緘黙者への職場の理解
更新日:-0001年11月30日(投稿日:2010年06月22日)
だからこそ、緘黙の早期発見、早期介入が重要なのですが、それがうまくいかず、就労の時期にまで緘黙を持ち越した場合、果たしてどうすればよいのでしょうか。青年期まで持ち越した緘黙を一朝一夕に治すことは簡単ではなさそうです。
あまり会話を必要としない、黙々とできるような仕事に就くというのが、考えられる手の一つです。これについては、経済のグローバル化などにより、こうした仕事は減っているという気になる話を聞くことがあります。もっとも、これについてはしっかした根拠を私は見たことがなく、事実かどうかは分かりません。第3次産業(サービス産業)の就業者数とその割合が長期的に見て増えているのは統計で見ると明らかな事実ではありますが、では会話が必要とされる仕事がそれだけ増えているのかというと、ちょっと分かりません。
しかし、会話があまり必要でない仕事に就くことができる人ばかりとは思えません。また、どのような仕事に就くにしろ、多かれ少なかれ、職場では会話が必要な場面が出てくることでしょう。
■ ハンバーガーショップで、身ぶりサインで仕事を行った緘黙者
さて、前回お話したとおり、ある方から緘黙と職業に関する情報をいただきました。「自閉症者の職業上の諸問題に関する研究」という研究報告に、緘黙者への職業指導を行った事例が載っているというのです(梅永ら, 1998)。場面緘黙症と診断された16歳男児ユキオ君(仮名)が、「全国にチェーン店を持つハンバーガーショップM社」でアルバイト実習をしたのですが、その指導事例です。緘黙と職業に関する研究はなかなか見かけず、それだけにこれは貴重な文献です。情報をいただいたことは大変ありがたいです。
職業指導を行った主体は、はっきりとは書かれてはいないのですが、研究報告全体から推察して、前回お話した「地域障害者職業センター」と見られます。なぜ自閉症の研究で緘黙症の話が出ているのか、気になります。自閉症と緘黙症は違うものです。
この M社でのアルバイトは、通常であれば、先ほどお話したような黙々とできる仕事ではありません。ですが、ユキオ君には身ぶりサインを使うよう指導することによってコミュニケーションを図り、作業を遂行させることに成功しています。作業内容が簡易だからこうした方法がとれたなど留意しなければならない点はありますが、緘黙者でも、言語的なコミュニケーションがとれない点をカバーすることができれば、立派に仕事をこなせるのだと考えさせられます。
■ 職場の理解
このような特別な配慮があると、緘黙者としては働きやすいでしょう。誤解を恐れず言えば、私などは羨ましさを感じます。
こうした特別な配慮がなされたのは、地域障害者職業センター(おそらく)の指導があったからです。また、実習を行ったM社にも障害に対する理解がありました。「M 社では実習を行うことになった店舗には『心身障害者店舗実習受け入れについて』という小冊子を従業員に配布し、その中には『障害者を理解するために』という項目まで設け、店舗全体が一丸となって障害者を受け入れていこうと努力」していたというのです。
職業リハビリテーションの研究としては、これはこれでまとまっています。
ただ、緘黙ブロガーの私としては、気になることがあります。職場で緘黙者がこのような特別な配慮を受けられることは稀ではないかと思うのです。職場で緘黙を理解されず、職場で苦しい思いをしている緘黙者が少なくないのではないかと思います。上の事例のユキオ君にしても、実習ではこのような配慮を受けましたが、実習を終えていよいよ働く段階になると、どうなるのでしょう。
言語コミュニケーションが求められる職場で、緘黙の人たちがスムーズに仕事をこなすには、いったいどうすればよいのでしょうか。上の研究のように、なんとか職場に理解を得られれば……とも思うのですが、簡単ではなさそうです。働いているうちに緘黙は消えたという話をどこかで聞いたことがあるのですが、そういう人ばかりでもありません。
[文献]
◇ 梅永雄二, 坂井聡, 志賀利一 (1998). 自閉症者の職業上の諸問題に関する研究. http://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/houkoku/houkoku26.html
◇ 大村豊 (2006). 選択緘黙-成人期への影響- 精神科治療学, 21(3), 249-256.