「緘黙テキサス」でなく「血掟テキサス」
更新日:2023年05月22日(投稿日:2023年05月22日)

ゲームのキャラクターの日本語訳
スマートフォン向けゲーム『アークナイツ』に、「緘黙テキサス」と呼ばれるキャラクターがいるというお話を、以前このブログでしました。
『アークナイツ』は中国発のゲームで、中国版(大陸版)のキャラクター名は「缄默德克萨斯」といいます。日本版では当時は未登場だったので、ユーザーが非公式に日本語に訳して「緘黙テキサス」と呼び、将来の日本版での登場を期していたようです。
「緘黙テキサス」という訳には、私が見た範囲ではごく一部ですが、疑問の声もありました。緘黙は、場面緘黙症を意味する言葉として使われることがあるからです。
これに対しては、私は全く不適切とは思わないという私見をこのブログに投稿しました。
↓ その時の記事です。
◇ 「緘黙テキサス」に思うこと
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「血掟テキサス」に決定
5月15日、ついに日本語版に登場することが決定したのですが、キャラクター名は「緘黙テキサス」ではなく、「血掟テキサス」となりました。血の掟により沈黙するというところから、こうした日本語訳になったようです。
「緘黙テキサス」とはならなかった詳しい経緯については知る由もありません。もしかすると、「血掟」の方が格好いいからとか、「緘黙」は読みにくいからといったシンプルな理由かもしれません。
ただ、お話ししたように、「緘黙」は場面緘黙症を想起させることから、不適切という声がごく一部から上がってはいました。最近明らかになったのですが、ある緘黙の当事者がこれに深く悩んで、運営者に問い合わせをしていたそうです。こうしたことも関わっていた可能性もあります。
↓ このキャラクターに対するファンの声。名称についても。
◇ コメント/血掟テキサス - アークナイツ攻略 Wiki
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「緘黙」はもともと、押し黙っていることを意味する言葉です。一般的な国語事典にも意味は載っていますし、文学作品でも古くから登場します。
「場面緘黙症」の「緘黙」はそこから派生した専門用語なのですが、今では「緘黙」というと、そちらを意味することが多くなってしまいました。その結果、緘黙当事者への配慮から、単に押し黙っている意味での「緘黙」が使われにくくなってきてはいないだろうかと思います。特に現代は、ポリティカル・コレクトネスへの意識が重視されている時代です。
「緘黙」は、折口信夫『死者の書』や中島敦『李陵』といった、文学作品の古典にも登場する豊かな日本語表現の一つです。それが上記のような理由で使いにくくなり始めているのだとしたら、複雑な思いです。場面緘黙症の認知度が上がった負の一面なのか、それとも場面緘黙症という命名が悪かったのか。
なお、医学的には、場面緘黙症以外にも「緘黙」という用語は使われることはあるそうです。「無動緘黙」など。