で状況が変わったかもしれませんが)。

ただし、私はこうした実態を直接知っているわけではないので、間違っていたら申し訳ないです。それにしても、これは一体どういうことなのでしょう。

臨床家が不足している?


もしかすると、緘黙の相談・受診に対応できる臨床家が不足しているのかもしれません。実際、日本に数多くいる臨床家の中には緘黙の理解に乏しい人もいるという認識が、緘黙児者やその保護者の間である程度広がっているように感じます。

これは言い換えれば、緘黙の相談・受診の需要に対して、供給が追いついていないということです(過少供給)。需要と供給の話となると、経済学の出番です。教科書的な考え方をすると、価格メカニズムが十分に働く市場だと、賃金の上昇を通じて、臨床家の過少供給は解消されるはずです。しかし、緘黙の相談・受診は価格メカニズムがなじまなさそうな分野です。こうした市場の調整機能は働きにくいのかもしれません。

緘黙に対応できる臨床家が不足しているのであれば、臨床家に緘黙を知っていただくことや、臨床家用のマニュアルの普及、臨床家の育成といったところが課題になりそうです。ただ、近隣分野の発達障害でも、初診の診察に何ヶ月待ちとか半年待ちといった話を以前から聞くことがあり、解決への道のりは険しいかもしれません。


臨床家の情報が不足している?


そうではなくて、本当は緘黙の相談・受診で高度な能力を持つ臨床家がたくさんいるのに、それが知られていない可能性も考えられます(経済学の概念で言うと「情報の不完全性」)。その結果、メディアなどの露出が多い少数の臨床家に、相談・受診が集中という現象が起こっているのかもしれません。

実際、緘黙児者や保護者が殺到する臨床家は共通して、露出が多いです。数々のメディア出演歴があったり、著書を出していたり、緘黙に関するイベントに何度も登場したりしています。そうした活動は、臨床家本人が意図する、しないにかかわらず、宣伝の効果を持ちます。しかし、このような臨床家は、ごく一握りしかいません。こうして、少数の臨床家のもとに殺到という現象が起こるのかもしれません。

この場合、テレビなどに出ている臨床家以外にも緘黙の相談・受診ができる臨床家が存在することや、具体的な専門機関の情報を、利用者に広めることが課題になりそうです。


相談・受診が少ないから、臨床家も少ない?


それも違って、実は緘黙の相談・受診は少なくて、このため、それに対応できる臨床家も少ないという可能性も考えられます。日本では、緘黙児者は500人に1人ぐらいの割合と言われており、最近の小学校を対象とした研究でもそれを裏付ける結果が出ています。緘黙児者はそんなにたくさんいるわけではありません。

加えて、緘黙は「大人しくて問題ない」などと見過ごされることがあると指摘されています。こうした場合、相談・受診には結びつきません。


どちらにしろ、わざわざ県をまたいでテレビや新聞に出たことがある臨床家に会いに行かなくても、地元の専門機関で適切な支援を受けることができれば一番よいと思います。