有名人の声明に、緘黙

更新日:2023年08月22日(投稿日:2023年08月22日)
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有名人の告白


韓国の有名DJ「DJ SODA」さんが、大阪の音楽イベントで性被害に遭ったと訴えて大きなニュースになっています。そのDJ SODAさんが21日(月曜日)に声明を出したのですが、この中で、場面緘黙症について触れられていました。英語の声明文にも selective mutism と書かれているので、間違いありません。

この声明は、国内外の一部メディアでも取り上げられています。

↓ DJ SODAさんのX(旧Twitter)アカウントへのリンクです。
◇  声明文(日本語版)
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↓ DJ SODAさんのX(旧Twitter)アカウントへのリンクです。
◇ 声明文(英語版)
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↓ メディアに取り上げられた例。毎日新聞ウェブサイトへのリンクです。
◇ 「服装に責任転嫁してはいけない」 DJ SODAさんがメッセージ
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ただ、DJ SODAさんには失礼ですが、場面緘黙症にかかったというきっかけを読むと、これは場面緘黙症とは別のものの可能性はないかという疑問も私には湧きます。しかし、私はDJ SODAさんを診たわけではありませんし、専門家でもないので、大きなことは言えません。


場面緘黙症ではなく、PTSDが疑われた例


似たケースと言えるかどうか分かりませんが、米国のマヤ・アンジェロウ(Maya Angelou)さんのケースを私は思い浮かべます。アンジェロウさんは、米市民に与える最高位の勲章である「大統領自由勲章」をオバマ大統領より授与された著名人です。詩人、教育者、歴史家、作家、女優、劇作家、人権活動家、プロデューサー、ディレクターなど様々な肩書をお持ちの方でした。

そのアンジェロウさんは、性的虐待を受けてから場面緘黙症になったと告白されていました。しかし、米国の認定心理学者で、大手緘黙支援団体の理事長も務めた エイミー・コトルバ(Aimee Kotrba)氏は、アンジェロウさんが話せなかったのは場面緘黙症ではなく、PTSDの症状の可能性があるとの見方を著書の中で示しています(エイミー・コトルバ, 2019)。


誤解


これまでの研究を見ても、性的虐待のような外傷体験が原因で場面緘黙症になるという科学的根拠はありません。話せなくなったのだとしたら、それは場面緘黙症ではなくて、別の何かの可能性も含めて慎重に考えたいです。

しかし、英語圏では、緘黙児はこうした心的外傷を負っているという誤解が多かったそうです。フィクションの影響かもしれません。米国の精神科医スティーブン・ダミット氏は、これを「ハリウッド版緘黙症」(Hollywood version of mutism)と名付け、「よくある神話」(Common Myths) の1つに挙げていました(Dummit, n.d.)。こうした誤解は、理解の妨げになります。


このようなことを述べて申し訳ないが……


DJ SODAさんがかかったという場面緘黙症について、場面緘黙症への誤解が広まって欲しくないという思いから、私なりに思うところを付け加えました。ただ、繰り返しますが、私はDJ SODAさんを診たわけではありません。また、専門家でもないので、診断については大きなことは言えません。だいたい、Xの投稿だけでは断言することはできません。

DJ SODAさんは今までこの事実を誰にも話さず、隠して生きてこられたそうです。今回の告白には、並々ならぬ思いを込めたに違いありません。それだけに、私がこのようなことを述べるのは申し訳ない思いもあります。