大人の緘黙支援で求められるものは?

更新日:2017年11月02日(投稿日:2016年06月29日)
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場面緘黙症がある人は、子どもだけではありません。緘黙が長期化したまま成人になった人もいます。ですが、大人の当事者への支援は乏しいのが現状のようです。

大人の当事者にはどのような支援が求められるのでしょうか。こうしたことは、私などよりも、当事者の方たちが発信した方が説得力がありそうですが、私なりに考えてみることにします。

理解と配慮


就労支援


大人の当事者の場合、就労という大きな問題があります。文献上では、ハローワークで紹介されいくつか就職試験を受けたものの、面接で全く話せないため採用されなかった「一般就労が難しい」成人期の緘黙者の事例の報告があります(大村、2006)。

こうした当事者のために、何らかの支援があればと思います。

就労支援といえば、5月25日に改正発達障害者支援法が成立しました。これにより、発達障害者に対して国・都道府県が就労支援を行うことや、事業主が適切な雇用機会を確保することなどが求められることになりました。これは緘黙と関係してくるのでしょうか。


学校、職場での理解と配慮


大人の当事者の場合、大学などの高等教育機関に通学していたり、就労していたりしている方も多いでしょう。そうした場で、緘黙に対する理解と配慮を得ることができればと思います。

緘黙があっても「話す必要のない社会環境(仕事)があれば、十分適応していくことが考えられる」という指摘もあります(丹治、2002)。

学齢期の当事者の場合、教員を対象とした研修を行なうことで、学校場面で理解と配慮が得られるようになるかもしれませんが、就労している当事者の場合、このあたり難しさを感じます。広く一般向けに啓発活動を行うか、個別に理解を求めるかする必要がありそうです。

2016年4月1日に施行された障害者差別解消法では、公的機関は、障害者に「合理的な配慮」を行なうことが法的に義務化されました。また、民間事業者には努力義務化されています。合理的配慮の流れは緘黙にもきていますが、成人の緘黙者に対する高等教育機関や職場での合理的配慮としては、どのようなことが考えられるのでしょうか。そのあたりのノウハウが蓄積されてほしいです。

5月25日に成立した改正発達障害者支援法では、事業者は、個々の発達障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことにより、その雇用の安定を図るよう努めることとされました。これは緘黙と関係してくるのでしょうか。


治療法の確立


年齢が下の緘黙児については、特に海外では行動療法が行われてきた実績があり、その方法を示した本が日本でも一般向けに発売されています。ですが、大人の当事者については、こうしたことはありません。大人の緘黙者についても、治療法の確立が求められます。

確立された治療法がないのであれば、既存の治療法で何か役立つものはないのでしょうか。緘黙と比較される社交不安障害の治療法は役立つのでしょうか。


当事者会


大人の緘黙に特化した当事者会があればよいかもしれません。心情の共有や情報の交換などができそうです。SNS には大人の緘黙をテーマにした集まりがあるようなのですが、詳しくは知りません。


まとまった情報


そして、大人の緘黙に関するまとまった情報が欲しいです。例えば、利用可能な社会資源の情報にはどのようなものがあるのか。既存の治療法で役立つものの情報はないのか。

情報が乏しいので、私もよく分からないまま、手探りで今回の記事を書いています。


文献


◇ 大村豊(2006)「選択緘黙-成人期への影響- 」『精神科治療学』21(3)、249-256。
◇ 丹治光浩(2002)「入院治療を行った選択性緘黙児の長期予後について」『花園大学社会福祉学部研究紀要』10、1-9。

大人の緘黙症の大規模調査(英)

更新日:2017年11月05日(投稿日:2015年03月11日)
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成人期に緘黙を経験した83人を調査


大人の場面緘黙症をテーマとした200ページ超の修士論文が、インターネット上で一般公開されています。実は、この論文を書いた方ご自身が、大人の緘黙を経験された方です(英国の方です)。論文は、昨年話題になった緘黙の本の中でも紹介されています。

論文の題名は、 Selective Mutism in Adults: An exploratory study(成人期の選択性緘黙:予備的研究)です。iSpeak という、主に10代後半の若者や大人の緘黙者を対象とした支援団体のホームページ上に公開されています。

↓ ちゃんとした書き方

iSpeak. (2013, October). Selective Mutism in Adults (MSc Dissertation). Retrieved from iSpeak.org.uk: http://www.ispeak.org.uk/Download.ashx?PDF=/Downloads/PS7112_Dissertation.pdf

論文の内容は、18歳以上で緘黙を経験した83人(うち79人が調査時点でなお緘黙)にオンラインによるアンケート調査を行い、その結果をもとに、予め立てた緘黙に関する様々な仮説を検証したものです。83人が住む国は英国だけでなく11の国におよびますが、英国と米国がそのほとんどを占めています。





