場面緘黙症と人的資本論
更新日:-0001年11月30日(投稿日:2009年12月22日)
■ 経済学者による ADHD の予後調査
先日、私はアメリカの経済学者が著した ADHD(注意欠陥多動性障害) の予後調査の論文を読んでいました。技術的なところでよく分からない箇所があったのですが、概要はなんとか把握できたのではと思います。
Currie, J., and Stabile, M. (2006). Mental Health in Childhood and Human Capital. http://www.aeaweb.org/annual_mtg_papers/2007/0107_1015_1701.pdf
それにしても、なぜ経済学者が ADHD に着目したのでしょうか。その答えは、「人的資本」にあります。
■ 人的資本とは
人的資本とは、経済学の専門用語で、人間が持つ知識や技能のことです。人間を、企業が所有する物的資本(機械、設備等)に見立てた考え方です。物的資本は、機会や設備に投資を行うことにより蓄積されますが、同じように、人的資本は、教育や訓練といった人的資本投資により蓄積されると考えます。
人的資本が蓄積された労働者は、生産性が上がります。詳しい説明は省きますが、労働者の生産性は、その労働者の賃金と大きく関係しています。生産性の高い労働者は、賃金も高いです。また、一国経済全体を見ると、労働者の生産性が向上すると、経済成長にプラスに働きます。
■ 人的資本と ADHD
上の論文の著者は、ADHD という障害を持つことが学業の妨げになっていないか、つまり人的資本の蓄積を妨げていないか、そうしたことを調べています(上述の通り、人的資本は教育や訓練を行うことにより蓄積されます)。それで、経済学者が ADHD に着目したわけですね。
人的資本という概念は経済学者の間では非常によく知られていますが、それを子どものメンタルヘルスの問題と絡めて論じるのは、これまであまりなかったようです。
■ 場面緘黙症と人的資本論
私のようなへなちょこ経済学士が言うのもなんですが、今回の論文を読んでいると、場面緘黙症の研究でも、経済学が寄与できるかもしれないと思えてきます。場面緘黙症であることにより、学業面で何らかの影響があれば、それは人的資本蓄積の面で問題になるかもしれません。また、これも人的資本と関わりがあるのですが、教育課程を終えたその後の労働の問題、例えば緘黙経験者の失業率とか、(非)正規雇用者の割合とか、そうした問題になると、ますます経済学が果たす役割が期待できそうです。
何はともあれ、子どものメンタルヘルスと人的資本を関係付けているのが面白いと思いました。