厚労省「患者調査」で、緘黙の患者数が推計される
更新日:2023年05月30日(投稿日:2023年04月17日)

厚生労働省が実施する「患者調査」で、場面緘黙症の調査も行われていたことを知りました。それも、かなり以前から行われています。私が確認できた最も古い患者調査である平成8年の調査では、既に緘黙は調査対象に含まれています。
患者調査とは、病院および診療所を利用する患者について、その傷病の状況等の実態を明らかにし、医療行政の基礎資料を得ることを目的に行われるものです。標本調査で、調査間隔は3年ごとです。
最新の患者調査は、令和2年のものです。この令和2年の調査では、細かく分類すると、8,000以上の傷病の調査が行われています。このうち緘黙については、以下のことが明らかになっています。
推計患者数・再来患者の平均診療間隔
総数:0.1
入院:0.0
外来:0.1
外来(初診):-
外来(再来):0.1
平均診療間隔:31.9
※ 単位は千人。平均診療間隔のみ、単位は日。
緘黙の推計患者数は100人という推計です。大半は外来の再来で、平均診療間隔は31.9日です。
なお、ここで言う推計患者数とは、「調査日当日に、病院、一般診療所、歯科診療所で受療した患者の推計数」のことだそうです。もっとも、歯科診療所は、ここでは考えなくてもよいのではないかと思います。
推計退院患者数、在院期間
-
-は、計数がないことを意味します。入院患者数が0.0人と推計されていたので、退院患者数もこういう結果になったのでしょう。
総患者数
2
※ 単位は千人。
緘黙の総患者数は2,000人という推計です。推計患者数とは違い、最小単位は千人です。つまり、100人単位以下の端数までは記載されていません。なお、この調査では、単位未満は四捨五入されるそうです。
なお、ここで言う総患者数とは、ある傷病における外来患者が一定期間ごとに再来するという仮定に加え、医療施設の稼働日を考慮した調整を行うことにより、調査日現在において、継続的に医療を受けている者(調査日には医療施設で受療していない者を含む)の数を次の算式により推計したものだそうです。
総患者数=推計入院患者数+推計初診外来患者数+推計再来外来患者数×平均診療間隔×調整係数(6/7)
緘黙の推計患者数100人と、総患者数約2,000人というのは大きな違いです。おそらく前者は、調査日に医療施設で受療している患者のみ。後者は、調査日に受療していない者も含めた患者数ということではないかと私は解釈しています。
なぜこんなに少ないのか
推計患者数100人とか、総患者数約2,000人とか、少なすぎるのではないかと一見思えます。なお、他の年の患者調査と比較するとこれでも多い方で、過去には総患者数0人の年も何度もありました。
緘黙児の出現率は調査が行われてきましたが(梶正義・藤田継道両氏らによる調査など)、小学校で0.2%程度ではないかと見られています。「文部科学統計要覧(令和2年版)」によると、小学校の児童数は、令和元年で6,368,550人です。この数字で単純に計算すると、小学生だけで約13,000人の緘黙児がいるはずです。先ほどの数字とは大きな開きがあります。
なぜ患者調査だとあんなに少ない数字なのでしょうか。私は専門家ではないのでよく分からないのですが、おそらく、患者調査の対象となるような医療施設(例えば、小児科、精神科)で受療していない緘黙児者が多いからではないかと思います。見過ごされている緘黙児者がいるとか、専門家の相談は受けてはいるものの医療施設での受療は受けていない緘黙児者がいるとか、緘黙を診ることのできる医師が不足していて受療にまでは至っていない緘黙児者がいるとか、医療施設で診てもらう必要はないと判断されている緘黙児者がいるとか、そういったところが原因として考えられます。
こうして考えると、患者調査からは、緘黙児者の被支援状況の一端が垣間見えるように思えます。
医師国家試験の出題範囲検討の参考にされた
なお、先日、医師国家試験出題基準のお話をしましたが、この試験で緘黙をどう扱うべきか検討された際、「患者調査」による総患者数の推計が参考にされました。医療施設で受療する患者数の多寡を参考に、試験での扱いを決めようということでしょう。
緘黙については、6人のワーキンググループメンバーのうち4人が、緘黙は出題範囲から削除するのが妥当としたものの、出題範囲として残ったことについては、先日お話しした通りです。
◇ 先日の記事「医師国家試験出題基準と緘黙」
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↓ 医師国家試験出題基準の検討。別表の中で、患者調査が引用されてます。PDF。5.09MB。厚生労働科学研究成果データベースへのリンクです。
◇ 門田守人・伴信太郎. (2021). 医師国家試験出題基準の改定に向けた提言のための研究. In 門田守人 (Eds.), . ICTを活用した卒前・卒後のシームレスな医学教育の支援方策の策定のための研究 (pp. V-1-V-4).
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