大人の緘黙症、国内の研究を見る(6・終)

更新日:2017年11月06日(投稿日:2014年12月27日)
アイキャッチ画像。写真素材サイトPAKUTASOより。
大人の緘黙症、国内の研究を見る(5)」の続きです。前回に引き続き、大人の緘黙症に関する国内研究を、私なりになんとか総括しようとしています。

予後の指標、大井ら(1979)の緘黙分類


大人の緘黙症に関する研究といえば、大井ら(1979)による緘黙の分類が引用されたことがあります(大井ら、1982;丹治、2002)。

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※ 大井らの緘黙分類
Type I:社会化欲求型
家族以外にコミュニケーションを自ら求めるもの。家庭ではおしゃべり。予後は良好。

Type II:社会化意欲薄弱型
家族以外にコミュニケーションを自ら求める意欲に乏しいが、受動的には求めるもの。家庭でも無口。予後はあまりよくない。

Type III:社会化拒否型
家族以外にコミュニケーションを拒絶するかの如く求めないもの。家庭内でも選択的に沈黙。予後は暗い。
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大井らの緘黙分類は予後を測る指標でもあります。 特に、予後が悪い Type III や Type II は、大人の緘黙症を考える上で注目したいです。実際、大井らは青年期の緘黙5症例を取り上げたのですが、これは上記分類の TypeII に該当するものです(大井ら、1982) 。

荒木(1979)の緘黙分類


これと似たものに、荒木冨士夫氏による緘黙の三分類があります(荒木、1979)。大井氏ら自身、後に「われわれのものとほとんど一致しているように思われる」と述べています(大井ら、1982)。

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第I群:積極的依存型
甘えと攻撃性をともに十分に発揮。治療導入は容易。さらに Ia と Ib の細分類がある。

第II群:消極的依存型
甘えや攻撃性はあっても少なく、消極的。さらに IIa と IIb の再分類がある。

第III群:分類気質型
甘えが全くなく、攻撃性は破壊的攻撃というかたちであらわれる。治療導入は困難で、予後はよくない。全緘黙(的)。
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大井らの分類とほぼ同じものであることから、荒木の分類も予後の指標とも考えられます。荒木の研究では、初診年齢24歳男性の事例があるのですが、これは予後の悪い第II群に分類されるものです(荒木、1979)。

ただ、大井ら(1979)の分類も荒木(1979)の分類も、多様な緘黙児の状態像を記述しきれていない可能性が、近年指摘されています(臼井ら、2013)。

自閉症スペクトラムとの鑑別


大井らの分類で言う Type II と、荒木の分類で言う第II群は、自閉症概念が拡大した今日では自閉症スペクトラムを含むのではないかという指摘が出ています(大村、2006;渡部ら、2009)。

青年期以降で話せない場合、米国精神医学会の診断基準でいう選択性緘黙よりも、自閉症圏や統合失調症圏、感情障害圏をまず考えるのが自然だそうです(大村、2006)。緘黙と自閉症スペクトラムの鑑別は重要ですが、大人の緘黙症については特に注意したいです。

今後の展望


何より、大人の緘黙症に関する研究の数が少ないです。今の段階では、大人の緘黙症について分かることは少ないです。なんとかならないものだろうかと思います。

英語圏においても緘黙に関する既存の研究には小学校入学前や小学校の緘黙児に関するものがほとんどなのですが、その不足を補うことを一つの狙いとして発表されたのが、今年出た英国の本 Tackling Selective Mutism: A Guide for Professionals and Parents 収録の研究です(Roe, 2014)。緘黙支援団体 SMIRA の会員と協力して10-18歳の緘黙者の調査を行なっています。

また、83名もの成人が参加し、そのうち79名がいまなお緘黙という大人の緘黙症の研究があるのですが、これは複数の緘黙支援団体のウェブサイトなどを通じて当事者の募集を行なって実現したものです(Sutton, 2014)。

このように、支援団体の協力を得る方法もあります。複数の団体の協力を得てもよいです。

それから、大井ら(1979)、荒木ら(1979)の緘黙分類は予後の指標でもあり、関連する研究で報告されている大人の緘黙症は予後不良なタイプが多いのですが、この分類の妥当性には近年再検討が行なわれており、今後の議論の行方によっては大人の緘黙症の理解に影響が出るかもしれません。

結び


私の力量不足で、「大人の緘黙症に関する研究の数が少ない」ぐらいしか展望を書くことができませんでした。もっとちゃんとした方が、ちゃんとした場で、展望を発表する日が来ることを期待して、結びとします (あなた任せのひどいオチで、すみません……。「ともかくもあなた任せの年の暮れ」小林一茶の句ですが、意味が違います) 。

なにはともあれ、よいお年をお迎えください。

文献